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5/27 NBAバレエ団「死と乙女」

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作曲家の新垣隆に音楽を委嘱し、舩木城が振付を担当したNBAバレエ団の新作「死と乙女」。新垣のピアノ演奏と和太鼓の第一人者である林英哲の太鼓演奏による音楽、全く新しいバレエを作ろうという意欲と情熱が感じられた公演だった。

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http://www.nbaballet.org/performance/2015/sitootome/

第一部「和太鼓」 
演出・作曲:林 英哲
振付:宮内浩之 
林 英哲
英哲風雲の会(上田秀一郎、はせきみた、田代 誠、辻 祐)
阪本絵利奈

最初のパートで、白いレオタードに着物を羽織った阪本絵利奈さんが太鼓の周りを駆け抜けソロを踊ったほかは、太鼓の演奏にフォーカス。阪本さんの美しい肢体は鮮烈な印象があったものの、本当に一瞬で、もう少し太鼓と絡むシーンがあれば良かったかもしれないと感じた。大太鼓を中央に据えたセットがあり、林さんの独奏で始まるが、その後英哲風雲の会の4人も太鼓を運び込み、演奏を繰り広げる。

林さんと4人の掛け合いとなるが、同じ太鼓という楽器でもリズムの違いや叩き方によって音色は違うのでスリリングな応酬となる。そして、太鼓を叩くというパフォーマンスは、ダンスを踊っている姿にも似ていると感じた。よく鍛えられた上半身の演奏者たちは、動きも統一感があって、その演奏する姿もとてもスタイリッシュで視覚的にも楽しめた。太鼓のフォーメーションも途中で変化し、両側を太鼓に挟まれた奏者たちが、その両方を叩いたり、セットの上にいた林さんが下りてきて、4人の間に入って演奏するなど、動き自体も変化に富んでいて面白い。


第二部「ケルツ」
ケルツ Celts
振付:ライラ・ヨーク
演出:久保紘一

Green Man 高橋真之 
Red 竹田仁美、大森康正
Brown 佐々木美緒、三船元維
Men's Dance 大森康正、河野崇仁、清水勇志レイ、土橋冬夢、皆川知宏、米倉佑飛
英哲風雲の会(上田秀一郎、はせきみた、田代 誠、辻 祐)

96年にボストン・バレエで初演されたライラ・ヨーク(元ポール・テイラー・カンパニー)の作品。ボストン・ケルティックスのハーフタイムショーで踊られたり、昨年もボストン・バレエ再演されるなど北米で人気のあるレパートリーのようだ。
アイリッシュダンスをベースに、クラシックバレエ、さらにモダンダンスの要素も入れたり、ソロ、パ・ド・ドゥ、男性ばかりのダンス、群舞と構成も巧みで楽しめる作品となっている。グリーンマンの高橋真之さんの軽やかで細かい足捌き、竹田仁美さんの跳躍力と見事な身体能力、それを見事に受け止める大森康正さんのサポートと、リードダンサーたちの技術は素晴らしい。アイリッシュダンス特有の一列になっての独特の群舞。
赤いキルトに上半身裸の男性6人が繰り広げる格闘技ダンスは、ちょっと「トロイ・ゲーム」風で楽しく、そしてここで再び英哲風雲の会の4人が登場して、和太鼓の伴奏が響いてよりハードは雰囲気となる。アイリッシュダンスと和太鼓という不思議な組み合わせも、上手くマッチしていた。しっとりとして、クラシックバレエ的な佐々木美緒さんと三船元維さんのパ・ド・ドゥは美しく、群舞も伴いながら、女神の幻に翻弄される男性の姿を描いていたようだった。ラストは、22人の群舞が生き生きと躍動した。

ボストン・バレエが「ケルツ」をリハーサルする映像


第三部「死と乙女」

振付 舩木城
音楽 新垣隆
ピアノ 新垣隆
和太鼓 林 英哲
浅井杏里、大森康正、岡田亜弓、 清水勇志レイ、鈴木恵里奈
関口祐美、高橋真之、竹内碧、竹田仁美、土田明日香、 三船元維
峰岸千晶、森田維央、柳澤綾乃、 米倉佑飛

