YAGPのガラ2日目は、コンクール出場者の出演が少な目のアニバーサリー・ガラでした。ガラが始まる前に、セルゲイ・フィーリンのトークショーがホワイエで行われたのでそれを聴きました。通訳をはさんでの30分ちょっとの短い間だったので、本当に少しだけ。フィーリンは元気そうでした。
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「YAGPの創設者であるラリッサ・サヴェリエフとはモスクワのバレエ学校で一緒だったのだが、彼女の行っていることは称賛に値する。YAGPでは、ナアリア・マカロワ、ウラジーミル・ワシーリエフらの偉大なダンサーをたたえるガラ、そして偉大な教師ピョートル・ペストフをたたえるガラを行っている。優れた教師はボリショイの歴史や伝統を支えている。偉大なダンサーは引退後教師となって、ボリショイの伝統を手から手へと伝えて行っているのだ」
「1988年にボリショイに入団した時には、マリーナ・セミョーノワが教師としていたし、私を教えてくれたのはニコライ・ファジェーチェフだった。先輩のバレリーナたちはセミョーノワの教え子たちで、彼女があまりにも偉大なので自分はたくさん頑張らなければならないと思ったのだった。まずは正しく歩いたり立ったりするところから学ばなければならなかった。できるようになったその次から、やっと踊ることを始められるのだった。ボリショイ・バレエは人生の学校でもあった。ロシアのバレエの伝統を維持する努力について、私は語りたいと思う」
「ボリショイ・バレエでは様々な振付家と仕事をしている。ボリショイには、新劇場と、歴史的な大劇場の二つがある。大劇場では、バランシンの「ジュエルズ」、クランコの「オネーギン」、ノイマイヤーの「椿姫」などを上演している。新劇場では、マッツ・エック振付の「アパートメント」、マクレガーの「クローマ」、キリアンの作品、そして今度、ジャン=クリストフ・マイヨーがボリショイのために今度振付ける「じゃじゃ馬ならし」7月に上演します。マイヨーが他のカンパニーで新作を振付けるのは今回が初めてです」
「デヴィッド・ホールバーグを入団させた理由?それは彼がハンサムだからです(笑)。冗談はさておき、彼は大変知的なダンサーなのがわかったからです」
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YAGP Fifteenth Anniversary Closing Night Celebration
こちらも、まずはジュリアード音楽院の生徒が演奏する「熊蜂の飛行」の見事な演奏から始まった。そして、シニア部門で入賞したデヴィッド・フェルナンド・ナヴァロ・ジュデスの「ドン・キホーテ」、ロック・スクールのアンサンブルによる踊りなども。
Three Preludes
Choreography: Ben Stevenson O.B.E.
Music: Sergey Rachmaninoff
Lucia Lacarra and Marlon Dino (Bavarian State Ballet)
Accompaniment by David Aladashvili (Piano)
前日の「白鳥の湖」が素晴らしかったラカッラ。今日は、ベン・スティーヴンソン振付の「3つの前奏曲」。今度、エトワール・ガラ2014でドロテ・ジルベールとオドリック・ベザールが踊る予定の作品。3つのパートに分かれており、最初のパートではバーレッスン用のバーが置いてあり、ペアがバーを隔てて踊る。やがてこの二人の心が通じ合うようになり、女性がバーの上に乗り、さらにリフトされるというとても美しいシーンがクライマックス。2つめのパートからはバーは取り去られてパ・ド・ドゥが繰り広げられる。ラフマニノフのドラマティックなピアノの演奏によって綴られる作品で、ラカッラの美しいライン、抒情性が発揮されていた。
Kübler Ross - WORLD PREMIERE
Choreography: Andrea Schermoly
Music: Antonio Vivaldi
Projection Design: Zack Bennett with Kevin Schlanser
Maria Kochetkova (San Francisco Ballet)
and Joaquin De Luz (New York City Ballet)
振付のアンドレア・シェモリーは紹介映像とカーテンコールにも登場。元ボストン・バレエ、NDTのダンサーで金髪の美しい女性。人気者のマリア・コチェトコワとホアキン・デ・ルースが踊ったのだが、作品は期待外れ。舞台の奥のスクリーンに、お花畑や、コチェコトワ、デ・ルースの顔の大写しなどが映し出されるのだが、その映像があるために舞台上の踊りそのものに集中できず、また振付自体もほとんど印象に残らなかった。素晴らしいダンサー二人の無駄遣いのようだった。映像と踊りのコラボレーションというのは、よほどのことがない限り難しい。
Wiegenlied Pas de Deux – WORLD PREMIERE
Choreography: Evan McKie
Music: Richard Strauss
Costumes: Evan McKie
Olga Smirnova (Bolshoi Ballet)
and Evan McKie – NEW YORK DEBUT
(Stuttgart Ballet / National Ballet of Canada)
