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SWAN MAGAZINE 2013年夏号 Vol.32

SWAN MAGAZINE 2013年夏号が発売されました。

http://www.heibonsha.co.jp/swanmagazine/

巻頭連載「パリ・オペラ座 エトワールに夢中!」Vol.16は ステファン・ビュリオンです。

昨年夏には世界バレエフェスティバルで来日し、先日のオペラ来日公演「天井桟敷の人々」でもバチスト役で主演して活躍した彼。派手な存在ではありませんが、怪我での降板も少なく、長身を活かして大柄なバレリーナもしっかりサポートできる、頼りがいのある一人。年間に60回もの舞台をこなす働き者です。「ラ・バヤデール」でエトワールに任命された時には、偶然にも客席に両親が来ていたという幸運に見舞われました。大病を克服し、地道な努力で今の地位を掴んだ彼は、インタビューからも堅実で真面目な性格が伺えます。ファッションピープルではないので、特に好きなブランドもないとのこと。技術だけでなくバレエの姿勢によっても、若い人たちの手本になりたいと語って、地に足のついた様子が伺えます。

[特集]没後20周年「ヌレエフとパリ・オペラ座」

[現地ルポ]
パリ・オペラ座バレエ
「ルドルフ・ヌレエフへのオマージュ」 文・土屋裕子

天才舞踊家ヌレエフとパリ・オペラ座
文・渡辺真弓 写真・瀬戸秀美

ヌレエフ来日記録/ヌレエル年譜

[フォトアルバム]

パリ・オペラ座とヌレエフ作品8

[Special Interview]
ローラン・イレール〈ヌレエフの思い出を語る〉 文・加納雪乃

今年はルドルフ・ヌレエフの没後20周年、生誕75周年ということで、様々なイベントが開催されています。サンフランシスコではヌレエフ展、パリ・オペラ座バレエの「ヌレエフへのオマージュ」ガラ、先日パレ・デ・コングレで開催された「ヌレエフ&フレンズ」ガラ、ボルドー・バレエ団がヌレエフの誕生日である3月17日をはさんで記念の公演を開催、そしてウィーン国立バレエがパリのシャトレ座「ダンスの夏」に来演するなど。

ヌレエフを、主にパリ・オペラ座バレエ団との関わりという視点で語り、彼の足跡を追うとともに、彼の振り付けた作品の写真を多く掲載。また、「ヌレエフの子供」世代を代表する存在、現メートル・ド・バレエのローラン・イレールのインタビューも。ヌレエフからの、「ローラン、幕が開くとき、ダンサーの目には炎が宿っていなくてはいけないんだよ」という言葉が大変印象的です。


パリの新スポット「ノエラ・ポントワ展」

ガルニエ近くにオープンした新スポット「エレファン・パナム」。元オペラ座ダンサーのファニー・フィアットが開いたダンス&アートの複合スペースです。ここで開催された、エトワール、ノエラ・ポントワ展のレポートが大変充実しています。見に行きたかったな、としみじみ思ってしまいました。


パリ・オペラ座バレエ学校の四季[春-夏] 創立300年を祝う
文・土屋裕子

パリ・オペラ座学校創立300周年記念ガラの模様がレポートされています。記念ガラ公演(こちらは今月末にNHK-BSプレミアムで放映されますね)と、ボリショイ・バレエ学校、ロイヤル・バレエ学校、ナショナル・バレエ・オブ・カナダスクール、ハンブルク・バレエ学校、ジョン・クランコ・スクール、デンマーク・ロイヤル・バレエスクールが参加した公演の模様が大変興味深いです。


[連載 バレエ漫画 第15話]SWAN モスクワ編 有吉京子
SWAN モスクワ編の第15話では、「アグリー・ダック」の成功により、真澄はシュツットガルト・バレエからソリストのオファーを受けます。一方でレオンは真澄に「一緒にハンブルクに行かないか?」と誘います。エドについて行ってNYからベジャール・バレエ団に移ったファニーの葛藤を目の当たりにして、思い悩む真澄…。次回が待ち遠しいですね。


なお、この誌面でも告知がありましたが、京都国際マンガミュージアムにて、7月13日~9月23日まで「バレエ・マンガ~永遠なる美しさ」が開催されます。
http://www.kyotomm.jp/event/exh/ballet2013.php
バレエ・マンガを描いた代表的な作家12名の作品を中心にした展覧会です。原画を中心としたおよそ120点の額装品、当時の貴重な雑誌資料などが2会期に分けて公開されます。また、兵庫県立芸術文化センターの薄井憲二バレエ・コレクションより借用したバレエにまつわる資料や、有馬龍子バレエ団・京都バレエ専門学校より実際の公演で使用した衣裳や公演映像なども同時に展示されます。高橋真琴、山岸凉子、有吉京子、萩尾望都、槇村さとるなどの原画など貴重な資料が出典されます。もちろん「SWAN」の原画も。開催期間に京都まで見に行きたい!

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SWAN MAGAZINE 2013 夏号 Vol.32
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有吉 京子ほか

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バレエ・マンガ ~永遠なる美しさ~
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京都国際マンガミュージアム

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モスクワ国際バレエコンクールで、畑戸利江子さんが3位に入賞

現在最終審査が行われている第12回モスクワ国際バレエコンクール。ジュニア部門の発表が現在行われているようなのですが(まだ他の入賞者の名前は発表されていないようです)、15歳の畑戸利江子さんがジュニアのデュエット部門3位に入賞したとのことです。おめでとうございます。

http://www.47news.jp/CN/201306/CN2013061801002811.html

【モスクワ共同】モスクワのボリショイ劇場で開催された第12回モスクワ国際バレエコンクールで18日、女性ジュニア部門(14~18歳)デュエットに参加した日本の畑戸利江子さん(15)=愛知県岩倉市=が3位に入賞した。

 同コンクールは1969年から4年ごとに開催。ローザンヌ国際バレエコンクールなどと並ぶ世界有数のバレエコンクールとして知られる。

 ジュニア部門には57人が参加。畑戸さんは、ロシア人の男性パートナーと予選を勝ち抜き最終選考に残っていた。

15歳・畑戸利江子さんが3位入賞…モスクワ国際バレエコンクール
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20130619-OHT1T00058.htm

こちらではパフォーマンスの写真が見られます。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130619-00000006-jijp-int.view-000#contents-body

http://www.minpo.jp/globalnews/detail/2013061801002811 (畑戸さんの写真入り)

http://www.kahoku.co.jp/news/2013/06/2013061801002811.htm

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2013061990012032.html
中日新聞の記事はもう少し詳しくて、畑戸さんは「ドン・キホーテ」のヴァリエーションを踊ったとのことです。


2次審査の結果までは、オフィシャルサイトで発表されています。(後で最終結果を更新しますね)
http://moscowballetcompetition.com/en/node/28

追記:上記リンクでジュニア部門の受賞者が発表されています。
Juniors Girls
First prize: Miko Fogarty (Switzerland), Ksenia Ryzhkova (Russia) , Elvina Ibraimova (Russia)
Second Prize: Gisele Bethea (United States), Olesia Shaitanova (Ukraine)
Third Prize: Maria Theresa Beck (USA), Katherine Higgins (United States), Rieko Hatato (Japan)
Diploma: Paula Alves (Brazil), Amanda Gomes (Brazil)

Boys
First prize: Timofejs Andrijasenko (Latvia)
Second prize: He Taiyu (China), Shi Yue (China)
Third prize: Luan Batista (Brazil), Mykola Gorodiskii (Ukraine)
Diploma: Alexei Seliverstov (Russia), Yuri Mastrangeli (Italy)

