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5/23 モスクワ音楽劇場バレエ「白鳥の湖」

楽しみにしていたモスクワ音楽劇場バレエの来日公演。「エスメラルダ」も観て、こちらも素晴らしかったのだけど、まずは記憶が新しい「白鳥の湖」の方から。

実は、23日夜公演があまりに素晴らしかったので、思わずリピーター券を購入して24日も行くことにしたのです。千円割引ですが、それでも、リピーター券ってすごくいいシステムだと思うし、他の公演でも取り入れてほしいですね。

https://www.facebook.com/mamt2015

スタニスラフスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ記念
国立モスクワ音楽劇場バレエ

5月23日(土)17:30
オデット/オディール:エリカ・ミキルチチェワ
ジークフリート王子:ゲオルギー・スミレフスキ
悪魔ロットバルト:イワン・ミハリョフ
道化:アレクセイ・ババイェフ

アダージオ:オクサーナ・カルダシュ
パ・ド・カトル エリザベータ・チェブラソワ、マリーヤ・ゾーロトワ、セミョーン・ヴェリチコ、ドミトリー・ヂャチコフ

三羽の白鳥 オクサーナ・カルダシュ、ナターリヤ・クレイミョノワ、ユリア・ステパノワ

指揮:アントン・グリシャニン
管弦楽:国立モスクワ音楽劇場管弦楽団


ブルメイステル版の「白鳥の湖」を観るのは久しぶりだけど、改めて、この版の面白さを実感した。演劇的な要素が強く、プティパ/イワーノフ版に忠実な2幕でさえも、コーダで群舞が踊っている間、王子とオデットが熱い視線でお互いを見つめ合っており、濃厚な感情表現が観られた。

特に畳みかけるような展開の3幕が最高にエンターテインメント性が高くて、スペクタクルを観ているような気分になる。この版では、民族舞踊はすべてロットバルトの手下の悪い人たちで、下手の玉座に腰掛ける王子を挑発するように、彼に向けて踊りを繰り広げられる。スペインは女性ソリスト一人が男性たちを従えているのだけど、過剰なまでにセクシーで今にも襲い掛かりそうな勢い、そんな妖しい世界が展開する中を、オディールも現れては消えて王子を惑わす。ナポリ、チャルダッシュと続き、マズルカで再び、幻影のようなオディールの姿がダンサーたちの間を駆け抜けていく。ロシア系カンパニーはどこもキャラクターダンスが素晴らしいのだけど、このバレエ団は特に見ごたえがあって、ディヴェルティスマンなのにドラマティックで華やかだ。

ロットバルトの手下4人が真っ赤なマントを翻しての最高にかっこよくて禍々しい前奏曲の後、オディールと王子のアダージオは、「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」。メロディアスで美しい曲なのだが、帯同した劇場オーケストラの盛り上げ方が見事で、まんまと王子が幻惑され策略にはまっていくさまが伝わってくる。そして、ロットバルトと手下たちによって隠されていたオディールが手品のように現れて、グランフェッテを繰り広げるクライマックスの楽しいこと。この華麗で禍々しい3幕の部分だけでも、何回でも観たい。

(ミラノ・スカラ座で以前行われた「チャイコフスキー・ガラ」では、このブルメイステル版の3幕を中心に、ディヴェルティスマンの中にローズ・アダージオ、ブルーバード、くるみ割り人形までも含めたアレンジをしていたのだが、さすがにそれが入ると、この目くるめく展開に水を差されたようで、面白さが減ってしまう)

王子は大ベテランのスミレフスキ。前回の来日公演でも、彼の白鳥の王子を観ていた。9頭身くらいの長身ですらりとした姿に、アンヘル・コレーラに少し似ている面差し。踊りは非常にノーブルで脚も長くてまっすぐで美しい。少しお疲れ気味のようで、途中少しサポートミスがあったり、3幕のヴァリエーションで手をつくといったミスはあったものの、伸びやかでつま先まで行き届いた動きに気品があって理想的な王子様だった。2幕の決めポーズは、膝の上にオデットがアラベスクでポーズするので高度なサポート技術が必要なことだろう。
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スミレフスキは演技も見事で、特に2幕でオデットが残していった一枚の白い羽を大事そうに持ち帰り、3幕でディベルティスマンが繰り広げられている間も、取り出しては愛おしそうにそれを見つめる姿が、かなり危ない人みたいで、役に入り込んでいるのがわかる。1幕の終盤でも、アダージョの女性が彼にモーションをかけているのにほとんど注意を払わず、空を飛んでいく白鳥の姿を目で追っている様子からして、現実離れしていて、年齢は重ねているのに幻想の世界に生きている風変わりな人、という印象を与えていた。

