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9/3 サンクトペテルブルグ・バレエ・シアター「白鳥の湖」

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サンクトペテルブルグ・バレエ・シアター「白鳥の湖」日本公演
http://www.koransha.com/ballet/tachikin2015/

オデット/オディール:イリーナ・コレスニコヴァ
ジークフリート:ワディム・ムンタギロフ
ロットバルト:ドミトリー・アクリーニン

王妃:ナタリア・スミルノワ
家庭教師:ディムチク・サイケーエフ
道化:アンドレイ・フェドルコフ

パ・ド・トロワ:ミハイロ・トカチュク,直塚美穂,リュドミラ・ミジノワ
小さい白鳥:ヴァレリア・アンドロポワ,ラリッサ・ファブリクノワ,橋本有紗,直塚美穂
大きい白鳥:リュドミラ・ミジノワ,マリア・ベリカイア

イタリア(ナポリ):アントン・マリツェフ,橋本有紗
ハンガリー(チャルダッシュ):グレゴリー・イワノフ,エリザヴェータ・サヴィナ
ポーラント(マズルカ):イーナ・スヴェチニコヴァ,ゲルマン・シュナイダー

指揮:ティムール・ゴルコヴェンコ
管弦楽:東京ニューシティ管弦楽団


8月中旬から10日間のロンドン公演を終えて東京にやってきたサンクトペテルブルグ・バレエ・シアター。今年の夏は、ロンドンで恒例のマリインスキーまたはボリショイの引っ越し公演もなかったため、チケットの売れ行きも良く、急きょ追加公演まで行われたという。ロンドン公演にもゲスト出演していたワディム・ムンタギロフ(ロイヤル・バレエ)とデニス・ロヂキン(ボリショイ・バレエ)、さらにキエフ・バレエで最近ではABTとウィーン国立バレエにもゲスト出演しているデニス・ニェダクも出演した東京公演。

だが、日本のバレエファンは、夏の世界バレエフェスティバル他様々なバレエ公演でお金を使い果たしたらしく、チケットの売れ行きは芳しくなかった。バレエフェスにも出演して人気がさらに高まったムンタギロフをもってしても、この日は空席が目立った。

イリーナ・コレニスコヴァは、4年前の来日公演の時点で700回もオデット/オディールを踊っているという。ロンドン公演でも、ロヂキン相手に10回(「ラ・バヤデール」も含む)、ムンタギロフ相手に2回踊ったとのこと。マリインスキーでオデットを踊っているようなバレリーナのような、細身で手脚の長いタイプではないけれども、腕、背中の柔軟性が飛びぬけており、首の動かし方が絶妙で一つ一つの動きにゆらめく感情が感じられる。特に腕の繊細なのに雄弁な動かし方は、今までに見たことがないような独特の表現があって、ぞくぞくするほどドラマティックだった。再び白鳥の姿に変えられたところの動きなども、自然なのだけど、ここで白鳥に戻ったんだ、というのがよくわかる。

彼女のオデットは、白鳥というよりは人間の女性的なのだが、その中でも人ならざる存在の妖しさが感じられて、有無を言わせないような魅力がある。この濃い感情表現が苦手に思う人もいるかもしれないけれども、突出した個性があって惹きつけられた。なお、彼女を現在指導しているのは、往年のマリインスキーのプリマ、リュドフィ・クナコワである。

コレニスコヴァのオディールの高慢な悪女ぶりも鮮烈だった。ここの白鳥は、基本的にはセルゲイエフ版を踏襲しているのでヴァリエーションは一番ポピュラーなものだけど、アティチュードターンは3回転で技術の高さを見せてくれ、またグランフェッテも、最初と最後のトリプル以外は非常に速くて正確なシングルだった。アダージオで白鳥のふりをするところは一瞬で白鳥に変身していたのがすごい。そして王子が結婚を誓うところを見ている時の邪悪な微笑み。公演のイメージヴィジュアルもこのシーンを使っているけれども、このあたりの演技も非常に細かくて、心の底から楽しそうにじっくり嘲笑するところが、ますます悪い人って感じで楽しかった。最後に王子がロットバルトを倒して、人間に戻ってことが分かったことを表現するマイムなど演技は、人間に戻ることができた歓びが素直に表現されていた。

