「シアタス・カルチャー」で映画館上映されているロイヤル・バレエの上演、DVDと同じ映像の「マノン」、そして先日の「アリス」は体調不良でパスしたけど、それ以外はなんだかんだとほとんど見に行っている。公演の映像はもちろんだけど、インタビューや舞台裏など特典映像が楽しめるのがいい。今回の「眠れる森の美女」の上映は、2011年12月の公演の収録ということもあり、特典映像は本編前に少しローレン・カスバートソンとジョナサン・コープ、レスリー・コリアなどのインタビューがあった5分程度のものだった。
Tchaikovsky: The Sleeping Beauty
http://www.roh.org.uk/productions/the-sleeping-beauty-by-marius-petipa
Choreography Marius Petipa
Additional Choreography Frederick Ashton, Anthony Dowell, Christopher Wheeldon (Based on Ninettte de Valois, Nicholai Sergeyev)
Production Monica Mason
Production Christopher Newton
Original designs Oliver Messel
Additional designs Peter Farmer
Lighting design Mark Jonathan
Staging Christopher Carr
Princess Aurora Lauren Cuthbertson
Prince Florimund Sergei Polunin
Carabosse Kristen McNally
Lilac Fairy Claire Calvert
King Florestan XXIV Gary Avis
His Queen Genesia Rosato
Cattalabutte Alastair Marriot
Fairy of the Crystal Fountain Yuhui Choe (崔由姫)
Fairy of the Enchanted Garden Beatriz Stix-Brunell
Fairy of the Woodland Glade Fumi Kaneko (金子扶生)
Fairy of the Song Bird Iohna Loots
Fairy of the Golden Vine Emma Maguire
The English Prince Nehemiah Kish
The French Prince Johannes Atepanek
The Indian Prince Eric Underwood
The Russian Prince Andrej Uspenski
Florestan and his Sisters Dawid Trzensimiech, Emma Maguire, Helen Crawford
Puss-in-Boots and the White Cat Paul Kay, Elizabeth Harrod
PrincessFlorine and the Bluebird Yuhui Choe, Alexander Campbell
Red Riding Hood and the Wolf Sabina Westcombe, Ryoichi Hirano((平野亮一)
Conductor Boris Gruzin
2011年12月に収録されたこの映像、2007年のDVD(コジョカル主演)からプロダクションが変更されていて、特にプロローグの妖精の衣装が大幅に変わっている。下の映像で新しい衣装の製作について衣装担当者の説明があるが、リラの精の衣装がこのピンクと白のチュチュになっているのは少々違和感を感じてしまう。
プロローグに登場する5人の妖精の中では、ユフィさんと金子さんの踊りが際立っている。ユフィさんの美しいポール・ド・ブラ、金子さんの気品と正確さにはうっとり。今度来日公演「アリス」で主演するベアトリスはどうも丁寧さに欠けてこの映像では今一歩に感じられてしまった。リラの精のクレア・カルヴァートは、「ラ・バヤデール」ではガムザッティ役に抜擢されている(収録当時23歳の)新星。目力の強い美人できちんと踊ることはできているのだけど、リラの精にふさわしい威厳や包容力には欠けていて、ピンクの衣装も相まってちょっとギャルっぽい。王様のギャリー、女王様のジェネシアなどいつものロイヤルのキャラクテール陣は演技が達者で、特にカタラビュット役のアレイスター・マリオットは笑わせてくれる。カラボス役のクリスティン・マクナリーは初役とのことで、このような役柄も世代交代しているのだが、モニカ・メイソン直伝の邪悪で美しいカラボスだった。