オデット/オディールのエリカ・ミキルチチェワは、まだ若いようだ。前回の来日公演では、まだナタリア・レドフスカヤが踊っていたし、その前はタチアナ・チェルノブロフキナがいたということは、ここ数年で世代交代が続いたということになる。プロポーションに恵まれているうえ、テクニックも非常に強い。コケティッシュなかわいらしさがあり、特に小悪魔のようなオディールがとても魅惑的だった。グランフェッテも、軸がびくとも動かない安定性で、シングル、シングル、ダブルの繰り返しで非常に速く回転していてクライマックスを盛り上げてくれた。オデットも悲劇的でドラマティックで抒情性があり、美しかった。

ブルメイステル版の「白鳥の湖」は、2幕と4幕は比較的オーソドックスなものの、圧倒的な3幕に加えて1幕もなかなか面白い。まず、通常パ・ド・トロワのところが男女二人ずつのパ・ド・カトルになっている。男性ペアが左右対称の振付でよく跳ぶし、二人とも脚が長くてきれいなうえ、技術がしっかりしていて美しい。女性の片方は、以前マリインスキー・バレエ、そしてキエフ・バレエに所属していたエリザベータ・チェブラソワだった。王子のソロは、通常は3幕黒鳥のパ・ド・ドゥのアダージオで使われる曲なのだが、「白鳥の湖」が初演された時には、1幕に使われていた曲だという。道化のアレクセイ・ババイェフは、他のバレエ団での道化役と違って背が低いわけでもないのだが、テクニックは素晴らしくいつまででも回転できるように見えた。道化のピルエット・ア・ラ・スゴンドでは、居眠りしているところを起こされて、それでいきなり超絶技巧を見せるのだからなかなかすごい。

白鳥の群舞のクオリティの高さには驚かされた。ここはモスクワ流派で、モスクワ舞踊アカデミー出身者が多いためマリインスキーのような優雅さはないけれども、皆手脚が長くプロポーションが美しく、容姿端麗なうえ、良くそろっているので観ていて惚れ惚れとする。オデットと王子のグラン・アダージオでも群舞が動いたりするところは少し気が散って邪魔な感じもするけれども、これだけ美しいのだから許してあげようと思う。そして大きな3羽の白鳥には、マリインスキーから移籍したユリア・ステパノワがいた。隣のオクサーナ・カルダシュ(「エスメラルダ」で主演)が華奢で小さ目のため、大柄に見えるものの、さすがに腕の動きのエレガントさ、存在感の華やかさで際立っていた。彼女はすでにマリインスキー・バレエでもオデット/オディールを踊っているし、このカンパニーでも近いうちにその機会が回ってくることだろう。

4幕はロットバルトが岩の上に乗ったままでほとんど動かないし、王子もあまり闘わないので、結末はあまり盛り上がらないのだけど、群舞の使い方がなかなか面白い。白鳥たちは王子の裏切りに怒っていて、王子がやってきても「フン!」と無視をする。下手から上手に向かって黙々と歩んでいく白鳥たち。その中に紛れ込んで、どこにいるのかわからないオデット。しかし王子の姿に、彼女は許しをこめた表情で振り返るのだ。このあたりにもドラマ性が感じられて、この版は魅惑的なものに仕上がっている。

そして、劇場のオーケストラの演奏が、実にロシアの香りたっぷりで素晴らしかった。「白鳥の湖」というチャイコフスキーの曲のドラマティックさを知り尽くして、仰々しいまでに盛り上げてくれるので観ている方の気分は上がりっぱなし。特に3幕以降の緩急自在、ピアニッシモとフォルテッシモが際立った演奏には聞き惚れた。

劇場のオーケストラを帯同させて、このクオリティの高い公演が値段が手ごろだったのも嬉しい。しかも客席にはゼレンスキーやウヴァーロフはいるし(ゼレンスキーはなんと2つ隣の席に座っていたのでちょっとドキドキしてしまった)、楽しい来日公演だった。また間を置かずに来日してほしいと強く思った。

それと、公演パンフレットの内容もとても充実していて、丁寧に作られていたのに好感を持った。ダンチェンコ劇場への訪問記、ゼレンスキー監督、そして主演するキャスト一人一人へのインタビュー、ソリストまで顔写真を載せていたりするところ、細かい作品解説と、実によくできている。ウラジーミル・ブルメイステルさんって、ものすごい美男子だったんですね…。モスクワ訪問記や舞台装置なども紹介していたFacebookでの情報提供もとても良かった。

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