ジュニア部門の1位にミコ・フォガティ、3位には畑戸利江子さん、ローザンヌのファイナリストでYAGPでブロンズ、ヘルシンキ国際コンクール3位のキャサリン・ヒギンスが入賞しています。


折しも、ミコ・フォガティが登場する映画、「ファースト・ポジション」のブルーレイが今届いたところです。今日発売。

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シニア部門の受賞者も発表されていました。
http://www.bolshoi.ru/about/press/articles/2013/2625/

http://vmdaily.ru/news/2013/06/19/na-baletnom-nebosvode-zazhglis-novie-zvezdi-201256.html

SENIOR GROUP
SOLOISTS ソロ部門
1位、ゴールドメダル David Zaleev (Russie)カザン歌劇場バレエ
2位、シルバーメダル Elizaveta Kruteleva (Russie)ボリショイ・バレエ, Igor Tsvirko (Russie) ボリショイ・バレエ
3位、ブロンズメダルAnastasia Limenko (Russia) モスクワ音楽劇場 Ernest Latypov (Kyrgyzstan)マリインスキー・バレエ

パ・ド・ドゥ部門
1位、ゴールドメダル Oksana Bondareva (Russia) ミハイロフスキー・バレエ, Timur Askerov (Azerbaïdjan)マリインスキー・バレエ
2位、シルバーメダル Tatiana Bolotova (Russia)モスクワ国立バレエ, Oksana Skorik (Russia)マリインスキー・バレエ, Artem Pizhov (Russia) モスクワ国立バレエ
3位、ブロンズメダルAnastasia Soboleva (Russia)ボリショイ・バレエ, Diana Kosyreva (Russia)モスクワ音楽劇場, Nikita Soukhoroukov (Ukraine)キエフクラシックバレエ

Honorary Diploma 奨励賞
Ajgerim Beketaeva (Kazakhstan)
Eun Won Lee (Korea)
Elizaveta Chebykina (Ukraine) キエフ・バレエ
Elizabeth Cheprasova (Russia) キエフ・バレエ
Margarita Schreiner (Russia, Bolshoi Theatre) ボリショイ・バレエ
Georgy Gusev (Russia, Bolshoi Theatre) ボリショイ・バレエ
Alexei Popov (Russie) マリインスキー・バレエ
Alexander Omelchenko モスクワ音楽劇場
Eldar Sarsembayev (Kazakhstan)
Sol Jon Han (Korea)

「マノン」レスコー役、「マイヤリング」ルドルフ役初演のデヴィッド・ウォール逝去

マクミランの「マノン」レスコー役、「マイヤリング」ルドルフ役を初演した、元英国ロイヤル・バレエのプリンシパルで、ENBでバレエ・マスターを務めていたデヴィッド・ウォールが逝去しました。享年67歳。

Ballet dancer David Wall dies aged 67
http://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-22963499

Ballet dancer David Wall dies of cancer aged 67
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/classical/news/ballet-dancer-david-wall-dies-of-cancer-aged-67-8664497.html

David Wall obituary
http://www.guardian.co.uk/stage/2013/jun/19/david-wall

ロイヤル・オペラハウスのオフィシャル(ケヴィン・オヘアの追悼文つき)
http://www.roh.org.uk/news/former-royal-ballet-principal-david-wall-dies

21歳でロイヤル・バレエ史上最年少のプリンシパルとなったデヴィッド・ウォールは、マーゴ・フォンテーンのパートナーも多く務めました。彼の「マノン」レスコー役は、アンソニー・ダウエルのデ・グリュー役とともにDVD化されています。

84年に引退後は、ロイヤル・アカデミーのアソシエイト・ディレクターを経て、ENBのバレエ・マスターに就任し、マクミラン作品の振付指導では、世界中のバレエ団で活躍していました。指導者として、多くのダンサーたちに愛されてきており、特にダリア・クリメントヴァは彼を師として敬愛し、今日の彼女の「白鳥の湖」公演を彼に捧げるとしています。また、タマラ・ロホもENBの芸術監督として、追悼の意を表しています。

ロンドン、テート・ブリテン美術館の近くには、彼の跳躍する美しい姿の像が設置されています。
http://www.londonremembers.com/memorials/dancer-statue

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ご冥福をお祈りします。

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ボリショイ・バレエ2013/14シーズン

ボリショイ・バレエの来シーズンが発表されていました。

http://www.bolshoi.ru/r/6D5270C4-3317-476D-99FD-954604FE7251/238_season.pdf (ロシア語)

カンパニー初演はノイマイヤーの「椿姫」、ラコットの「マルコ・スパーダ」、そして世界初演の新作として、ジャン・クリストフ・マイヨー振り付けの「じゃじゃ馬ならし」を上演します。リバイバルはグリゴローヴィッチの「黄金時代」。

また、ツアーは、今年11月にシンガポール(「白鳥の湖」)、来年1月のパリ(ラトマンスキー「Lost Illusions(幻滅)」、5月のワシントン・ケネディセンター「ジゼル」のほか、7月にニューヨーク公演(「スパルタクス」「白鳥の湖」「ドン・キホーテ」)が予定されてます。来年12月の日本公演は、「白鳥の湖」「ドン・キホーテ」「ラ・バヤデール」が予定されているとのことです。

日本公演はやはり白鳥は外せないんですね…。

追記:上記プレスリリースの英語版もアップされていました。
http://www.bolshoi.ru/r/_content/5a60090af507dd7f43e2b27cfedcbf0a/season-238-eng.pdf

なお、映画館等でのライブ中継演目としては、
「スパルタクス」
「ジュエルズ」
「Lost Illusions」(ラトマンスキー振付のバルザック原作「幻滅」)
「黄金時代」
の4作品が予定されています。

さらに、ボリショイ劇場でのゲスト公演としては、9月にパリ・オペラ座バレエ「パキータ」、10月にモンテカルロ・バレエ「アルトロ・カント」、6月にロイヤル・バレエ「マノン」「レイヴン・ガール」/「DGV」が予定されています。

ボリショイ・バレエの「オネーギン」キャスト/追記あり(ザハロワ降板)

ご無沙汰してしまいました。ちょっと旅行に行っていて、そのあと体調を崩してしまって…。

7月12日に初演を迎えるボリショイ・バレエの「オネーギン」。なかなかキャストが発表されていなくて、どうなることかと言われていたのですが、ようやく発表されました。

http://www.bolshoi.ru/en/performances/655/roles/

(Tatiana / Onegin / Olga / Lensky/ Gremin )

Smirnova / Lantratov / Tikhomirova / Chudin / Biktimirov (7/12, 21)
Zakharova / Hallberg / Kretova / Ovcharenko / Biktimirov (7/13, 17)
Obraztsova / Volchkov / Stashkevich / Gudanov / Vodopetov (7/14, 18)
Kaptsova / Skvortsov / Khokhlova / Alexeyev / Khromushin (7/16)
Vishneva / Gomes / Kretova / Ovcharenko / Khromushin (7/19)
Amatriain / McKie / Osadcenko / Vogel / Godunov (7/20)

ザハロワが、リハーサルの途中で出ていったという噂があり、初日に彼女がキャスティングされなかったことで、ロシアのバレエフォーラムでは大騒ぎになっています。初日は、ザハロワ&ホールバーグだと思ってチケットを買っていたファンも落胆しているようです。オルガ・スミルノワがクランコ財団に気に入られているようで、初日はスミルノワとラントラートフになりました。19日は、マルセロ・ゴメスとディアナ・ヴィシニョーワがゲスト、20日は、アリシア・アマトリアン、エヴァン・マッキー、アンナ・オサチェンコ、フリーデマン・フォーゲルとシュツットガルト・バレエチームがゲスト出演します。

