2013年に始まった田北志のぶさんによる「グラン・ガラ」、3回目の今年は、東京と仙台だけでなく、全国での公演を行うようになりました。最初の公演が行われた川口公演をまずは観ましたた。(この後、武蔵野、横須賀と観に行く予定)
エレーナ・エフセーエワが劇場の都合で来日が遅れているため、川口公演には出演できないとの掲示があり。7月20日にマリインスキー劇場で「ラ・バヤデール」のガムザッティを踊る予定になっているので、そのためかもしれない。おそらくその後は合流してくれるはずです。
川口リリアホールは、川口駅に直結していて交通の便は大変良い。前の方8列くらいは真っ平で観にくそうだったけど、私がいた16列目あたりは段差もありとても見やすかった。音響が悪いのか録音の音質の問題なのか、音楽が良くなかったのは残念。
「白鳥の湖」第3幕より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ
マリア・アラシュ、アレクサンドル・ヴォルチコフ
来日直後だったためか、二人とも本調子ではなかったようで、アラシュが珍しくグランフェッテで途中でトウがおちてしまった。ヴォルチコフは、ヴァリエーションではドゥーブルアッサンブレで一周してくれたのだけどそれで疲れたのかコーダではいっぱいいっぱいの様子。しかし、二人ともボリショイ・バレエならではの品格と美しさがあったのは流石だった。
「DEUX」
振付:クレール・ブリアン、音楽:ジャック・ブレル
アンドレイ・エルマコフ
当初はエフセーエワとのパ・ド・ドゥの予定だったのだが、彼女が出演できなくなったため、エルマコフのソロパートへ変更。ジャック・ブレルの歌に合わせて、愛の幻影を激しく求める男性の情熱的な姿を見せてくれた。白のシャツに黒のパンツというシンプルな姿のエルマコフは最初は白い薔薇の花を持っていた。美しいラインとエレガントな動きの中にドラマ性があって魅力的だった。後半の公演ではパ・ド・ドゥ版が観られることだろう。
「バヤデルカ」第二幕より:ガムザッティとソロルのグラン・パ・ド・ドゥ
オレーサ・シャイターノワ、ブルックリン・マック
初めて観るオレーシャ・シャイターノワはキエフ・バレエのソリスト。小柄で愛らしく、とても若い(2013年バレエ学校卒業)。非常に軽やかで力みがなく、小気味よくくるくる回ってくれるし、ポール・ド・ブラも美しい。イタリアンフェッテも完璧。なるほど期待の新星とプログラムに書いてあるだけのことはある。ヴァルナ国際コンクール金賞受賞のブルックリン・マックは、最近では話題のミスティ・コープランドと「白鳥の湖」を踊って注目された。バネがあって跳躍は非常に高いし、柔軟性もあってソロル役はぴったりだけど、少し力みがあったかもしれない。彼はテクニックがあるだけでなく、キーロフ・アカデミーで学んだだけあって、腕の使い方などがエレガントなのが良い。
「カルメン組曲」抜粋
振付:アルベルト・アロンソ
田北 志のぶ、アレクサンドル・ザイツェフ、イーゴリ・コルプ
アロンソ版「カルメン」からの抜粋で、カルメンのハバネラのソロ、ドン=ホセのソロ、エスカミーリョのソロ、カルメンとエスカミーリョのアダージョ、カルメンとドン=ホセのアダージョという構成。ストイックなイメージの田北さんはカルメンのキャラクターはちょっと違うかな、と最初感じたけれども、彼女ならではの強くセクシーな情勢を熱演してくれた。田北さんは脚が長くて美しいので、カルメンの衣装も良く似合う。ザイツェフは純朴そのもののドン=ホセで、カルメンに魅せられていくのが良く伝わってきたし、二人のパ・ド・ドゥでのパッションもどこか切ない。コールプのエスカミーリョはもはや十八番で、スタイリッシュでけれんみたっぷりに魅せてくれる。このガラならではの組み合わせは何とも贅沢で見ごたえがあった。
「海賊」より:メドーラとアリのグラン・パ・ド・ドゥ
オレーサ・シャイターノワ、ブルックリン・マック
ブルックリン・マックは、こっちの方が良かった。観たことのないようなあっと驚く跳躍も見せてくれたし来るだろうなと思ってやっぱり見せてくれた540も決まった。シャイターノワははつらつとしていて、小気味よく音楽性が大変優れていて、コーダの高速シェネも美しい。これから間違いなく頭角を現す一人だろう。
「愛の伝説」より:メフメネ・バヌーとフェルハドのパ・ド・ドゥ
振付:ユーリ・グリゴローヴィッチ
音楽:アリフ・メーシコフ
マリア・アラシュ、アレクサンドル・ヴォロチコフ
