演出振付家・舞踊家の金森穣が芸術監督を務めるNoism。2004年の設立以来海外の著名劇場にも招聘され高く評されるなど国際的にも活躍し、日本唯一の公立劇場専属舞踊団として知られていますが、新潟市の予算問題があって存続の危機にあり、揺れていました。15年間の成果の検証が行われ、今年9月、その第6期(2019年9月~2022年8月)3年間の活動継続が決定しました。
今回の継続にともない、これまでの総称「Noism - RYUTOPIA Residential Dance Company」は「Noism Company Niigata」へと変更され、新体制となりました。そしてその新体制での新作公演「森優貴/金森穣 Double Bill」が、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館(12月13日~15日)、彩の国さいたま芸術劇場(2020年1月17日~19日)にて開催されることになり、その記者発表がありました。
Noism Company Niigataの金森穣芸術監督と、公益財団法人新潟市芸術文化振興財団りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館支配人の仁多見浩さんによる会見です。
大きくまとめると、
Noismのカンパニー構成の変更(「Noism1」(プロフェッショナルカンパニー)、「Noism2」(研修生カンパニー)に加え、新たに少数気鋭のプロフェッショナル選抜カンパニー「Noism0」が設立されること。
市民向けワークショップの充実など、より地域に目を向けた活動を展開
国内他劇場との良好な関係を構築の上、ネットワークの拡大
りゅーとぴあ舞踊門としてNoism以外の公演も市民に提供
などが骨子となります。
仁多見浩「いくつかの課題を新潟市より頂き、金森さんと協議しました。りゅーとぴあ全体で取り組むことにして、第6期の3年間はNoismの新たなステージとなります」
金森穣「カンパニーの名称は、新潟という街の名前を入れてNoism Company Niigataとします。そしてカンパニーの構成も変更になります。Noism0は、プロの選抜カンパニーとし、より多角的に展開します。大規模な作品だとツアーなどでは組みづらいことがあるため、小さな規模のカンパニーとしてより充実させます。恒常的なカンパニーとして設置します」
「新潟市から課題として頂いた市への地域貢献ですが、Noismメンバーによるスクール及びオープンクラスを開催します。市民向けのクラスを毎週末開催し、より市民に身近に感じていただける活動を行います。年明け以降開講します」
「ゲスト振付家(ヨーロッパの公立劇場で日本人初の芸術監督となった 森優貴)を8年ぶりに招聘し、新作を振付けてもらい多角的な芸術性を提示します」
「カンパニーの新体制でNoism0は選抜の金森穣、井関佐和子、山田勇気が所属します。Noism1はプロフェッショナルカンパニーとして11名(準メンバー1名含む)で、オーストラリア人とイギリス人のダンサーが1名ずつ加わりました。研修生カンパニーであるNoism2は8名です。現在専属の制作スタッフは3名ですが、公募をして2名増員します」
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新作「Farben」「シネマトダンス」について
金森「森優貴を招聘することを決めたのは1年前でしたが、さかのぼること2年前、Noism2のゲストとして招聘しないかと依頼をしました。当時森さんはドイツのレーゲンスブルグ劇場の芸術監督だったので忙しく、その時は実現しなかったのですが定期的にコンタクトを取っていました。彼がレーゲンスブルグ歌劇場の芸術監督を辞して帰国するということで、ヨーロッパから日本に帰国した先輩としても、彼がレーゲンスブルグで実現していた芸術性が日本に帰ってきて発揮できるのか、ということで何回か諭したのですが、決意は固かったので、だったらいっそNoism1に帰国後の1作目を振付けてもらえないかと依頼し、引き受けてくれました。私もちょくちょくリハーサルを見学していますが、すごいスピードでクリエーションは進んでいます。
私の新作「シネマトダンス」は、3つの小品から構成されます。Noism1による『クロノスカイロス1』 、Noism0による『夏の名残のバラ』 (井関佐和子、山田勇気のデュオ)、Noism0(金森穣)によるソロ『Fratres Ⅱ』です。題名からわかるように、撮影とシネマとダンスということで映像技術を用いた上で舞踊でしか表現できない、舞踊作品です」
<質疑応答>
りゅーとぴあがカンパニーを抱えることの意義
仁多見「われわれも、税金を投入して運営されてきた以上、継続するか否かは検証されるのはやむを得ないことではあります。一方で設立からこの15年間、りゅーとぴあにとってNoismは日本で唯一の劇場専属舞踊団であり、世界に向けての発信も行ってきました。まさにりゅーとぴあ発の創造を行ってきたということで、劇場になくてはならない存在になったと考えています」