YTにアップされていたリハーサル映像では、カプツォーワとチュージンが踊っていたので、チュージンもオネーギン役だと思っていたらレンスキー役だし、「オネーギン」のキャスティングは波乱含みですね。


ボリショイ・バレエと言えば、フィーリン襲撃事件でのきっかけの一人と言われていたアンジェリーナ・ヴォロンツォーワが退団したそうで、早速ボリショイのサイトから名前が消えていました。

追記:ボリショイ劇場オフィシャルYT「ボリショイへのチケット」で、「オネーギン」のリハーサルの様子や、クランコとウラノワが会った歴史的な映像、さらにハンブルク・バレエ(リアブコ、アッツオーニ)の「オネーギン」の映像などが見られます。30:55頃から。
http://youtu.be/J48byMWtjhk

7/3 追記
ザハロワは結局「オネーギン」に出演しないことになりました。(公式サイト参照)ホールバーグは一日だけ、21日にオブラスツォーワと踊ります。
http://www.bolshoi.ru/en/performances/655/roles/#20130721180000

出演予定は以下の通りとなります。かなりシャッフルされてしまったので、チケットを買った人は怒るんじゃないかと思います。

July 12, 18: Smirnova / Lantratov / Tikhomirova / Chudin
July 13, 16: Obraztsova / Volchkov / Stashkevich / Gudanov
July 14, 17: Kaptsova / Skvortsov / Kretova / Ovcharenko
July 19: Vishneva / Gomes / Kretova / Ovcharenko
July 20: Amatriain / McKie / Osadcenko / Vogel
July 21: Obraztsova / Hallberg / Khokhlova / Alexeyev

6/21 シュツットガルト・バレエ「Meisterwerke」

バランシン「フォー・テンペラメント(四つの気質)」、ロビンス「ダンシズ・アット・ア・ギャザリング」、そしてテトリーの「春の祭典」という20世紀作品のトリプルビル。プリンシパルを多数投入した、大変豪華なキャスティングだった。

この日は、18年間シュツットガルト・バレエで活躍したアレクサンドル・ザイツェフの、バレエ団での最後の公演だった。彼は3作品すべてに出演して、渾身の踊りを見せてくれた。引退公演を迎えるにあたってのダンスキューブでのインタビュー記事も併せてお読みください。

グレン・テトリー版『春の祭典』を踊ってシュツットガルトを去る サーシャ・ザイツエフに聞く(エヴァン・マッキーによるインタビュー)
http://www.chacott-jp.com/magazine/world-report/from-stuttgart/stuttgart1305ja.html

Meisterwerke
http://www.stuttgarter-ballett.de/spielplan/2013-06-21/meisterwerke/


DIE VIER TEMPERAMENTE (The Four Temperaments) 「フォー・テンペラメント(四つの気質)」
振付: George Balanchine
音楽: Paul Hindemith: Thema mit vier Variationen für Klavier und Streichorchester, The Four Temperaments 「4つの気質 ピアノと弦楽オーケストラのための主題と変奏」
衣装: Kurt Seligmann
初演: 20. November 1946, Ballet Society, New York
シュツットガルト・バレエでの初演  5. Dezember 1996
ピアノ演奏: Andrej Jussow

1. THEMA Oihane Herrero, Damiano Pettenella
2. THEMA Katarzyna Kozielska, Arman Zazyan
3. THEMA Miriam Kacerova, Roman Novitzky
MELANCHOLISCH (メランコリック=憂鬱) Alexander Zaitsev  Elizabeth Wisenberg, Angelina Zuccarini, Daisy Long, Ji Woon Kwon, Nathalie Guth
SANGUINISCH (サンギニック=快活) Alicia Amatriain, Evan McKie Heather MacIssac, Mariya Batman, Aiara Iturrioz Rico , Ruiqi Yang
PHLEGMATISCH (フレグマティック=無気力) Marijn Rademaker Ami Morita, Alessandra Tognoloni, Rocio Aleman, Anouk van der Weijde
CHOLERISCH (コレリック=癇癪) Rachele Buriassi

1946年初演のこの作品が今もなお、これほどまでにモダンだとは。アカデミックなバレエテクニックを使いつつも、シンプルで洗練されている。変幻自在で構築的なフォーメーションも面白い。なにより、ヒンデミットの音楽の使い方がとても斬新で、バランシンの先進性、天才性を感じる。出演者すべてが非常に音楽性が豊かで、スピーディな音楽にもしっかりと乗って、オフバランスするような大きな動きもぴったりと合っているのが観ていて気持ち良い。メランコリックのサーシャ(ザイツェフ)は、ひねりのある高い跳躍を見せて、若々しく生き生きとしている。サンギニックのアリシア・アマトリアンとエヴァン・マッキーは、サポートを多用したテクニカルな動きで、二人とも長い手脚を速いスピードで見事にコントロール。常軌を逸するほどの柔軟性と身体能力を見せ、そして音楽にぴったりと決めていて見事だった。組み合わせのバランスもとても良い。(余談だけど、この二人は来月のボリショイ・バレエの「オネーギン」に客演する予定) フレグマティックは、4人の女性ダンサーを従えたマライン・ラドマーカー。この人の音楽性も独特で、とてもソリッドで力強いのに不思議な色香がある。エッジの効いた動きを見せる4人のバレリーナたちとの絡み合い方がジャジーで刺激的だ。


DANCES AT A GATHERING 「ダンシズ・アット・ア・ギャザリング」

振付: Jerome Robbins
音楽: Frédéric Chopin
衣装: Joe Eula
照明: Jennifer Tipton
初演: 8. Mai 1969, New York City Ballet
シュツットガルト・バレエでの初演 29. November 2002
ピアノ演奏: Alexander Reitenbach

モーヴ Anna Osadcenko
ピンク Alicia Amatriain
グリーン Sue Jin Kang
アプリコット Angelina Zuccarini
ブルー Myriam Simon

ブラウン Alexander Zaitsev
グリーン Filip Barankiewicz
パープル Jason Reilly
ブリック(れんが色) Arman Zazyan
ブルー Alexander Jones

ショパンのピアノ演奏に乗せて、カラフルな衣装の男女5人ずつが繰り広げるプロットレスの作品。ストーリーはないのだけど、恋の鞘当て的なところがあり、時にロマンティック、時にユーモラスで時にはメランコリックに展開される。この舞台も、10人の出演者のうち実に8人がプリンシパルという豪華キャスト。ショパンらしく、ちょっとポーランド風のステップが入れられたり、同じ曲を使っているノイマイヤーの「椿姫」2幕に似た、バレリーナを投げてキャッチする振り付けがあったり、ソロ、ペア、トリオ、5人、など組み合わせも変幻自在で楽しい。光っていたのは、最初の方のアンナ・オサチェンコとフィリップ・バランキエヴィッチが、とても情感があって音楽性も豊かでロマンティック、素敵だった。後半になってからソロを踊るスージン・カンもさすがに魅せる踊りで、特に腕の柔らかさ、しなやかさは他の追従を許さない。女性3人が並んで踊るところでは、アリシア・アマトリアンの身体能力が目を引く。そしてサーシャ!ノリノリでジャンプも高く、元気いっぱいに音楽と戯れており、ジェイソン・レイリーとのポーランド舞踊の掛け合いも楽しい。出番は少ないものの、アレクサンダー・ジョーンズの優雅さと伸びやかさも好ましい。技巧系ソリストの二人、ブリックのアルマン・ザジャンとアンジェリーナ・ズッカリーニの闊達な動きは楽しかった。


LE SACRE DU PRINTEMPS「春の祭典」

振付: Glen Tetley
音楽: Igor Strawinsky: Le Sacre du Printemps
衣装、装置: Nadine Baylis
初演:18. April 1974, Bayerische Staatsoper
シュツットガルト・バレエでの初演 14. April 1976