前日に続き今日もボリショイのオルガ・スミルノワとエヴァン・マッキーの共演。今回はエヴァンがこのガラのために振付けた作品で、リヒャルト・シュトラウスの子守歌に振付けられたもの。会場にも来ていた彼のお母さんに捧げられた作品とのこと。自分の振付作品をこういう大きなガラで初公開するのって、どんな作品かわからないしちょっと不安だったのだが、ふたを開けてみたらとても美しい作品だった。白いドレスのスミルノワと、白いタイツのエヴァン。エヴァンがオルガを高々とリフトしてゆっくり回転させ、オルガは包み込むように腕を柔らかく動かす。歌の入った音楽、リフトを多用するといった点では、以前観た彼の作品とも共通しているものがある。二人の長い肢体、柔軟性、優しく温かい雰囲気が良く合っていて、素敵だった。
Pas de Deux from La Sylphide
Choreography: August Bournonville
Music: Herman Severin Løvenskiold
Ashley Bouder (New York City Ballet)
and Semyon Chudin (Bolshoi Ballet)
こちらも、別々のカンパニーのダンサーを組み合わせるという趣向。なかなかこういうのは観られないので面白い。アシュレー・ボーダーはシルフィードというイメージはあまりないけれども、さすがに高度なテクニックを誇るだけあって、足さばきは見事だし跳躍も軽やかでいたずらっぽい妖精の雰囲気が良く出ていた。チュージンのブルノンヴィルというのも珍しいけれども、ジェームズ役を当たり役としていたフィーリン直々の指導が実って、こちらの足さばきも鮮やかで良かった。
Light Rain
Choreography: Gerald Arpino
Music: Douglas Adamz and Russ Gauthier
Beckanne Sisk* (Ballet West)
and Fabrice Calmels (Joffrey Ballet)
去年の「マラーホフの贈り物ファイナル」でルシア・ラカッラとマーロン・ディノが踊った作品。ファブリス・キャメルズは、パリ・オペラ座学校出身で、プリンシパルとして踊っているダンサーとしては最も身長が高いとされているダンサー、2メートル近い長身の素晴らしい肉体の持ち主。この作品は、二人のダンサーが、やや単調だけど耳に残る旋律に合わせて柔軟性を生かしたポーズを取っていくというもので、つまらない作品ではないのだけどこの手のガラにはあまり向いていないし、動きがそんなにある作品でもないのであった。
Pas de Duke
Choreography: Alvin Ailey
Music: Duke Ellington
Staged by: Chaya Masazumi
Costumes: Rouben Ter-Arutunian
Lighting: Chenault Spence
Music used with the permission of G. Schirmer Inc.
Linda Sims (Alvin Ailey American Dance Theater)
and Daniil Simkin (American Ballet Theatre)
前日のガラでも踊られたこの作品、前日はダイジェストだったけれど今回は全編。それぞれがソロを踊るパートもあって、シムキンのしなやかで軽やかな跳躍をたくさん観ることができた。でもやっぱり彼の腰振りダンスには照れが感じられてしまって、同じ振付を踊るリンダのほうがずっと音楽的で、ジャジーかつダイナミックで魅力的だった。とはいえ、元はバリシニコフに振付けられたこの作品、シムキンに合っているように思えるので、これからもっと踊りこんでいけば、楽しいガラピースとして人気を博すような気がする。
Distractions – NEW YORK PREMIERE
Choreography: Justin Peck
Music: Alexander Rosenblatt
Robert Fairchild (New York City Ballet)
Taylor Stanley* (New York City Ballet)
Daniel Ulbricht (New York City Ballet)
and James Whiteside* (American Ballet Theatre)
Accompaniment by Susan Walters (Piano)
NYCBのソリストでもある新進振付家のジャスティン・ペックは最近注目されているようで、NYCBだけでなく、ミルピエのLAダンスプロジェクトなどにも作品を提供している。彼の作品を観るのは今回初めて。NYCBのダンサー3人に加えて、ABTのジェイムズ・ホワイトサイドも出演。若い男の子4人がはじけるように踊る作品で、楽しいけどただそれだけ、という感じであまりオリジナリティは感じられなかった。
TUU
Choreography: Moses Pendleton, Tim Acito, and Solveig Olsen
Music: TUU
Costumes: Phoebe Katzin
Lighting: Howell Binkley
Rebecca Rasmussen and Steven Ezra* (MOMIX)
前日のスキー板を使った作品も楽しかったのだが、この日の、小道具やギミックなしでのパ・ド・ドゥであるこの作品もとてもワクワクさせられた。これぞオリジナリティ、である。男女二人が組体操っぽくリフトをするデュエットをしたり、驚異的なバランス芸を見せたり。これだけの動きを見せるには人並み外れた強靭な身体能力が必要だろう。とくに男性のスティーヴン・エズラのサポート力は凄い。クラシックバレエの要素はあまりない振付だが美しさはある。彼はYAGPに出場した経験があるダンサーとのこと。このカンパニーの作品は面白いので、ぜひもっと色々と観てみたいと思った。