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Noismが今までの活動に加えて、市民への貢献活動に力を入れて行くということでバランスを取っていくのは大変だがどうしていくのか。
金森「新潟市として、Noismの活動をどうとらえるかということで問題意識が広がったことは、個人的にはいいことだと思っています。なぜならりゅーとぴあは新潟市の施設ですから。前向きにとらえています。ですが、市民への貢献も行うことになった中で、当然予算が増えるわけではありません。しかしながら、Noismの世界への発信をやめるつもりもありません。それをやらないのなら、芸術監督は自分でなくていいということになります。Noismを始めてた時から自分に言い聞かせてきたことですが、覚悟して、あらゆる困難に立ち向かっていきます。これが日本で初めてで、唯一の劇場専属舞踊団としての試練としての通る道なのであれば、これを我々がどのように乗り越えるかということは、後世の人たちがわかってくれることでしょう。こうすればできるんだというモデルケースになればと思います。あるいはこのようにしてはダメだということになるかもしれませんが。そう思うと覚悟が決まってきます。これが唯一の劇場専属舞踊団として課された課題なのです。大変ですがぶつかっていくしかありません。来年の年明けからオープンクラスを始めます。やってみて、1、2年経ってみないとわかることではありませんし、開いたからいいということではありません。どういうニーズがあるかわからないし、スクールも開いてみないとわかりません。我々が海外ツアー公演を行っている間、スクールはどうするのかという問題も出てきます。実際に動いてみることにより具体的に見えてくると思います。それを踏まえたうえで、2年後どうするか考えて行きたいともいます」
ワークショップについて
金森「Noismバレエという、西洋のバレエを東洋の身体に合わせてアップデートしたものを、新潟のバレエを学ぶ人へ提供します。また、一般市民に向けたからだワークショップは、10年前くらいから開催してきました。我々が培ってきた身体にまつわる知識を広く一般市民に提供し、ずっとアップデートしながら続けています。それを定期的に恒常的に開催することで、より事業内容を深めていくことができるし、Noismの活動をもっと知ってもらうことができるでしょう。教えるという行為が、やらなければならないからやるのではなく、そこから気付きを得ることです。舞踊家向けのプログラムと、一般向けのプログラムの両方を行い、今までもワークショップは点でやっていたことなので、全く新しいことをやるわけではありません。点を線にしていくことになります」
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予算面について(予算の見通しとそれによって創作にどのような影響があるか)
金森「予算は、予算要求を支配人から市へと毎年出しています。今回はこういった課題がある中で、仁多見支配人からは、協力するから一緒に頑張りましょうと。りゅーとぴあとしてNoismの活動を理解していただいた上で要求しています。新潟市は財政難という状況は変わりませんので減る可能性はあります。減った時にはあらゆることを鑑みて、芸術監督として判断しなければなりません。スクールを開講するということは、予算的なことも絡んできて、無償でのオープンクラスはしません。有料のオープンクラスを開催するので受講料収入が得られることになり、この収入は作品の創作に使えることになります。またスクールを受講した方がNoismに関心を持って、公演を見に来てくださり、集客が上がれば事業予算も増えます。新潟市から得られるお金がすべてではなく、我々も努力をして、さらに露出を増やすために企業回りをするということも実際今し始めています」
仁多見「劇場の新年度の予算編成は、2,3年後を見据えた視野でやっていかないとならないのですが、一方で行政の予算は単年度で決まってしまっています。市の方はこの事情を理解していただき、来年度大きな減額とはならないのではないかと期待しています。しかし削減はされると思いますが、増えることはありません。りゅーとぴあは舞踊だけを行っているわけではないので、我々がやろうとしていることは達成できるのか、全体のバランスをどうするのか、大局的な判断をしながら、割合を決めていくというのはあります」
スタッフからの補足:「今は予算の3割は新潟市からの補助金(スタッフを含めてカンパニーのメンバーの人件費に充当)、3割はチケット収入と新潟市が県外や海外など外部に公演を売ることで得られる、公演事業の収入、3割は助成金と支援会員からの活動支援の3本の柱で成り立っています」
Noismの舞踊表現の高いクオリティはどのように得られているのか