「愛の伝説」から、醜くなってしまった自分の顔がもしも元の美貌だったら、と女王メフメネ・バヌーが妄想の中でフェルハドと結ばれる切ないパ・ド・ドゥを抜粋。フェルハドの衣装は、これは罰ゲームか、と思うほど微妙なものだったけど、ヴォルチコフはサポートで頑張って、グリゴローヴィッチらしい垂直さかさまリフトも魅せてくれた。映画館中継でもこの役を踊ったアラシュの表現力の素晴らしさは言うまでもない。ガラの中で見せるには難しい作品だけど、見ごたえはあった。
「ロミオとジュリエット」より:バルコニーのパ・ド・ドゥ
振付:レオニード・ラヴロフスキー
田北 志のぶ、イーゴリ・コルプ
田北さんとコールプのロミオとジュリエットなんて、一般的なロミオとジュリエットのイメージとかけ離れているんじゃないかと思っていたのだが、杞憂だった。確かに大人のカップルではあるのだけど、二人とも初々しく、恋の歓びを甘く伝えてくれていて、とても素敵だった。田北さんはスレンダーな体型なので案外ジュリエットの衣装が似合うし、表現も非常に細やかで少しずつ高揚する気持ちを素直に、はにかみながら見せていて愛らしい。コールプは髪型は変だったけど、彼も少しシャイなところを見せてくれて、若々しく見えてくるからアラ不思議。ラヴロフスキー版ならではの奥ゆかしさ、生々しさがない振付も相まって、切ない余韻を残してくれた。
「Notation I-IV」
振付:ウヴェ・ショルツ
音楽:ピエール・ブーレーズ
アレクサンドル・ザイツェフ
マラーホフのために振付けられた「ノーテーション」だが(マラーホフは世界バレエフェスティバルでも踊っている)、ザイツェフは初演のセカンド・キャストで、彼は現在ショルツ作品の振付指導者としても世界中で活躍している。今回楽しみにしていた作品の一つ。4つのパートが異なる感情を表している作品なのだが、かなり高度なテクニックを要するし音楽に合わせての非常に激しい動きがある。シュツットガルト・バレエを退団して2年経ったザイツェフだが、バレエ団時代の技術と体型を保っているのが素晴らしく、驚くような柔軟性、そして物語のない作品の中に感情とドラマを見せてくれるところは流石だ。
ここにザイツェフがこの作品を踊った映像があるのだけど、この時からおそらく何年も経っているだろうに、体型も雰囲気も技術もほとんど変わっていないのだから恐れ入る。
https://youtu.be/R3fzbWRF6PU
「瀕死の白鳥」
振付:ミハイル・フォーキン
田北 志のぶ
田北さんは非常に腕が長く、ロシア・バレエの体現者ならではの、美しく繊細な腕使いがドラマティックだ。震えるような細かいパ・ド・ブレ。彼女の持つ少し硬質な雰囲気が、凛として気高い白鳥の姿に重なり、そんな中でも潔く死を迎えるのではなく、時には激しく抗い、そしてついに力尽きて死んでいく様子を通して、生と死の儚さを感じさせてくれる。いろんな人の「瀕死の白鳥」を観てきたけれども、現役ではロパートキナが一番だが田北さんはその次くらいに素晴らしいパフォーマンスを見せてくれていると思う。まさに入魂の演技。
「ドン・キホーテ」第三幕より:キトリとバジルのグラン・パ・ド・ドゥ
マリア・アラシュ、アンドレイ・エルマコフ
当初はエフセーエワがキトリを踊る予定が、彼女の来日が遅れたことで代役にアラシュ。グランフェッテ32回転を2回も踊らなくてはならなくて大変だと思うが、今回は踊り切れて良かった。ボリショイならではの華やかさがあるし少しエキゾチックな容姿もキトリに合っている。エルマコフは正統派マリインスキースタイルのダンサーなので、流派が合わないところはあるけれども、長身なのに綺麗に良く跳ぶし、気品がありつつも決めるところはきっちりと決めてくれるのが良い。長い脚と美しいつま先にはうっとり。初めて組む相手だろうにサポートもうまく、魅力的なバジルだった。
最後は、1回目、2回目と同じように、「花は咲く」の歌に合わせて出演者たちが花を持って客席に降りてきて、花を配るという趣向(ヴォルチコフも、あの珍妙な罰ゲーム衣装で!)。温かみがあって、とても素敵なガラ公演だった。今回、近郊での公演が多かったため、チケットの売れ行きがやや苦戦していて空席も目立ってしまっていた。でも、ロシア・バレエの魅力を再認識させてくれるし、出演者も良いダンサーばかりなので、迷っている方はぜひ観てほしいと思う。
今後の公演の予定
http://fsquare-freedomstudio.co.jp/concertschedule.html#201507takita
エルマコフのInstagramから、終演後の写真
https://instagram.com/p/5RXsXqh-GB/