http://youtu.be/zqPNx0nauRg
OnVelvet – NEW YORK PREMIERE
Choreography: Marco Goecke
Music: Edward Elgar
Evan McKie – NEW YORK DEBUT
(Stuttgart Ballet / National Ballet of Canada)
マルコ・ゲッケが今シーズン振付けた新作。なぜかこの作品だけ、前説ビデオがなかったのだけど、設定としては、劇場でただ一人残されたダンサーの前に超自然的な何かが現われる、というストーリーなのだそう。基本的にいつものゲッケ的な動き、痙攣したり細かい動きが中心なのだが、そのようなホラーっぽい設定のため、恐れおののいたり叫んだりといった要素がある。マルコ・ゲッケって非常にヨーロッパ的でアメリカでウケるとは到底思えなかったのだが、コンクールに出場した少年少女たちはかなり喜んでいたようで、客席は盛り上がっていた。
Pas de Deux from Rubies
Choreography: George Balanchine
© The George Balanchine Trust
Music: Igor Stravinsky
Lauren Lovette* (New York City Ballet)
and Herman Cornejo (American Ballet Theatre)
このガラが開催されているDavid Koch Theatre はNYCBの本拠地ということで、バランシンの「ジュエルズ」から2演目が上演された。振付指導にあたったメリル・アシュレーのインタビュービデオも上映された。
「ルビー」を踊ったのはNYCBのローレン・ラヴェットとABTのエルマン・コルネホ。二人とも小柄だけどテクニックと音楽性に優れている。ローレン・ラヴェットはNYCBのバレリーナらしい、抜群の音感と「ルビー」らしい洒脱さをうまく出せていたし、エルマンも軽やかでシャープなステップを華麗に踊ってくれた。
Pas de Deux Diamonds
Choreography: George Balanchine
© The George Balanchine Trust
Music: Peter Tchaikovsky
Olga Smirnova and Semyon Chudin
(Bolshoi Ballet)
スミルノワとチュージンの「ダイヤモンド」は、去年のマラーホフの贈り物ファイナルでも踊られた。とても美しい二人だが、スミルノワはまるでオデットのようにこのシーンを踊り、ドラマティックさを加えていた。スミルノワ、たまに脚がアンドゥオールしていない時があるのがちょっと気になってしまうけれども、研ぎ澄まされた美しさはダイヤモンドにふさわしい。
Gopak
Choreography: Rastislav Zakharov
Music: Vasily Solovyov-Sedoi
Brooklyn Mack* (The Washington Ballet)
ヴァルナ国際コンクールで金賞を受賞したブルックリン・マックが、ものすごい跳躍力を見せてくれた。アフリカ系アメリカ人の彼だが、このウクライナ民族舞踊がとても良く似合っているのは、踊りがロシア的だから。超絶技巧なのだけど気品もある。YAGPの主催者であるゲンナディ・サヴェリエフが「ゴパック」を得意としていたため、カーテンコールでも一緒に登場した。
Two x Two
Choreography: Russell Maliphant
Music: Andy Cowton
Lucia Lacarra and Marlon Dino
(Bavarian State Ballet)
これも「マラーホフの贈り物ファイナル」でラカッラとディノが披露したマリファントの作品。ラカッラのしなやかな腕使いが映えるスリリングな作品なのだが、照明のトリックを使って残像で魅せなければならないのに、照明効果が今一つで、会場が明るすぎたため、作品の魅力が十分伝わってこなかったのが残念だった。
Pas de Trois from Le Corsaire
Choreography: Marius Petipa
Music: Richard Drigo
Iana Salenko (Berlin State Ballet)
with Joseph Gatti* (Principal Guest Artist)
and Brooklyn Mack* (The Washington Ballet)
ガラの最後は、盛り上げ演目、というわけで「海賊」。前日の「ドン・キホーテ」は意外と盛り上がらなかったのだが、今回はパ・ド・トロワだったので最高に客席もヒートアップした。肌の白いジョゼフ・ガッティがアリ役で、肌の黒いブルックリン・マックがコンラッドだったが、踊りの性質からいってもこの組み合わせで良かったと思う。ジョゼフ・ガッティは、コーダのピルエット・ア・ラ・スゴンドが凄かった。一度減速して止まるかと思いきや、足を下に置くことなく再び回転を始めるのだから。ちょっと見たことがない回転だった。ヤナ・サレンコも相変わらずグラン・フェッテが正確で素晴らしく、こちらではキラキラ度も高くてトリに相応しい華やかさだった。
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