金森「Noismではオリジナルな訓練法を作り上げています。毎朝集団で訓練しているということが大前提にあります。基礎訓練を重視しており、それを行う時間と場所を確保しているからこそクオリティが実現しています。Noism独自の方法論に基づき、舞踊の東西を融合させるというのが根幹にあります。国際的な舞踊表現をしていて、東西を融合した有用なトレーニング方法を有する舞踊団として世界的に見ても特色があり、それゆえ今は外国人ダンサーもたくさんオーディションを受けに来ていて、こと日本においては唯一の存在となっています。もう一度言いますが、時間と場所があるからこそできることで、それが我々を独自の存在とさせています」
「りゅーとぴあの舞踊部門の芸術監督として、芸術をどのように社会に発信するか、その芸術を創造するための環境はいかなる環境か、外枠を考えています。私自身芸術家として、振付家として、作品を創るにあたっては、ハードの縛りとか、既存の構造に疑問を向けなければ、芸術的な創造はできないと考えています。舞踊部門の芸術監督として、こういう環境に向き合うと、芸術創造に向けた渇きがあります。それが必ず評価を得るとは限らないわけで。これからの3年間、課題も増えて行く中で、これから芸術家としてどのように社会に向き合って、どれだけ見失わずに均衡を保っていけるかを、私個人の課題にしたいと思っています」
今後の日本の劇場文化の見通しは
金森「財政的に厳しいというのはリアリティとしてあるのですが、地方に行くと時間と場所がまだあるので、予算がなくてもまだ可能性はあると思います。空いた場所、空いた場所を何に使うか。その場所を管理している制作者たちが、予算がない中でも、どうやって場所、時間を使って創造できるか、忙しい中でもエネルギーを割いて選択してくれると。まだまだ劇場文化に可能性があると私は信じたいです。Noism始まったころは全体を見ながら問題提起していましたが、今は自分のところで精いっぱいです。我々がこれをどう乗り切るかがモデルケースになるのであれば、その時初めてこの国の劇場文化に貢献できるのではないかと思います」
「アウトリーチもワークショップも今までやってきましたが、それにもっと本腰を入れて行くことになります。アイディア勝負で乗り切れるものではなく、15年間培ったものの価値をどう活用して浸透させられるかを通してしか、出された課題を解決できません。別な方法論を求められるのであれば、それは私ではなく別の人がやるべきだと思います」
劇場のかたちとして、理想として描いているものは
「ヨーロッパもアメリカも今はどこも財政的には厳しい。今は世界のどこかを見て、このようになりたい、と思う時代ではないのです。自治体ごとに課題の実態は違うし。その中で何を選択して切り開いていくかは、当事者しかわからないところだと思います。例えば質問の中で例として挙げられた静岡のSPACはプロジェクトベースで、集団としてではなく、SPACの選択として、海外にも発信するために公演ごとに俳優やスタッフが集まるという仕組みになっていて、恒常的なメンバーがいないからこそできることをしています。関係している人を増やしていくような。Noismは劇場付きカンパニーとして集団性にこだわりを持ちたい。舞踊芸術としての力、Noismの舞踊性には集団性があり、これは20世紀後半に失われたものに対する私なりの抵抗であり、集団で同じトレーニングをして、同じ方向を向いた人たちでしか表現し得ないものです。今年初演した「Frateres1」は寄せ集めでやったら同じ振りをしている、ということで終わってしまいますが、舞踊家たちが息をつめて座しているだけで表現している何かを、お客さんは感じてくれました。そういった舞台芸術の力を新潟の街の誇りにしたいと思っています」
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Noism1+Noism0
森優貴/金森穣 Double Bill
『Farben』
演出振付:森優貴
衣裳:堂本教子
出演:Noism1、Noism0(井関佐和子)
『シネマトダンス―3つの小品』
演出振付:金森穣
衣裳:堂本教子
映像:遠藤龍
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1.『クロノスカイロス1』
出演:Noism1
2.『夏の名残のバラ』
出演:Noism0(井関佐和子、山田勇気)
3.『Fratres Ⅱ』
出演:Noism0(金森穣)
【新潟公演】
2019.12.13(金)- 15(日)
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉▸詳細
※各回終演後アフタートーク開催!
【埼玉公演】
2020.1.17(金)- 19(日)
彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉▸詳細
https://noism.jp/npe/noism1and0_doublebill_2019/