公開初日に映画「バレエに生きる~パリ・オペラ座のふたり~」をBunkamuraル・シネマで観てきました。
http://www.alcine-terran.com/ballet/
去年パリ・オペラ座、ガルニエの売店でDVDが売っていて買ってきちゃったのに、観る時間がなくて結局映画館に観に行ってしまったけど劇場で観られて良かった。
「ラ・シルフィード」「パキータ」「ファラオの娘」など数々のロマンティック・バレエ作品の復元を行っているピエール・ラコットと、その妻でパリ・オペラ座の元エトワールのギレーヌ・テスマー。60年のキャリア、80歳となった今も精力的に振付活動を行っているラコットと、オペラ座での指導を現役で行っているテスマーは、50年近くにわたってパートナーシップを続け、現在も仲睦まじい様子を見せている。
1951年から振付活動をおこなっているラコットと、19歳で彼に出会ったテスマーの歩みは、そのままフランスのバレエの歴史と言ってもいい。7歳でパリ・オペラ座バレエを観てその魅力に取り憑かれたラコットは、若い頃から振り付けを始め、オペラ座に入団してプルミエに昇進した後振付に本格的に取り掛かろうとするも当時の芸術監督セルジュ・リファールに潰されそうになって、結局オペラ座を去って振付家への道を進む。一方、テスマーはコンセルヴァトゥールを卒業後マルキ・ド・クエヴァスバレエ団(ヌレエフが亡命後参加したバレエ団)を経て、ラコットが立ち上げた団員12人のバレエ団で活動し、世界中の舞台で踊るのだが、ラコット振付の「ラ・シルフィード」での成功によってパリ・オペラ座のエトワールとして迎えられるという異例のキャリアをたどる。ふたりとも、生粋のパリ・オペラ座団員ではなかったという点がとてもユニークだ。
貴重な映像をたくさん観ることができる。ダンサーをしていた頃のラコットは大変な二枚目で魅力的な踊り手だった。テスマーが踊った「声」はエディット・ピアフへのオマージュを捧げた作品で、彼女の歌声が使われており映画仕立て。「ハムレット」では、演技力にも大変優れているテスマーの美しいオフィーリアを観ることができる。ラコット振り付けではないが「コッペリア」と「海賊」では、テスマーの高度なテクニックに驚かされる。そして二人の名前を一躍高めた「ラ・シルフィード」では、テスマーの魅力とともに、ミカエル・ドナールのダンスール・ノーブルぶりも。ラコットがダンサーとしての引退公演で踊った「パピヨン」は、ドミニク・カルフーニが相手役として指名された。「盗賊の娘(マルコ・スパーダ」では、テスマーがヌレエフと踊る姿が見られる(これはDVD化されている)。ほかに、ラコットが影響を受けたというイヴェット・ショヴィレがルドルフ・ヌレエフと「ジゼル」を踊った映像も。
時代が一気に新しくなって21世紀に。ボリショイ劇場での「ファラオの娘」、マリインスキーでの「オンディーヌ」(オブラスツォーワとサラファーノフ」、そしてパリ・オペラ座での「パキータ」(オーレリ・デュポンとマニュエル・ルグリ、アニエス・ルテステュとジョゼ・マルティネス)。この作品でリュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオをリハーサルで指導するテスマーの様子も見られる。そして東京のエトワール・ガラで上演された「メリー・ウィドウ」(マリ=アニエス・ジロとマチュー・ガニオ)、「三銃士」(ドロテ・ジルベール、バンジャマン・ペッシュ、マチアス・エイマン、マリ=アニエス・ジロ)の本番とリハーサル映像も。
若かりし頃のテスマーは容姿が美しいだけでなく、脚のラインもきれいでバランシンにも気に入られたというのも納得してしまう。昔の人にしてはプロポーションが実に均整が取れているのだ。そして何よりも心を打つのが、2人はお互いへの愛ゆえに、高め合おうという高い理想を持ってバレエに打ち込んだこと。「いつもお互いを驚かせ、決して失望させないこと。だからこそ愛し合う2人がここまで続いてきたの」(テスマー)。この2人がいたことは、バレエ界にとって幸いなことであり、彼らの愛がフランスバレエを今の形にしたと言ってもいいほどだ。
ラコットの復元作品については、正直に言うと作品としてどれもが面白いものではない。しかしながら、過去の遺産を現代へと伝えていくという重要な役割をラコットは担っており、しかもテスマーというミューズがいたことでそれは実現したのであった。さらに、彼らの活躍はパリ・オペラ座に留まるものではなく、世界中で踊ったという点も見逃せない。テスマーが引退した後も、ラコットの作品はオペラ座だけでなく、ボリショイやマリインスキーなどで踊られることになって、バレエのグローバル化の流れがひしひしと感じられる。
過去の貴重な映像を沢山見ることができる反面、近年の映像があまり画質が良くないことが少々残念ではあったけど、フランスのバレエのみならず世界のバレエの歴史と現在を知る上では見逃せない映画であり、大河ドラマの趣もある作品だ。
監督は、「マチュー・ガニオ&カルフーニ 〜2人のエトワール〜」アニエス・ルテステュ/美のエトワール」を撮ったマレーネ・イヨネスコ。
(以下、この映画でも登場する映像)
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