La Bayadere 「ラ・バヤデール」
http://www.roh.org.uk/events/69kch
Choreography Natalia Makarova
Music Ludwig Minkus
Orchestrated by John Lanchbery
Production Natalia Makarova
Set designs Pier Luigi Samaritani
Costume designs Yolanda Sonnabend
Lighting design John B Read
Revival staging Olga Evreinoff
PERFORMERS
Conductor Valeriy Ovsyanikov
Nikiya Zenaida Yanowsky
Solor Matthew Golding
Gamzatti Itziar Mendizabal
High Brahmin Eric Underwood
Rajah William Tuckett
Magdaveya Valentino Zuchetti
Aya Genesia Rosato
The Shades Emma Maguire, Claire Calvert, Laura McClloch
Bronze Idol James Hay
ロイヤル・オペラハウスのアンフィテアトル(天井桟敷)センター一列目という、バヤデールを観るにはとても良い席を取ったのだけど、飛行機に乗る前にオペラグラスを紛失してしまったようで、細かいキャストの判別ができなかった。でも、とても見やすい席である。
この日は、オランダ国立バレエのマシュー・ゴールディングがソロル役でゲスト出演。ロイヤルバレエスクール出身の彼にとっては、いわば凱旋公演。マカロワ版の「ラ・バヤデール」は、東日本大震災後まもない一昨年に代役で東京バレエ団に彼がゲスト出演したことが記憶に新しい。あの時も素晴らしいパフォーマンスをマシューは見せてくれたのだが、今回は一層スケールアップされた彼を観ることができた。持ち前の美しいピルエットは言うまでもなく、高くフワリとした跳躍、特に影の王国のコーダの連続アッサンブレのマネージュで際立っていた、ピタッときれいに柔らかく決まる着地、スピード感とエレガンスを持ち合わせた動きと、理想的なソロルになっていた。ソロルという戦士役にふさわしいワイルドさもあるし。ニキヤの死で見せる後悔の深さなど演技面も充実していた。何より、今回はゼナイダ・ヤノウスキーという素晴らしいパートナーと踊る姿を観ることができたのが幸運だった。
ゼナイダ・ヤノウスキーは、映画館で上映された「白鳥の湖」を観たときには、非常に大柄に感じられ、一生懸命細やかに情感を出そうと頑張っているのはわかったのだが、オデット役を踊るには繊細さに欠ける気がしてしまった。ところが、今回のニキヤに関して言えば、役にマッチした雰囲気があり、彼女の心の揺れ動きや歓び、悲しみが細やかに的確に表現されていて、心に響く舞台を作り上げることに成功していた。上述したように、マシュー・ゴールディングとの、特にビジュアル面でのバランスがとてもよく取れていたことが一つの理由である。長身で大きく見えてしまう彼女であるのだが、やはり長身のマシューと並ぶと、それほど大きく見えないという利点があり、また演技のレベルも貫禄も同じくらいに見えたので、収まりがとても良かった。その上、長い手脚を生かした表現の豊かさ、軽くて飛距離の大きなグラン・ジュッテと踊りも美しく、恋人とその婚約者を目の前にして踊らなければならない苦悩、ソロルへと向ける強い想いも痛切に演じていた。影の王国の難しいヴェールを使っての回転のシーンも、見事に踊りきっていた。マシューがゲストなので、ケミストリーを生み出すところまでは至っていなかったけど、この日の公演は1回目だったので、見た目のバランスが合っているので共演を重ねればいい感じになると思われる。
一方、ガムザッティ役のメンディツァバルは今二歩だった。ガムザッティは、ソロルが見たとたんにクラっと来てしまう美貌と華がなければいけないのだが、それはまったくないし、迫力という点でも、ヤノウスキー演じるニキヤに負けている。特にマカロワ版の「ラ・バヤデール」は、影の王国のシーンが終わったあとで目覚めたソロルに向かってガムザッティがにじり寄るシーンがあるため、王家の娘らしい貫禄が必要なのだ。さらにテクニックにおいても、イタリアンフェッテはきちんと踊っていたもののグランフェッテは頼りなかった。翌日に同じ役を踊った若手ソリストのクレア・カルヴァートの方がずっと良かった。
ジャンベやパ・ダクシオンは、上階から観ているとあまりにも揃っていなくて唖然としてしまった。パ・ダクシオンはメリッサ・ハミルトンや高田茜さん、クレア・カルヴァートも投入されているのに。個々のダンサーが良くても、全体の調和がまったく取れていない。なので、影の王国はまったく期待できないと思ったのだが、意外にも影の王国はちゃんと揃っていてそれなりにきれいだった。ただ、ここではヴァリエーションの3人が、一番目のエマ・マグワイア(前日のマイヤリングのステファニー王女役!)以外は良くなかった。
一方でロイヤルの良さが出ていたのは、踊りのないキャラクテールの演技。若いエリック・アンダーウッドが大僧正を演じていたが、彼の煩悩をよく表現していたし、演技のアンサンブルは全体的にクオリティが高かった。ブロンズ・アイドルのジェイムズ・ヘイは見事なピルエット、軽やかな跳躍で鮮やかな印象を残してくれた。
マカロワ版の「ラ・バヤデール」は、ロシアなどで上演されているオーソドックスな版やヌレエフ版と比較すると、ニキヤが花かごを持って踊るシーンのアップテンポな踊りがないのが非常に物足りない。さらに、壺の踊りや太鼓、インドの踊りもないので舞踊的な楽しみが少ないし、ニキヤの亡霊が結婚式を邪魔する4幕は蛇足に感じられる。よりストーリー性に配慮して構成された版だと思われるし、この版を上演しているバレエ団も多いため観る機会も多いのだが(ロイヤル、ABT、ハンブルク・バレエ、キエフ・バレエ、東京バレエ団など)、ロシアのバレエ団による上演を観たくなってしまった。とにかく主演のふたりが素晴らしかったので、楽しめた公演ではあったが。
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