SOLO Alexander Zaitsev
PAS DE DEUX Anna Osadcenko, Jason Reilly
SOLO-PAARE Alessandra Tognoloni, Damiano Pettenella Oihane Herrero, Roman Novitzky

アレクサンドル・ザイツェフが最後の舞台に選んだのが、クランコ亡き後バレエ団の芸術監督に就任したグレン・テトリーの「春の祭典」。あまたあるバレエ「春の祭典」の中でも、特に激しい動きが多く爆発的なエナジーが放出される。3演目すべてに出演して、最後をこれで締めくくったサーシャの矜持を感じる。この「春の祭典」では持てるすべての力を出し切って、力強く、カリスマ性たっぷりに生贄役を踊った。ショートパンツ1枚の肉体も引き締まっている。特に最初のソロは背中を反らせての大きな跳躍の連続があって目を見張った。身体能力だけでなく、上半身のしなやかな動きを使い、身体で生命力を表現する表現力も必要な役柄なのだが、サーシャは、踊りに全てを捧げたような渾身の、魂のパフォーマンス。リフトの多いパ・ド・ドゥを繰り広げたアンナ・オサチェンコとジェイソン・レイリーも鮮烈な印象を残し、ソリスト陣始め、壮絶なこの作品を体力の限界まで踊った群舞まで、圧倒的な力でねじ伏せられるような舞台体験だった。

生贄が殉教者として高く捧げられ絶命するまで一瞬たりとも気が抜けないこの作品、数ある「春の祭典」の中ではこれより優れた振付はたくさんあると思う。ただ、ストラヴィンスキーのこの音楽の持つ原始的で根源的なパワーはすみずみまで感じられた。

カーテンコールでは、たくさんの花束を捧げられたサーシャ。芸術監督リード・アンダーソンが出てくると、後ろに大きな看板が降りてきて、彼のシュツットガルト・バレエでの18年間を讃えた。満員の観衆は総立ちとなり、誰もに愛されたサーシャとの別れを惜しんで拍手はいつまでも鳴り止まなかった。シュツットガルト・バレエでの舞台はこれが最後だが、引き続きダンサーとしては活動するとのこと。今後の彼に幸い多いことを祈る。

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ロイヤル・バレエの昇進・入団発表

5日からの来日公演を控え、すでにロイヤル・バレエご一行様は来日中ですが、昇進と入団が発表されました。

http://www.roh.org.uk/news/royal-ballet-promotions-and-joiners-for-201314-season

<昇進>
メリッサ・ハミルトンがファースト・ソリストに。

オリヴィア・カウリー、エリザベス・ハロッド、金子扶生さんがソリストに。

Hayley Forskitt, Francesca HaywardとTristan Dyer がファースト・アーティストにそれぞれ昇進しました。


<入団>
ナタリア・オシポワがプリンシパルとして入団。

Annette Buvoli と David Donnellyがアーティストとして、ロイヤル・バレエスクールより入団。

山本雅也さんが、ローザンヌ国際コンクール研修生として入団。

また、2012/13のシーズン中に、Anna Rose O’Sullivan, アクリ瑠嘉さんとマルセリーノ・サンベが入団していました。

*******
「マイヤリング」のマリー・ヴェツェラ役が評価されてファースト・アーティストに昇進したメリッサ・ハミルトン。私はこの「マイヤリング」を観ているのですが、うーん、体は硬いし演技も一本調子であまり良いとは思いませんでした。別の日に観たマーラ・ガレアッツイがあまりにも素晴らしかったというのもありますが。メリッサは去年、牧阿佐美バレエ団の「ア・ビアント」にゲスト出演しています。

来シーズン「ドン・キホーテ」でキトリ役に抜擢された金子扶生さんは、ロイヤル・バレエ的なエレガンスを身につけていて、文句なしの昇進です。スティーヴン・マックレー夫人のエリザベス・ハロッドは、「マイヤリング」でステファニー王女役を踊り、また「くるみ割り人形」のクララ役なども踊っています。可愛らしくて演技・踊りともとても上手いので、今後も期待できます。

アクリ瑠嘉さんとマルセリーノ・サンベは、すでにロイヤルの舞台で活躍している姿を観ることができました。瑠嘉さんはずいぶん前に井上バレエ団の「くるみ割り人形」のフリッツ役で観ていて、小さかった彼もロイヤル入団と思うととても感慨深いものがあります。


退団については、プレスリリースが出ていないものもありますが、プリンシパルのリアン・ベンジャミン、マーラ・ガレアッツィ、アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー、ソリストのブライアン・マロニーが退団することが明らかになっています。


なお、来日公演「ロイヤル・ガラ」のキャストも発表されています。
http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/1307-royal/post-456.html#001750

また、皆様ご存知かと思いますが、「アリス」のキャスト変更も出ています。(ローレン・カスバートソンの降板、残念ですね。早く良くなりますように)

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/renew/post-454.html

パリ・オペラ座バレエの外部試験、ハナ・オニールさんが入団

パリ・オペラ座バレエの入団試験が、7月4日(オペラ座学校生徒向け)、5日(外部向け)に行われ、結果が発表されています。(まだオフィシャルには発表されていないので、ダンソマニフランス版より)

内部生
女性
1. Ida Viikinkoski (入団)
2. Roxane Stojanov (入団)
3. Clémence Gross (入団)

男性
1. Pablo Legasa (入団)
2. Antoine Kirscher (入団)

外部
女性
01. Hannah O'Neill(入団)
02. Camille de Bellefon (入団)

男性の合格者は無しです。

以上、7名の新しい団員がパリ・オペラ座バレエに入団します。


もちろん、注目はローザンヌバレエコンクールで1位に輝き、オーストラリア・バレエ学校を卒業後一昨年オペラ座の入団試験に挑み、入団はできなかったものの、期間限定団員としてすでにオペラ座の舞台にも立っているハナ・オニール(オニール八菜)さん。日本とニュージーランドのハーフです。すでにかなり目立つ存在であり、バレエ雑誌のインタビューも受けています。オニールさん、今月新国立劇場で上演される「バレエ・アステラス」に出演する予定です。楽しみですね。

また、カミーユ・デ・ベルフォンも数シーズン、期間限定団員としてオペラ座の舞台に立っていましたが、最近はウィーン国立バレエの団員として活動してきました。


来る人あれば行く人もあり、ということで、オペラ座のスジェで、「ドン・キホーテ」「くるみ割り人形」「ラ・フィユ・マル・ガルデ」などでは主演してきたマチルド・フルステが、サンフランシスコ・バレエにプリンシパルとして契約したというニュースがしばらく前にありました。まずは自身のFacebookで発表されたものです。

Mathilde Froustey, l'étoile américaine (フィガロ紙)
http://www.lefigaro.fr/culture/2013/06/24/03004-20130624ARTFIG00440-mathilde-froustey-l-etoile-americaine.php


一年間のサバティカルを利用しての契約なので、完全移籍ではないのですが、インタビューでは、一年後に戻るかとどまるか決めると語っています。主役を何回も演じており、地元でも人気が高いのに、なぜか昇進試験でプルミエに上がれなかった彼女の新天地での活躍を祈りたいですね。


男の子のための新しいバレエ雑誌「ダンシン」とスティーヴン・マックレーのバレエ漫画

昨日、ロイヤル・バレエの来日公演「不思議の国のアリス」の初日に行ってきました。とにかくロイヤルのダンサーたちは大変な芸達者で、中でもハートの女王を演じたゼナイダ・ヤノウスキーの怪演ぶりは強烈で、すべて持っていったほどでした。

