舞踊評論家、舞踊史・ロシア舞台芸術史家、ロシア語通訳・翻訳として知られる村山久美子さんの著作。
ウリヤーナ・ロパートキナ
ウラジーミル・マラーホフ
シルヴィ・ギエム
ファルフ・ルジマートフ
ミハイル・バリシニコフ
ジョルジュ・ドン
ルドルフ・ヌレエフ
マイヤ・プリセツカヤ
ガリーナ・ウラーノワ
ワツラフ・ニジンスキー
これら10人のダンサーと、別枠として日本人ダンサー3人、森下洋子、吉田都、熊川哲也を取り上げている。
選んだ基準としては、長年毎日のように舞台を観て、公演評や舞踊評論を書かれてきた村山さんの目を通して選択したダンサーについて書いたとのこと。筆者が生まれる前に活躍したダンサーや、年齢が高くなってからの舞台した見ていないダンサーについては、名演が伝えられ、かつ、世界のバレエ界への影響力が大きかったダンサーを選んで、映像や書籍の資料で、その力を確認しながら執筆を進められたそう。結果的に大部分がワガノワメソッドで育ち、ロシアの内外で活動した人々が中心となった。時代的には、一番最初のロパートキナが現時点で最盛期を迎えているダンサーであり、章が進むにつれて過去に遡るため、最終章のニジンスキーから逆に読み進めていくと、時代の移り変わりとバレエの世界の変化も見えてくる。
ダンサーの魅力について語る、となると独りよがりになりがちであるが、この本の優れている点として、そのダンサーがなぜ傑出した存在であるかということを、極めて平易に、客観的に書き、しかも時代背景やどのような足跡をたどってそのような存在となったのかということを事実の積み重ねで語っていることである。特に興味深いのは、ほとんどのダンサーは、振付家、もしくは作品との出会いによって大きく成長したり、変容を遂げているということがわかることだ。(もちろん、教師の存在も大きく、名教師たちについても言及されている)その振付家についての解説も加えているため、ダンサーのみならず、バレエ界の動向や進化について幅広い知識を得ることができることである。いくら素晴らしい技術や表現力を持ったダンサーでも、その人の魅力を伝える優れた作品に出会わなければ、歴史に残るような存在にはならない。振付というもののの重要性を改めて認識した。
また、ダンサーの魅力を語るときに、難しい用語や表現を使わず(バレエ用語については必ず解説を加えている)、誰にでもわかりやすくその人の魅力を伝えられているところが素晴らしいと感じた。客観的な事実や第三者の視点を織り交ぜているのだが、同時に、そのダンサーに向ける熱い想いも同時に伝わってくる。特に力が入っているのはロパートキナの項目であり、なぜ、彼女の踊りが多くの人の心を揺り動かすのかということについて、読む側も大いに考えさせられ、彼女の「白鳥の湖」「瀕死の白鳥」「ダイヤモンド」の名演を思わず反芻してみるのであった。
日本人ダンサー3人については、世界的に活躍する彼らと世界との接点についても語られているため、今後世界を目指す若い人にもぜひ読んで欲しいと感じた。
一つ一つの章は短いため、もっとひとりひとりについて深く知りたければ、別途各々の評伝を読むと良いと思うが、バレエダンサーがなぜ人々を惹きつけるのかと、その理由を知り、バレエについてのベーシックな知識を得るためには欠かせない一冊である。
ひとつだけ間違いを指摘しておくと、ギエムの項目で、アクラム・カーンのことをモロッコ系ベルギー人と記述しているが、カーンはバングラデッシュ系イギリス人であり、モロッコ系ベルギー人とはシディ・ラルビ・シェルカウイのことだと思われる。
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