NBAバレエ団は2月15日、16日(今週末)、2014年に日本初演した『ドラキュラ』(マイケル・ピンク振付)の第一幕と、宝満直也さん振付による新作『狼男』の2本立てによる『ホラーナイト』公演を行います。
https://www.nbaballet.org/performance/2020/horror_nights/
『ドラキュラ』のドラキュラ伯爵役には、最近演技派としての実力を高く評価されている英国ロイヤル・バレエの平野亮一さんを迎えます。(ダブルキャストとして、宝満直也さんもこの役を演じます)公演に先立ち、平野さんも同席しての記者会見が行われました。
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『ホラーナイト』という企画を実現するにあたって、芸術監督の久保綋一さんは、「バレエの中ではあまりホラーという分野はなかったけれども、映画などのライブエンターテインメント同様、バレエの中にもホラーというジャンルがあってもいいのではと思い立ち、8月に『ドラキュラ』の全編上演に先立ち今回プレビューとして、今回のダブル形式で上演することになりました」と語りました。
今回ゲスト出演の平野亮一さん
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「日本のバレエ団からのゲスト出演依頼は初めてだったので、とても嬉しかったです。向こうで観につけたことをここで発揮できれば」
別公演でドラキュラ役の宝満直也さん、『ドラキュラ』については「リハーサルで踊りながら感じたことは、音楽がとてもキャッチーで聴きやすく、音楽を聴いて浮かぶ情景がわかりやすいのです。登場人物についても音楽が語ってくれます。振付についても、このような登場人物だからこういう動きになるというシンプルな発想があり、とてもわかりやすい作品です」
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もう一つの作品を『狼男』にしたことについて、久保さん「いろいろホラーにあなりそうな題材を探しました。真っ先に浮かぶのは『フランケンシュタイン』ですが、すでにロイヤル・バレエで上演されていて平野さんもこの役を踊っています。3大ホラーとしては『ドラキュラ』『狼男』『フランケンシュタイン』が思いつきます。インタビュー記事で、宝満くんの「ドラキュラ」と『狼男』はかぶる部分が多いので製作するにも苦労した、とありましたが、敢えて連続性というか、似たものがあったほうがコンセプト的にも合うと思ったのです。苦労したかもしれませんが、面白い作品になっていると思います。みなさんもぜひ楽しんでいただければ」
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8月に上演される『ドラキュラ』の全幕について。「ドラキュラ役はフィジカル的に大変な役で全幕を踊りきるのはハードです。私はドラキュラ役はやったことがないのですが、弁護士ジョナサン役を何十回も踊っているのでとても思い入れがあります。8月の公演には、ロイヤル・バレエから平野さんのほか、プリンシパルのサラ・ラムもゲストとしてお呼びしています」
サラ・ラムがゲスト出演するいきさつについて
久保「平野さんを通じてロイヤル・バレエで、『ドラキュラ』のヒロイン役でふさわしいダンサーを探してほしいと頼みました」
平野「サラとはよく組んで踊っています。信頼してくれていると感じます」
久保「彼女はものすごく亮一君を信頼していますね。彼がパートナーだから引き受けてくれました」
ドラキュラとフランケンシュタインは同じ怪物ですが、どのような違いがありますか?
平野「全然違いますね。古典の王子の役でも、一人一人が違います。その中でも、首筋にぞくぞく感じるような怖さって違うんです。ドラキュラはけっこう鳥肌が立つような怖さですが、フランケンシュタインはビジュアル的にきついものがあって、近づきたくないような、違和感を感じさせるような存在です。初演の大貫勇輔さんがドラキュラを演じたビデオを見て、どういう風に演技をすればいいのかを考えて、研究しました。どうお客さんに見てもらえるのかを考えながら」
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最近はロイヤル・バレエのシェルカウイ振付の新作「メデューサ」のポセイドン役で強烈な存在感を発揮した平野さん。今回は新作ではないにしても役柄の解釈が重要な役です。
平野「『ドラキュラ』は振付が物語を語っています。上手な振付なので、無理にしすぎても良くないと思います。自然にドラキュラの雰囲気を醸し出すようにしたい。この役は演じていて楽しいです。新作は比較的自由が利くので、『メデューサ』のポセイドンではぼくの意見も結構聞いてもらえました。新作はゼロからキャラクターを創り上げなくてはいけないので大変ですが、すでにある作品は自分の方からそっちに自分を持って行かなければなりません」
宝満さんの『狼男』について
宝満「『ドラキュラ』は物語バレエですごくわかりやすい筋があるのでわかっていました。それに対して『狼男』はどうしようかとなった時に、同じように物語バレエにすることもできましたが、今回は違う切り口から見せたいと思いました。もし自分が狼男だったらどう思うだろう、とコメントが書いてありますが、このような文章からとっかかりを得て、狼男が出てきて人を襲うホラーというのもありますが、ぼくが思ったのは、自分が狼男だったらどう思うだろうか、と考えていくうちに、狼男ってすごく悲しい存在だな、と思いました。人でもないし獣でもなく、つねに周りの人が自分の様子をうかがっている。愛する人がいたら、いつかその人を食い殺してしまうかもしれない。とても孤独で悲しい存在だな、とぼくの中ではなって、彼の中の切なさ、苦しみにフォーカスを当てたような作品を、創りながら思って、形が固まってきたところです」
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「今回は登場人物はa man とa girlになっていて、名前がないことにこだわりがあります。誰にでも起こりうるのではないかというニュアンスはぼくの中にはありました。なので敢えて名前はありません。狼がらみのことはいろいろ調べて、博物館にも行って、いろいろヒントを探しました。赤ずきんとか、いろんな要素はぼくの中にはありました。それが同作品に出ているかは見ていただいて感じていただければと思います。『ドラキュラ』が物語バレエであるのに対して『狼男』が抽象バレエと位置付けることはできますね。なんにでもなれるし、観ている人もどのようにも感じることができるというのが、抽象バレエのいいところであると思うので、何か観ているお客さんの感性、内側に引っかかるところがあればいいなと思います」
振付家として今回新しい発見は?