昼間にゲネプロを見学したのですが、ノーメイクで演じていたにもかかわらず、ゼナイダの目力は3階席にいた私のところにも到達するほどで。主演のサラ・ラムは、黒髪のウィッグも似合って愛らしく、表情がくるくると変わってコメディセンスもばっちり。それでいて強靭なテクニックの持ち主でした。アリスはずっと舞台に出ずっぱりで、踊りも多い役のため、大変な体力が必要だったと思うけど、最後まで元気いっぱい、爽やかに演じてくれたサラに拍手です。ハートのジャックのフェデリコ・ボネッリは、独特のスイートな雰囲気がよくマッチしていたし、パ・ド・ドゥでは難しいサポートもたくさんあったけど、とってもスムーズにこなしていました。もちろん、スティーヴン・マックレーのマッド・ハッターのタップのテクニックは凄まじくて、すっかり場をさらっていました。1幕はアリスが一人で演じるところや、パ・ド・ドゥなどが長くて、少々間延びした部分があって退屈したところもあったのですが、3幕でハートの女王がタルト・アダージオ(ローズ・アダージオのパロディ)を踊ったところから、とても盛り上がり、花たちのワルツやトランプなどの群舞も華やかでした。英国的な諧謔趣味が出ているところは、なかなか楽しく思えました。金子扶生さん、小林ひかるさん、高田茜さん、蔵健太さんと日本人ダンサーが活躍しているのは嬉しかったです。ゲネプロでは、3人の庭師役でアクリ瑠嘉さんも出演していて、鮮やかなテクニックを見せてくれました。

さて、そのロイヤル・バレエの会場で、スティーヴン・マックレーをフィーチャーしたコミックを掲載した新しいバレエ雑誌が創刊されるということで、チラシが配られていました。

「クララ」別冊で、バレエを習うボーイズのためのバレエ雑誌「ダンシン」が8月5日に新書館より発売されるそうです。
http://www.shinshokan.co.jp/dancin/

創刊号では、熊川哲也さん、スティーヴン・マックレーのインタビュー、男性ダンサーのテクニック図鑑などなどの内容が載るほか、スティーヴン・マックレーをモデルにしたバレエ漫画が連載されるとのことです。バレエ少年ダンと、マックレー先輩が踊りの力で悪と闘うという話だそうで、とても面白そうですね。作者は足立たかふみさん。

ここにそのサンプルが少し。
http://www.shinshokan.co.jp/dancin/comic_sample.html

足立たかふみさんのブログでも、このコミックについて少し紹介し、また意気込みも語られています。
http://hottate2.exblog.jp/20466393/

男の子向けのバレエ雑誌が創刊されるということは、それだけバレエを習う子が増えてきたのでしょうか?いずれにしても、こうやってバレエの裾野が広がって、コミックなどを通して若い男の子たちがバレエに親しむことができるのは、とてもいいことですね。

プーシキン美術館展 フランス絵画300年

7月6日より横浜美術館にて開催されている、「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」の夜間特別観覧会にお招きいただきました。

http://pushkin2013.com/

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本展は2011年4月に開催される予定だったのが、東日本大震災のために中止となった。その後、やっと今回開催できる運びとなったのだった。初日には、オープン前に230人もの人が行列を作ったということで、たいへん待ち望まれていた展覧会。

モスクワにあるプーシキン美術館は、65万点もの収蔵品があり、中でも17世紀から19世紀までのフランス絵画は世界屈指のコレクションを誇る。ロシア革命で国に接収された個人コレクションを、エルミタージュ美術館とともに分け合い、国民的な詩人・作家のプーシキン(「オネーギン」の作者)の没後100年を記念して、1937年に現在の名称に改められた。

その中から、選りすぐりの66点が出展。ロシア人が憧れたフランス文化の遺産、そして印象派最高の肖像画の一つである「ジャンヌ・サマリーの肖像」がこの展覧会の目玉である。

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18世紀の女帝エカテリーナ2世は、フランス人の啓蒙思想家と交流するなどのフランス通で、皇帝となって間もなく、莫大な資金を投じて美術品の収集を開始したのが、ロシアが充実したフランス絵画コレクションを有する理由の一つだ。

そして、19世紀から20世紀初頭にかけて、素晴らしいコレクションを築き上げたのが、イワン・モロゾフとセルゲイ・シチューキンという二人の実業家。繊維業で富豪となった彼らは、1918年のロシア革命で資産を国に接収されるまで、企業家兼大コレクターとして活躍した。シチューキンは無名時代のマティスやピカソを発掘し、マティスに大作《ダンス》と《音楽》を注文して、「マティスルーム」を自宅に作って飾り、本人を招いた。モロゾフは、ルノワール、セザンヌ、ゴーギャン、ボナール、ドニを中心に、美術史の流れに沿った体系的なコレクションを作り上げた。革命で接収された彼らの自宅は、そのまま第一西洋近代美術館、第二西洋近代美術館となり、23年に国立西洋近代美術館となって、48年にこのコレクションがエルミタージュとプイーシキンに分割されることになったのだ。

(ところで、モロゾフは気の毒に、自分のコレクションが接収されたあと、自宅だった第二西洋近代美術館で学芸員と働いていたとのこと)

印象的な作品をいくつか紹介する。(写真は、夜間特別観覧会のため、特別に主催者の許可を得て撮影しています)

フランソワ・ブーシェ
≪ユピテルとカリスト≫
18世紀ロココ芸術を代表するブーシェの本領が発揮された美しい作品。ニコライ・ユスーポフ公爵が購入してロシアに持ち込んだ。

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ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル
≪聖杯の前の聖母≫
ニコライ皇帝1世の息子、アレクサンドル皇太子(のちのアレクサンドル2世)が、アングルに直接発注した作品。聖母マリアの後ろに、ニコライ1世とアレクサンドルの守護神を描いている。マリアの首を長く、手を大きく描くなど、実際の人体に変形を加えて、優美さを表現した作品。マリアの静謐で気品あふれる表情がとても印象的。

クロード・モネ
≪陽だまりのライラック≫
印象派特有の、きらめく光の効果を追求し色彩のハーモニーを表現した作品。シチューキンの印象派コレクションの中でも最初のほうに購入された。

ピエール=オーギュスト・ルノワール
≪ジャンヌ・サマリーの肖像≫
コメディ・フランセーズの人気女優だった当時20歳のジャンヌ・サマリーを描いた。肖像画に印象派の手法を応用している。暖色系の色彩に、モデルの愛らしさが表現されていて幸福感を与えてくれる作品。モロゾフがパリの画商から購入した。

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エドガー・ドガ
≪バレエの稽古≫
右側に張り出した螺旋階段が独特の効果をもたらしている。床を多めに描き、アラベスク・パンシェをする二人のバレリーナのシルエットが連なっている様子と窓から差し込む光の効果が素敵。

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フィンセント・ファン・ゴッホ
≪医師レーの肖像≫
耳を切って神経症を患い入院したゴッホを治療した医師、フェリックス・レー。彼への感謝の気持ちをこめて、ゴッホは肖像画を描き贈るが、レーはこの絵を気に入らず、鶏小屋の穴を塞ぐのに使っていた。売り払われた絵を、シチューキンが購入。力強い線とバックの地模様が印象的。


ポール・ゴーギャン
≪エイアハ・オヒパ(働くなかれ)≫
左側の人物は男性だと思うのだけど、ちょっと両性具有的な雰囲気があって妖しく魅力的。これもシチューキン所有の作品。

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第4部、20世紀絵画は撮影できなかったのだけど、シチューキンが発掘したマティス、ピカソ、そしてシャガールやレジェなどの素晴らしい作品が並んでいた。