このような斬新なバレエ作品を日本で観ることができるなんて。大変興奮させられる熱い舞台だった。舞台セッティングも大胆で、舞台後方の高い台が左右に設けられ、右には新垣さんとピアノ、左には林さんと太鼓。

新垣さんの楽曲は、途中でローリング・ストーンズの「ペイント・イット・ブラック」や、「レ・シルフィード」で使われているショパンの音楽を引用するといった遊びも入れつつ、変拍子も使ったり、ジャズ的なアレンジもあったり、モチーフも変化して展開していき大変ユニークで、音楽として聴いているだけでもスリリングで楽しめる。そして、新垣さんと林さんの丁々発止の演奏が凄まじい。林さんの演奏が凄いのは言うまでもないが、新垣さんのピアニストとしてのテクニックの見事さには唖然とした。よく考えてみたら、ピアノというのも打楽器なのであり、この二人の掛け合い的なサウンドが、絶妙なリズムのハーモニーを生み出しているのである。新垣さん、噂通りの天才だ。

ダンサーたちは皆白い衣装。袴状の長いものもあれば、ユニタードあり、パンツあり、スカートあり。レースのように透ける地模様入りのもの、チュール、サテンなど素材も様々で凝っておりセンスも良い。白塗り寄りのメイクで、ちょっとゾンビを思わせるようなアイメイクを施していて、モノトーンで統一され、エゴン・シーレの「死と乙女」を連想させるような「死」の気配を感じさせるし、ポーズもそこから引用したイメージ。ピアノとドラムスを浮かび上がらせるような照明も凝っていて美しいが、反面、ダンサーを見分けるのはなかなか難しい。さすがに久保紘一さんは存在感もたっぷりあり、年齢を感じさせない高く鮮やかな跳躍が鮮烈だったし、パ・ド・ドゥでの表現力も印象的だった。

舩木さんの振付は、地を這うようなところから始まり、ダンサ―たちが舞台上をスピーディに駆け抜けたり、複雑なリフトをしながら横切っていくといった群舞の使い方がとてもユニークで、そのハードな振付にダンサーたちもよく応え、エネルギッシュで疾走感のあるステージを作り上げていた。少しだけ、「春の祭典」のイメージがある。その中にデュオ、トリオ、ソロが配置されていくが、群舞の強いエネルギーほどのインパクトはない。しかし女性ダンサーが大声を上げて泣いてみたり、ダンサーたちが、白塗りメイク越しでもわかるような大胆な表情を見せたりと、殻を破るような感情表現が見られた。愛、死、喜怒哀楽、陰と陽、エロスとタナトゥス、様々な感情がカオス的に、ノンストップのように交錯する舞台。その中でもエロスより、タナトゥス、死に寄ったダークな力をより感じられた。観客として観ている間も心拍数が上がり、エキサイトしている間に40分ほどの作品があっという間に終わっていた。

ただ、もう少し静と動、緩急のメリハリをつけたほうが良いような感じも受けたし、カオス的なところを整理し、死、だけでなく愛、の表現を深めていく必要も感じられたところがある。エゴン・シーレの本質にまでは迫ることはできていない。まだ生まれたての作品で音楽も振付も新しい作品、これから再演を重ねることで磨き上げられて、さらにクオリティを上げられるのではないかと思った。

だが、バレエ・リュスを思わせるような豪華コラボレーションによる新作を民間のバレエ団が一から作り上げたというのは素晴らしい心意気だ。何しろ音楽が凄いし、振付もオリジナリティが感じられるし、関係者、出演者の情熱が込められていて観る側の胸も熱くなってしまうような、凄まじいエネルギーがある。和太鼓を使っていることもあり、日本発の作品として世界に持っていけるようなクオリティとなるポテンシャルがある。ダンサーたちのレベルも技術、表現力とも非常に上がっていて、独特の世界を作り上げてくれた。面白い作品だし、力作だし、再演を切望する。


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