ワディム・ムンタギロフは、世界バレエフェスティバルが終わってから休む間もなくロンドンでの公演、そのまま日本公演と超多忙な中でも、クオリティの高いパフォーマンスを見せてくれた。ほぼセルゲイエフ版と同じこの「白鳥の湖」は、王子が踊るところが少ないのだけど、隅々まで行き届いた端正で美しい動き、大きな弧を描く跳躍、柔らかい着地。長い首の上に乗った小さな顔、非常に長くてラインの美しい脚と確かなサポート技術。王子様だというのがよくわかる気品。彼の演じた王子は非常に若くて、純真で素直でひたむきで、3幕でオディールの前で踊るヴァリエーションでの嬉しそうな表情と踊りも印象的だった。突然現れたオデットに熱烈に恋におち、一途にオデットを愛していて、果敢にロットバルトに立ち向かう。ムンタギロフの清潔感あふれる個性はやはりこのような貴公子的な役柄で光るものがある。

この素晴らしい主役二人を観ることができただけでも、入場料の元を取ったようなものだった。
(こんなに割引チケットが出回ると思わず、うっかり定価で買ってしまっていたのだけど)
二人の愛の物語であることがきちんと伝わってきたので、素直に感動できた。

サンクトペテルブルグ・バレエ・シアターのダンサーは、ワガノワ出身者もいれば、それ以外のノヴォシビルスク、サラトフ、キエフ、クラスノダールなどの学校出身者もいる。女性ダンサーたちは皆容姿が美しく、ロシア人らしい膝裏がまっすぐに伸びて顔の小さい人が多い。ただし、コール・ド・バレエはあまり揃っていなくて、白鳥のコール・ドも18人と少人数だった。(団員数も44人とやや小規模である) 

その中で、パ・ド・トロワ、4羽の小さな白鳥、花嫁候補、3幕の2羽の白鳥を踊った直塚美穂さんが素晴らしかった。塚本洋子バレエ団を経てワガノワ・アカデミーを卒業して2013年に入団、去年のバレエ・アステラスにも出演。埼玉全国舞踊コンクール2011 クラシックジュニア 第3位の2だったので、まだ非常に若いはず。ロシア人と並んでもプロポーションに遜色がなく、アラベスクの美しさ、柔らかい背中、正確なテクニック。日本だからたくさん踊ったというわけではなく、ロンドン公演の批評でも大変褒められていたのだけど、その絶賛も当然だろう。特に2羽の白鳥を踊った時のラインの美しさと抒情性は印象的だった。

4羽の小さな白鳥、ナポリを踊った橋本 有紗さんも非常に良かった。法村友井バレエ学校出身とのこと。全体的にあまり揃っていなかった白鳥のコール・ドだったけど、4羽は良く揃っていて良い出来だったと感じられた。

ロットバルトは最終幕では王子と対決し、たくさん跳躍を見せるなど活躍する。ほかの公演日では、デニス・ロヂキンやデニス・ニェダクも演じたこの役は、プリンシパルのドミトリー・アクリーニンが踊り、ダイナミックな跳躍を見せてくれた。最後のシーンは翼をもがれて転がっているロットバルトそのままのところなのでちょっとシュールな感じではあるけれども、基本的には正統派、王道のロシア的な「白鳥の湖」だったので良い幕切れ。

道化のアンドレイ・フェドルコフは1幕のグランドピルエットが見事だったり、テクニックのある良いダンサー。ただし、男性で他に良いと感じられるダンサーはいなかった。残念だったのは、3幕の民族舞踊のシーンが、スペイン以外はあまり冴えなくて、退屈に感じられてしまったこと。ロシアのカンパニーなのに、キャラクターダンスが弱いようだ。

当初予定されていた劇場専属のオーケストラの来日がキャンセルされてしまって、東京ニューシティ管弦楽団に代わってしまったのは残念。急きょの変更で、合わせる時間も十分ではなかったのか、ミスが目立ち、またダンサーが音に合わせるのに苦労していたようだった。舞台装置は重厚かつ華麗で美しく、衣装もきれいだったので、音楽面がそんなことになってしまったのは残念。

このように、問題点や欠点も多く見受けられた公演ではあったけれども、イリーナ・コレニスコヴァの素晴らしいオデット/オディール、ワディム・ムンタギロフの貴公子ぶり、これからが楽しみな直塚美穂さん、王道のロシア的演出と、これだけでも十分楽しめた。それだけに、お客さんの入りが悪かったのが残念である。


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