ところで、今回は音声ガイドも貸していただいた。ナビゲーターは水谷豊さん。落ち着いた口調でとても聞きやすい。

http://pushkin2013.com/goods/

そして、物販コーナーも充実していた。なんといっても、このロシア製マトリョーシカが可愛い~。

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これまた可愛いチェブラーシュカも売っている。

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Tシャツ、ピンズなどもとてもキュートなオリジナルグッズが製作されていたけど、時間がなくてゆっくりできず買えなかったのが残念!ポストカードとマグネット、一筆箋は買ったけど。

さて、この展覧会のオフィシャルサイト、スペシャルコンテンツ「プーシキン 秘められた物語」がとても充実している。
http://www.i-museumtalk.com/special/pushkin2011.html

中でも、鹿島茂さんの「女優の肖像」では、ジャンヌ・サマリーと当時の女優たちの生活や彼女たちを取り巻く社会について書かれていて興味深いし、池田理代子さん書き下ろしの「三都物語」では、サンクトペテルブルク、モスクワ、パリ。この3都市を舞台に、コレクターや画家、モデルが織りなす物語「三都物語」を書き下ろしている。現在公開中なのは、コレクター、シチューキンの実生活上の悲劇についての「モスクワの悲劇」で、ロシア革命前の激動の時代に彼の私生活を襲った数々の悲劇についてドラマティックに描かれている。彼がなぜこれほどまでの情熱を持ってコレクションに打ち込んだのかがよくわかる。

こちらの公式ガイドブックでは、この「三都物語」も読める。

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プーシキン美術館展公式ガイドブック (AERA Mook)
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<開催概要>
プーシキン美術館展 フランス絵画300年
Masterpieces of French Paintings from the State Pushkin Museum of Fine Arts, Moscow

会期
2013年7月6日(土)~9月16日(月・祝)

会場
横浜美術館
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1 アクセス

開館時間
10:00~18:00
(8月、9月の金曜日は20:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)

休館日
木曜日(ただし8月1日、15日は開館)

お問い合わせ
ハローダイヤル03-5777-8600
(8:00~22:00 無休)

主催
横浜美術館、朝日新聞社、テレビ朝日、BS朝日、プーシキン美術館、ロシア連邦文化省

(2013年9月28日(土)~12月8日(日)には神戸市立博物館へ巡回)

ボリショイ劇場のイクサノフ総裁が解任される

ロシアのメジンスキー文化相は9日、国立ボリショイ劇場のアナトリー・イクサノフ支配人を解任し、後任にモスクワ音楽アカデミー劇場のウラジーミル・ウリン支配人を充てると発表した。メジンスキー文化相は支配人交代について「劇場とバレエ団を取り巻く状況が難しくなっており、人心の一新を必要としていた」と指摘した。
(毎日新聞の記事「ロシア:ボリショイ劇場支配人を解任…スキャンダル相次ぎ」)より

Bolshoi Director Is Removed After Scandals
http://www.nytimes.com/2013/07/10/world/europe/bolshoi-director-forced-out.html

Bolshoi chief exec Iksanov ‘to go’
http://www.ismeneb.com/Blog/Entries/2013/7/9_Bolshoi_chief_exec_Iksanov_to_go.html

http://izvestia.ru/news/553359

セルゲイ・フィーリン芸術監督襲撃事件、そしてニコライ・ツィスカリーゼによる劇場批判、改装工事の予算超過や手抜き工事などのスキャンダルに見舞われたボリショイ劇場。ツィスカリーゼを批判し、矢面に立っていたイクサーノフはついに解任されてしまいました。(本来の任期は2014年12月まで) ツィスカリーゼが6月末で解雇されたために、イクサーノフ対ツィスカリーゼの戦いはイクサーノフの勝利だと思われてましたが、そう簡単にことは運ばなかったようです。そして、「オネーギン」のザハロワ降板事件も、最後の打撃となったようです。

2000年からボリショイ劇場の総裁として辣腕を振るってきたイクサーノフは、ラトマンスキーを芸術監督に招き、マッツ・エックやプレルジョカージュなどの現代作品を取り入れ、さらにセルゲイ・フィーリンも芸術監督に据え、ボリショイ劇場の大規模な改装工事を完了させるなどの大きな功績を誇っていました。ボリショイの総裁に就任する前には、サンクトペテルブルグのマールイ劇場(ミハイロフスキー劇場)の事務局長を務めていました。

New York Timesの記事によれば、イクサーノフを解任しようという動きは3年くらい前からあったとのことです。アーティストと運営側の争議があった場合、ほとんどの人はアーティスト側に立ち、運営側は批判されることが多く苦労は絶えなかったようです。彼の解任をめぐっては、さまざな意見があるようですが、ロシアのある舞台評論家によれば、イクサーノフを失うことはロシア文化にとって大きな損失であり、スキャンダルが多く報道された背景には、彼を追い落とそうとするキャンペーンがあったのではないか、とのことです。

後任となるウリン氏のプロフィールはこちらの記事に詳しいです。
http://pda.itar-tass.com/en/c32/801014.html

1973年から様々なロシアの劇場の支配人を務めたウリン氏は、黄金のマスク賞を設立し、1995年からモスクワ音楽劇場(ダンチェンコ)の支配人を務めてきました。また、1997年以来、彼はヨーロッパ各国、米国、カナダの大使館や文化庁と共同の「国際コンテンポラリーダンスフェスティバル」の事務局長も務めています。以前はシュベツコイ文化大臣につぐ文化庁ナンバーツーでした。ダンチェンコも、以前芸術監督を務めていたブリヤンツェフが行方不明になり殺害されていたという事件がありました。

ちなみに、ウリンに話が行く前に、最初にヴァレリー・ゲルギエフのところにオファーが行ったようですが、ゲルギエフはマリインスキーと兼任したいと言ったため実現しませんでした。

ダンチェンコで成功を収めてきたとは言え、ウリン氏がこの巨大な劇場をどうやって運営していくのかは未知数。これ以上混迷を極めることがありませんように。

今となっては幻の、ザハロワとホールバーグの「オネーギン」リハーサル映像
http://www.vesti.ru/videos?vid=520070&cid=460

こちらは、オブラスツォーワとホールバーグが「オネーギン」をリハーサルする様子。(オブラスツォーワのチャンネルから)
http://youtu.be/EJweNm_8Muw

ちなみに、ロシア語の上、大変長い記事なのですが、ボリショイ劇場の諸問題についての告発的な記事が出ています。その中で、反フィーリン派のダンサーたちが干されている、待遇が悪くなったなどのことが言及されていますが、衝撃的だったのは、劇場の掃除人の方が、ダンサーよりも多くのボーナスを受け取っているということ。
http://www.svoboda.org/content/article/25035210.html

石井久美子さんが、日本人初のマリインスキー・バレエ正式団員に

マリインスキー・バレエでは、最近外国人団員の活躍が目立っています。「白鳥の湖」「ドン・キホーテ」などに主演した韓国出身のファースト・ソリスト、キム・キミン、英国出身でロイヤル・バレエから移籍し、「ジゼル」に主演したり、映画館中継された「白鳥の湖」ではパ・ド・トロワを踊り、幕間のインタビュー映像にも登場したザンダー・パリッシュ(コリフェ)、そして「ドン・キホーテ」に主演したアメリカ出身のキーナン・カンパなど。

そして現在18歳の石井久美子さんが、日本人初のマリインスキー・バレエ正式団員として入団することになりました。

http://www.pref.tochigi.lg.jp/c01/houdou/h25wanowa_bare2.html

栃木県で行われている第16回 ロシア国立ワガノワ・バレエ・アカデミー 留学生オーディション合格者である石井さんは、ワガノワ・バレエ・アカデミーへ2011年9月から2013年6月までの2年間留学し、6月末に卒業、帰国。現在ビザ取得待機中。9月上旬ロシアへ出発予定だそうです。