ローレン・カスバートソンは見るからに鷹揚そうで、おっとりとしたお姫様が合っていると思っていたが、実際にはそうでもなかった。前回の劇場上映のジュリエット役の方が等身大の女の子らしくて似合っていた。ローレンは初々しいのだけど、同時にややおとなしそうな雰囲気があり、また長身で顔がとても小さいのが、落ち着いた雰囲気を作っている。ローズアダージオでは、とても緊張していたようでバランスが不安定で手に汗を握ってしまい、その後のパンシェも硬かった。舞台が進むにつれて踊りも演技もほぐれてきたようで、2幕の少し切ない叙情性、3幕の愛らしい中でも柔らかさと伸びやかさのある踊りはとても好感が持てた。彼女はピルエットがとても正確で何回転でもきれいに回ることができるし、手脚が長いのにコントロールがきっちりと折り目正しく、それでいて柔軟性もあるので、とても品が良い。素敵なバレリーナだが、現在は怪我に見舞われているのが残念。早く良くなって、来日公演の「アリス」で活躍して欲しいと願った。
一方、フロリムント役のセルゲイ・ポルーニンは、3幕グラン・パ・ド・ドゥのヴァリエーションでは、目の覚めるような踊りを見せてくれる。ふわっと浮かび上がるような高い跳躍、5番にきちっと収まる着地、余裕があって輝かしいテクニック。ウクライナ人の彼でも、ロイヤルバレエスクール育ちなので、踊りはロシア的ではないということを再確認。ロシア人だったらもっとアントルラッセの後ろ脚を上げるだろうけどやらない、とかポール・ド・ブラに柔らかさがないとか。彼がモスクワ音楽劇場で踊っている今、メソッドの違いが浮かないのかな、とふと思った。彼の持ち味には暗さがあるので、3幕の結婚式の場面よりも、2幕の幻影を追い求めたり、ふと憂愁に沈んだところの方が似合っている。残念なのは、サポートがあまりうまくなくて、時々ローレンの軸が傾いてしまったり、持ち上げたり下ろしたりするときの優しさや丁寧さが足りないこと。そして、特に3幕では顕著だったのだが、心ここにあらずという時があり、結婚式なのに浮かない顔をしていることがあること。パートナーとのコミュニケーションをとるのが苦手なようで、愛がほとんど感じられなかった。ただ、踊りそのもののテクニックは素晴らしいので、サポートやメンタリティー、そして演技などについてはきっと今後は改善していくことだろう。ただ、この人の暗さは、王子役にはあまり向いていないことを感じさせた。モスクワ音楽劇場で踊った「マイヤリング」のルドルフ役なら似合っているのかもしれないが。
この収録の2ヶ月後にはポルーニンはロイヤル・バレエを電撃的に退団してしまうのだが、収録時にもきっといろいろと思うことはあったに違いない。先日、ペーター・シャウフスの「ミッドナイト・エクスプレス」を直前で降板したり、相変わらずお騒がせな彼なのであるが、どうかメンタル面を克服して、その才能を生かして欲しいと思うのであった。
3幕のディヴェルティスマンでは、フロレスタン役のダヴィッド・トルゼンシミエッチが目を引いた。脚がとても美しくてきれいに伸びており、特にバットゥリーが明確だ。コーダで捌けていくところのまっすぐに伸びた脚でのジュッテの軌跡がハッとさせるものがあった。「ラ・シルフィード」でジェームズ役を踊っていることも納得できる。青い鳥役のアレクサンダー・キャンベルは、体型は非常にムチムチしているのだが、動きはとても鳥っぽく、特にコーダのブリゼ・ボレはよく体が動いていた。最後に手をついてしまったのが惜しい。ユフィさんのフロリナは実に愛らしく、軽やかでとても素敵だった。かぶりもので顔がわからなかったが、平野さんの狼も演技が楽しくてすごくいい。こういう被りもの系はロイヤルのダンサーはとても達者だ。
主役二人のパートナーシップがしっくりこなかったのと、リラ始め妖精たちが弱かったので、全体的な満足度はやや低めだったが、ロイヤルらしい演劇性は味わえるプロダクションである。来シーズンもロイヤルでは「眠れる森の美女」を上演するそうで、しかも再び「眠れる森の美女」が映画館で上映される予定なので、日本でもまた映画館上映をして欲しいと思った。映画館の大画面と音響でバレエを観ることができるのは、やはり楽しい。「眠れる森の美女」でオーロラ役に金子さんやユフィさんが抜擢されるといいな、と思った。
ちなみに、品川プリンスシネマでは、4月19日まで、1日2回12:45~、19:30~で「眠れる森の美女」の上映があるので、ご興味のある方はぜひ。
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