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映画館上映 ロイヤル・バレエ「白鳥の湖」

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3月18日に映画館上映されたロイヤル・バレエ「白鳥の湖」を観に行ってきました。

http://www.roh.org.uk/showings/swan-lake-live-2015

http://t-joy.net/roh_2014/

アンソニー・ダウエル演出による、28年間上演され続けたこのプロダクションは、今回が最後の上演となるとのことです。
http://www.theguardian.com/stage/2015/mar/22/swan-lake-royal-ballet-review-mcrae-obraztsova

まだ正式に発表されているわけではありませんが、ロイヤル・バレエの常任振付家であるリアム・スカーレットが振付けるという説が、上記記事にあるように有力です。全幕の物語バレエを振付けた経験がないため、未知数ですが、すぐれた作品も作っていたので、期待されています。

現行のこのプロダクションは、賛否両論を呼んでおり、英国では否定的な評価の方が多いようです。19世紀を舞台に設定したため、ヨランダ・ソナベントによる衣装はやや現代的で、3幕では特に重たい印象を受けます。セットは豪華ですが、豪華ゆえ舞台の上が狭くなってしまい、ダンサーが思う存分動けません。3幕の王子のタイツが黒いのに床も黒いため、脚の動きがよく見えません。そして特徴的な長い丈の白鳥群舞のチュチュは、どことなく襤褸切れのように薄汚れた印象があります。酔っぱらっている家庭教師や友人たち、メイポールとごちゃごちゃした印象が強いようですし、最後にゴンドラに乗ってオデットと王子が結ばれる結末も、安っぽいイメージがあります。

一方で、ダウエル版の前に採用されていたアシュトン版の振付も一部残っており、この部分に関しては評価は高く、特に3幕のナポリの踊りは人気が高いそうです。

Conductor Boris Gruzin
Orchestra Orchestra of the Royal Opera House

Odette/Odile Natalia Osipova
Prince Siegfried Matthew Golding
The Princess Elizabeth McGorian
Von Rothbart Gary Avis
The Tutor Alastair Marriott
Benno Ryoichi Hirano
Pas de trois Francesca Hayward
Pas de trois Yuhui Choe
Pas de trois Alexander Campbell

Swan Melissa Hamilton
Swan Itziar Mendizabal

Spanish dance Kevin Emerton
Spanish dance Thomas Whitehead
Czárdás Claire Calvert  
Czárdás Bennet Gartside
Neapolitan dance Laura Morera
Neapolitan dance Ricardo Cervera

ロイヤルの映画館中継は、見せる工夫がたくさんあって、本編以外も楽しめます。案内役はダーシー・バッセル。今回は、アンソニー・ダウエルと対談しました。ダウエルは、白鳥ではなくて女性として演じてほしいと彼女に指導したそうです。また、1幕、2幕に登場する二人の可愛い子役、マノンとエミリー・ローズのインタビューもありました。もちろん、リハーサル風景などもふんだんに登場します。オシポワのインタビューもありましたが、彼女はまだ英語があまり話せないのか、ロシア語で話していました。主役を指導するジョナサン・コープ、群舞を指導するサマンサ・レインの姿も見られます。観客のツイートが映し出されたり、ライブ感覚で観られるのも臨場感があって楽しいです。

スペシャルゲストとして、このダウエル版初演に出演したシンシア・ハーヴェイも登場しました。今年のローザンヌコンクールの審査員でもありましたが、28年経っているとは思えないくらい若く美しかったです。

https://youtu.be/6Kim3HTwvU4

https://youtu.be/1_YvpXPFatI

https://youtu.be/fvVJmaOUhzk

英国でオシポワの人気は絶大で、2009年にマリアネラ・ヌニェス主演のDVDが発売されているにもかかわらず、今回の映像もDVD化されることが決定したと発表されました。
http://www.roh.org.uk/news/swan-lake-starring-natalia-osipova-and-matthew-golding-to-be-released-on-dvd