石井さんの、マリインスキー・バレエでのご活躍をお祈りします。


追記:ジャパンアーツのブログで、石井さんの詳しいプロフィールが掲載されていました。
http://www.japanarts.co.jp/blog/blog.php?id=491
リュドミラ・コワリョーワ先生に師事しているんですね。

アリーナ・コジョカル、ENB(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)に入団

先日のロイヤル・バレエの来日公演「ロイヤル・ガラ」を最後にロイヤル・バレエを退団したアリーナ・コジョカル。そのアリーナが、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)に入団することが発表されました。

ENBのプレスリリース
http://www.ballet.org.uk/news/news-archive/alina_cojocaru_joinsenb/

アリーナ・コジョカルは、「ENBに入団することを楽しみにしています。このバレエ団のレパートリーが提供する機会、古典と現代作品の組み合わせ、そして私が尊敬する振付家と仕事をするチャンスに惹きつけられています。英国で踊ることはずっと楽しんできており、ENBではロンドン以外の観客へも舞台を見せる機会を与えられることを嬉しく思います。新しい挑戦は恐れていなくて、未来において何が待っているのか楽しみです。タマラの芸術に対する情熱を分かち合い、今後何が起きるのかワクワクしています」と語っています。

ENBの芸術監督であるタマラ・ロホは、「アリーナは彼女が最も尊敬するダンサーのひとりであり、彼女の素晴らしいテクニック、ドラマティックな踊りと芸術性の高さは私を含む多くの人のインスピレーションの源となってきました。カンパニーのダンサーたちは、彼女のようなスターアーティストが入団することにわくわくしており、このバレエ団でアリーマが求めるアーティスティックな挑戦やチャンスを与えることができることを私は確信しています」と語っています。

アリーナのENBでの初舞台は、新制作の「海賊」のメドーラ役で、ミルトン・キーンズでの初日(10月17日)を踊る予定です。また、ロンドン・コロシアムでのクリスマスシーズンの「くるみ割り人形」、2014年4月のバービカン・センターでの新作「Lest We Forget」(第二次世界大戦にインスピレーションを得た作品でアクラム・カーン、ラッセル・マリファント、リアム・スカーレットが振付に参加)、そして6月のロイヤル・バルバーとホールでの「ロミオとジュリエット」などに出演を予定しています。

アリーナは、リード・プリンシパルとして入団します。また、今まで彼女が関係を築きあげてきたハンブルク・バレエ、ABTには引き続きゲスト出演を続けます。


ロイヤルを退団したコジョカルが、元同僚でライバルとも目されていたタマラ・ロホ率いるENBに入団したのにはびっくりですが、しかしながら、とても良い選択であると感じられます。引き続きロンドンの観客に踊りを見せることができ、そしてロホが様々な新しいことに意欲的に挑戦している今、ENBが面白い時期にきていると思われるからです。現在、タマラもまだ踊っているわけですが、アリーナとの強力な二枚看板が誕生するわけで、さらにダリア・クリメントヴァ、ワディム・ムタギロフというスターもいるわけです。ぜひとも、日本にENBを招聘して欲しいなと願っています。

ロイヤル・バレエのトップスターではあったものの、怪我に悩まされてきたアリーナ。一方で、ロイヤルにおいては、彼女のために創作された作品が少なく、振付家とのコラボレーションを求めていたのではという報道もあります。ゲスト出演しているハンブルク・バレエでは、ジョン・ノイマイヤーが彼女に「リリオム」を振付け、この作品で彼女はブノワ賞を受賞しました。ENBにおいても新作への出演への意欲を語っています。

ちなみに、映画「ファースト・ポジション」に登場したジョアン・セバスチャン・ザモーラも、ENBに入団することになったようです。
http://balletnews.co.uk/the-royal-ballet-school-graduates-2013/

6/23 シュツットガルト・バレエ「クラバート」 Stuttgart Ballet Krabat

今年の3月に世界初演された新作「クラバート」。ドイツのみならず世界中でベストセラーとなっている児童文学の傑作を原作に、まだ27歳というコール・ド・バレエ所属の振付家デミス・ヴォルピが全幕作品を振りつけた。この作品の成功で、デミスは、シュツットガルト・バレエ専任振付家に任命された。とにかく大人気を呼んだこの作品、チケット争奪戦は大変なもので全公演ソールドアウトとなり、来シーズンは12回の再演が決定している。

http://www.stuttgart-ballet.de/schedule/2013-06-06/krabat/

CHOREOGRAPHY Demis Volpi
MUSIC Peteris Vasks, Philip Glass, Krzysztof Penderecki, Mühlenmusik
CONDUCTOR James Tuggle
LIBRETTO AND DRAMATURGY Vivien Arnold
STAGE AND COSTUMES Katharina Schlipf
LICHTING Bonnie Beecher
TRICKTECHNISCHE KONZEPTION Andreas Meinhardt
CHILDREN'S CHOIR rehearse and direct Christoph Heil,
ORCHESTRA Staatsorchester Stuttgart
22. März 2013

HERR GEVATTER(ゴッドファーザー) Sue Jin Kang
THE MASTER Marijn Rademaker
KRABAT David Moore
THE KANTORKA Elizabeth Wisenberg
TONDA Alexander Jones
WORSCHULA A|licia Amatriain
PUMPHUTT(デカ帽) Angelina Zuccarini
JURO Arman Zazyan
MERTEN Matteo Crockard-Villa

宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」にもインスピレーションを与えた原作は、児童文学でありながら、善と悪、人智を超えた力をどう使うか、自由とは何か、そして愛と人生の意味も教えてくれる、味わい深く幅広い年齢層に愛されている作品だ。ひょんなことから水車小屋で働くことになった孤児クラバート。彼を含む12人の少年が、親方の下で働いているのだが、やがて彼らは親方によって魔法の使い方を教えられる。最初は不思議な力を身につけられることにワクワクするクラバートだったが、そこには恐ろしい代償があった。彼らは、毎年一人ずつ仲間が死んでいくという呪われた事実に直面する。ここを抜け出す道はただ一つ、彼を愛する女性が愛の試練に打ち勝つこと。ただし、この試練に失敗した時には、二人には死が待っている…。

ドイツの仄暗く鬱蒼とした森の中で繰り広げられる魔術的な物語なのだが、この作品の成功は、圧倒的なインパクトを持つビジュアルに負うところが大きい。水車小屋で少年たちは労働に勤しみ小麦粉を挽くため、うずたかく小麦粉の袋が1000個も積み上げられていて、この小麦袋を日々運搬する彼らの抑圧感を表現することに成功している。黒を基調としたモノトーンの衣装はスタイリッシュで、時にはカラスに変身する少年たちの姿も違和感がない。そこに背景が描かれているバックドロップが降りてくるだけで、水車小屋は、少女たちが歌う草原に変貌する。親方も歯が立たない大親分の造形デザインに至るまで、視覚的なセンスの鋭敏さは大きなインパクトを与えてくれる。少女たちは薄い半透明の仮面をかぶっていて、その仮面に目や口が描かれているが、感情が交わるとその仮面が剥がれる。

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デミス・ヴォルピは、少年たちのダイナミックな群舞やクラバートのソロの振付についてはとても現代的なアプローチで迫っている一方で、水車小屋の職人頭でクラバートに大きな影響を与え、そして悲劇的な死をと遂げるトンダと、その恋人ヴォルシューラのパ・ド・ドゥはクラシカルでとても美しく描いており、それは終盤のクラバートとカントルカ(歌う少女、という意味)のパ・ド・ドゥにも結びついてくる。巨大な悪として描かれている親方は、長い黒いコートを着用して基本的には踊らない役なのだが、2幕で現れた謎の魔法使い「デカ帽」との対決では、一転して激しいアクションを見せる。