宝満「新国立劇場バレエ団にいた時には「三匹のこぶた」を創ったり、NBAでは「11匹わんちゃん」を創ったり動物が多いね、と言われるのですが、たまたです。作品の構想を練る時にはダンサーを見て思い浮かべることが多くて。「11匹わんちゃん」は、NBAバレエ団に移って、ここの男性ダンサーは小柄ですばしっこくて機動力があってくるくる回るダンサーが多いので、犬っぽいな、と思ったのです。今回は最初から『狼男』というテーマを頂いて創ったのです。ダンサーと向き合って仕事をしているので、踊ってくれるダンサーの自分も今まで気が付かなかったような点を一緒に発見できたら、引き出せたらいいなとクリエーションしながら思います。今ちょうどダンサーと向き合っている最中です。踊りながら振付もしていますが、楽しさの方が勝っています。単純に踊るのも作るのも好きなのでどっちも幸せです」
「狼男は強烈な孤独を抱えていますが、生きるモチベーションは見つからないからもどかしいのに生き続けなければなりません。そこがわからないが故に苦しむし、わからないがゆえに傷つけてしまいます。それぞれが見て、彼について感じていただければと思います」
狼男の美術についてはどう考えていますか?との質問に対しては、
宝満「新国立劇場バレエ団時代に、平山素子さんの作品を踊った時に衣装を堂本教子さんが担当されました。ぼくは彼女の感性やセンスに惚れこんで、ずっと仕事をお願いしています。スタッフと相談しながら、彼らの方からも提案をしてくれて、話し合いながら作業をしていると言うのがとても楽しくて。『白鳥の湖』や『海賊』の全幕を手伝った時にも感じたのですが、作品を創るというのはダンサーも含めてチームプレイだと感じています。どこも欠けてはいけないし、こういう過程を経験できるのは幸せなことです。このような機会を投げてくださった(久保)紘一さんには感謝していますね」
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宝満さんから見た平野さんはどのようなダンサーなのか
宝満「平野さんは、ダンサーとしては雲の上のような存在です。去年の夏、ゲストティーチャーのデニスが来て振り入れを手伝わせてもらいました。まず、本当に百戦錬磨、ぼくには想像できないほどの場数を踏まれていて、いろんな作品をいろんなダンサーと踊られてきて、培われてきたものが一挙手一投足に現れています。存在感も本当にすごいです。ぼくが本当に勉強になったのは、女性と踊るということについて、女性が一人で踊っているのではないかという風に自由に動いています。ぼくが平野さんと一緒に振りをやっていると、ぼくはひとりで踊っているのでその振りがとても難しいということがわかっているのですが、なんでこんなハードな振りをいとも簡単に、しかも女性がスムーズに動けるようにやれるんだろう、というのが衝撃的でした。ぼくの感性の扉をこじ開けられました。いいダンサーとか、いい作品に出会うと感性の扉がこじ開けられる感じがします。よりたくさんのものを見て学べるようにしたいと思います」
改めて久保さんから感じた平野さんについて
久保「私が言うまでもなく、ロイヤル・バレエのプリンシパルなので世界的な評価と私の評価が一致して素晴らしいダンサーです。ドラキュラというとイメージが大事です。お客さんがみて、ドラキュラが出てきた時のイメージにぴったりでした。ロンドンで一度お会いしたことがあったのですが、『ドラキュラ』をやるということになった時に、ドラキュラは亮一君しかいない、と思ってお願いしました。面白いのは、(宝満)直哉君もドラキュラに合っているんです。二人キャラクターが違いますが、いろんなドラキュラがあって面白いと思います。お客さんが違うドラキュラを楽しんでもいいんじゃないかと思います。演じる人物が違うだけで同じ作品でもこんなに印象が違うんだと。公演が終わって亮一君がロンドンに戻ったら、振付のマイケル・ピンクはロンドンに戻ってロンドンで8月の公演のリハーサルをします」
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久保「こと日本だと、いわゆるフェアリーテールみたいな物語が多いですが、ファミリー向けにはいいと思います。でも大人の鑑賞に堪える作品が少ないのではと感じます。選択肢を用意し、大人が楽しめるバレエがあってもいいのではないか、というところでこのようなホラー要素があったりライブエンターテインメント色が強いものを上演することにしました」
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芸術監督・演出:久保綋一
原作:ブラム・ストーカー
作曲:フィリップ・フィーニー
振付:マイケル・ピンク(ドラキュラ)/宝満直也(狼男)
バレエマスター:鈴木正彦
ゲストバレエマスター:デニス・マリンキン
バレエミストレス:浅井杏里/関口祐美
舞台監督:千葉翔太郎〈株式会社スカイウォーカー〉
照明プラン・照明:デビッド・グリル・辻井太郎〈有限会社舞台照明劇光社〉
音響プラン・音響:佐藤利彦
映像プラン・映像:立石勇人〈株式会社ワンハーフスタジオ〉
舞台美術デザイン:レズ・ブラザーストーン/安藤基彦〈ART DOMINO〉
大道具:安藤基彦〈ART DOMINO〉/生駒研介〈株式会社スタッフオンリー〉
小道具:生駒研介〈株式会社スタッフオンリー〉
衣装デザイン:レズ・ブラザーストーン
衣装:コロラドバレエ・仲村祐妃子(ドラキュラ)/堂本教子(狼男)