オシポワのオデットは、非常に個性的でした。身体能力の高さは圧倒的なので、とにかく体がよく動くのですが、オデット役にしては動きすぎで何もかも大げさで、繊細さはありません。白鳥なのに、こんな風に動いてしまうの?と意表を突かれるところがいくつもありました。意志がとても強く生命力にあふれています。マイムシーンはじめ、顔で表情を作ってしまうのは、舞台で観るにはいいかもしれませんが映画館上映で大写しになると、やりすぎ感が強いです。ボリショイ・バレエでは一度も白鳥を踊らなかった意味が分かりましたが、英国ではこれが人気のようです。既成概念にとらわれない、自分なりのキャラクター作りをしていたし、たしかに、こんなオデットは他にはいないので、面白いと言えます。4幕では悲劇性を強調していましたが、きっと身を投げても死なないだろうなと思いました。王子との心の交流は感じられませんでしたが、マシュー・ゴールディングと白鳥で共演するのは初めてなのでそのあたりは難しかったのかもしれません。

オシポワのオディールに関しては、強くて獰猛なところが役に合っていたと思います。迫力があるので王子が魅せられるのもよくわかります。グランフェッテは非常に速くてほとんどダブルで安定してきれいに回っていましたが、腕をずっとアン・ナヴァン(胸の前あたり)で固定していたので、表情や変化には乏しく感じられました。繰り出す回転のスピードなどのインパクトは強いので、思わず興奮してしまうシーンにはなっています。

一方、マシュー・ゴールディングの王子は、テクニックは冴えわたっていて良かったと思います。持ち前の美しいピルエットは、特に3幕のコーダでフルに発揮されていたし、いつもきれいに5番に降りていて、長身なのに体は良くコントロールされていました。軍服のような衣装も似合います。ロイヤルに移籍後、英国のファンの皆さんは彼は演技力がないということで厳しい評価を下していましたが、白鳥の王子なんてそんなに演技力も必要ないし、基本的に白と黒の見分け方もつかないような人なんで、演技力なんか邪魔なくらいです。迷えるモラトリアム王子という役柄に彼は合っていたと思います。もったいなかったのが、前述したように、このプロダクションは重厚でセットが場所を取るため、舞台が狭くなってしまい、思う存分跳躍できなかったのではないかと思われること。脚の長い彼には、もっと広い舞台で踊ってもらいたいですね。

この版のロットバルトは、2幕4幕ではフクロウであまりかっこよくないのですが、それをかっこよく見せてしまうのが、ギャリー・エイヴィスの素晴らしさです。3幕のモヒカン姿は、あまりのスタイリッシュさ、歌舞伎役者のような見得の切り方とロックスターのような存在感で、目が思わず引き寄せられてしまいます。プロダクションが変わってしまうことで一番残念なのは、このギャリーさんのモヒカンロットバルトが見られなくなってしまうことです。

目についたのは、パ・ド・トロワと4羽の白鳥の右端を踊っていたフランチェスカ・ヘイワード。幕間の映像でもインタビューを受けていましたが、ひときわ小柄なのに踊りが美しくて惹きつけられます。間違いなく次世代のスターとなることでしょう。キャラクター・ダンスは、なんといっても、アシュトン振付の複雑なステップを見事にこなしたラウラ・モレーラとリカルド・セルヴェラが、胸のすくようなリズミカルな踊りで素晴らしかったです。職人のようなベテラン二人ですが、ロイヤルの宝です。

白鳥の群舞は全く揃っていませんが、あの長い襤褸切れ衣装もあると、ますます揃っていないように見えてしまいます。この衣装だけは苦手だったので、新しいプロダクションでは、普通のクラシックチュチュにしてほしいと切に思います。

いろいろと書きましたが、楽しめる映像であったことは間違いありません。ロイヤル・バレエの映画館上映は、非常にこなれていて、エンターテインメント性が高いので、バレエに興味を持った初心者でも楽しめます。そして、ディレイ上映による臨場感あふれるところも、まるで生の舞台を観ていると錯覚するほどなので、わくわくする体験となります。

まだ来シーズン、日本でのロイヤル・バレエの舞台中継が続くかどうかは未定のようですが、私が観に行った新宿バルト9は満席でした。ぜひ続けてほしいと思います。

ロイヤル・バレエの映画館中継はあと1回、「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」が予定されています。
http://t-joy.net/roh_2014/movie.html#la_fille_mal_gardee

主演はナタリア・オシポワとスティーヴン・マックレー。2015年5月6日(水) 7:00PMからです。とても楽しい作品なので、映画館で観るのも、盛り上がることができて良いと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=3y-g4175_XY


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