この作品のクライマックスの一つが、デカ帽と親方との対決シーン。原作では男性だったデカ帽だが、ここではパンキッシュな少女が演じており、ロック少女から着物の和装、カウガールと早変わりしながら、アクション映画さながらの驚異的な身体能力を見せるアンジェリーナ・ズッカリーニが鮮烈な印象を与えた。(なお、別キャストではこの役は、森田愛海さんが演じていた)親方を演じたマライン・ラドマーカーは、ここではスキンヘッドに眼帯という姿で、カリスマ性たっぷりに圧倒的な悪人を体現した。そんな彼も、デカ帽との対決では長い上着を脱ぎ鋭敏なアクションを見せつつも、やりこめられそうになったところにその人間性の一端を見せる。

二人の悲劇を暗示させるかのようなトンダとヴォルシューラのパ・ド・ドゥは儚く夢のようで、アリシア・アマトリアンの柔軟な肢体が雄弁に語り、アレクサンダー・ジョーンズの見事なパートナーリングも相まって強い印象を残した。そして3幕では、クラバートとカントルカが愛の試練について話し合うところをパ・ド・ドゥに置き換え、クラバートの決意を込めた力強いソロまでの流れを、物語が手に取るようにわかるよう表現しており、ここにヴォルピの振付家としての手腕の鮮やかさが見て取れる。クラバートとトンダ、そしてのろまなユーロとの友情、カントルカとの出会い、愛の試練と親方の破滅と、余計な部分を削ぎ落とし、物語バレエとしての話の流れを巧みに伝えられることができているのは、ドラマツルギーの専門家を入れて、丁寧に構成した成果であろう。

(「クラバート」制作に当たってのプロセスの日記も大変興味深い)

フィリップ・グラスなど既存の音楽を中心に現代曲で作り上げた音楽もとても効果的で、中でも少女たちの歌を表現した児童合唱によって清冽な印象が、全体的にはダークな物語の中で光のように差し込むようになっているのは感動的である。カントルカの歌声に魅せられて、クラバートが彼女に恋をして、閉塞的な毎日の中での希望の光としているのがよく伝わってくる。バレエというものが、振付だけでなく、音楽、美術、物語を含む総合舞台芸術である所以を感じさせる作品だ。

原作が3年間の物語であり、1年間の出来事を1章ごとに分けている構成であるため、この作品も3幕仕立てになっている。そのため、少々長く感じられる部分がある。また、12人の魔法使いの少年たちが登場するという魅力的な設定の割には、案外彼らの踊りのシーンが少なく感じられるなど、欠点がないわけではない。しかしながら、人気のある原作を元に、ひとつの長編バレエ作品として破綻なく、斬新さも持ちながら子供から大人まで楽しめる娯楽作品に仕上げたヴォルピの才能は見事なものだ。このような若い振付家に、大きな予算の大作を任せるという賭けに出て、大成功に導いた劇場の決断力と実行力も素晴らしい。特に親方とデカ帽の対決シーンは子供たちには大人気だったようで、大きな喝采を浴びていた。

クラバート役のファースト・キャストをみずみずしく演じたデヴィッド・ムーアがソリストに、しなやかで能弁な腕の動きで少女カントルカ役を表現したエリザベス・ワイゼンバーグがデミ・ソリストに昇進した。また、別キャストでクラバート役を演じたダニエル・カマルゴがプリンシパルに、デカ帽役の森田愛海さんがデミ・ソリストにと、若手ダンサーに大きなチャンスを与えた作品ともなった。ヴォルピ始め若手にチャンスを与えるシュツットガルト・バレエの勢いも感じさせたのが、この「クラバート」である。

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原作も素晴らしいので、ぜひともご一読を。大人が読んでも惹きつけられる作品です。

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クラバート
クラバート
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7/10 ロイヤル・バレエ「ロイヤル・ガラ」Royal Ballet Royal Gala

7/10(水)18:30- 東京文化会館

指揮者:ボリス・グルージン、ドミニク・グリア
オーケストラ: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

「ラ・ヴァルス」 La Valse
振付:フレデリック・アシュトン/音楽:モーリス・ラヴェル
小林ひかる、平野亮一、
ヘレン・クロウフォード、ブライアン・マロニー、
ローラ・マカロック、ヨハネス・ステパネク

黒から赤、紫、白へのグラデーションした女性の衣装がとても美しい。舞踏会をイメージした暗い照明もドレスの美しさを際立たせる。振り付けそのものは取り立てて興味深いものではないのだが、ラヴェルの音楽をうまく視覚化している。上の方の席だったので全体のフォーメーションがよくわかる。中心の平野さん、小林さん始め、群舞にも蔵健太さんや金子扶生さんがいたが、日本人のプロポーションが劇的に良くなっているのを実感。反面、女性群舞でたまにびっくりするくらい太めの人がいるのに驚かされる。


「コンチェルト」 第2楽章 Concerto Second Movement
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ドミートリ―・ショスタコーヴィチ
メリッサ・ハミルトン、ルパート・ペネファーザー
ピアノ:ケイト・シップウェイ

ショスタコーヴィッチのピアノコンチェルトの演奏がとてもクリアで美しかった。身体のラインのきれいなハミルトン、ペネファーザーの金髪コンビは、音楽の叙情性をポエティックに表現していたけど、この演目は小林紀子バレエシアターの島添亮子さんが踊ると素晴らしいので、そのレベルの情感にまでは達していなかった。硬質な印象が残る。


「クオリア」 Qualia
振付:ウェイン・マクレガー/音楽:スキャナー
リャーン・ベンジャミン、エドワード・ワトソン
(※特別録音された音源を使用)

エドワード・ワトソンのあまりにも柔軟な四肢は、マクレガー作品を踊るのに最適な肉体で、その奔放性には驚かされるのだが、さらなる驚きが待っていた。このガラがロイヤル・バレエの引退公演であるリアン・ベンジャミンの強靭さ、音楽性そして果敢さだ。49歳という年齢にして、この身体能力と鋭敏さは驚異的であり、これで引退となるのがあまりにももったいない。作品は短かったものの、マクレガーらしいエッジの効いたもので楽しめた。


「アゴン」 パ・ド・ドゥ Agon
振付:ジョージ・バランシン/音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
ゼナイダ・ヤノウスキー、カルロス・アコスタ

長身のゼナイダ・ナノウスキーの肢体が、この現代的な、不協和音だらけの作品にはぴったり合っていて、実にスタイリッシュ。アコスタとの視覚的な対比も鮮やかだった。


「雨の後に」  After the Rain
振付:クリストファー・ウィールドン/音楽:アルヴォ・ペルト
マリアネラ・ヌニェス、ティアゴ・ソアレス
ヴァイオリン:高木和弘
ピアノ:ロバート・クラーク

アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」を使った、ゆったりとして静謐な作品。NYCBでウェンディ・ウェーランが踊った印象が鮮烈に残っている。髪を下ろしてピンクのレオタードを着用したマリアネラ、隅々まで美しい。このポーズがものすごく印象的なのだけど、上階から観るとそこまでのインパクトはなかった。ところで、「雨の後に」という邦題はいけていないので、NYCBの来日公演の時と同様、「アフター・ザ・レイン」という原題を使って欲しかったと思う。


「ドン・キホーテ」 第3幕よりパ・ド・ドゥ  Don Quixote act 3 pas de deux
振付:マリウス・プティパ/音楽:ルートヴィク・ミンクス
ロベルタ・マルケス、スティーヴン・マックレー

スティーヴン、去年の世界バレエフェスティバルの全幕「ドン・キホーテ」では片手リフトをしなかったようだけど、今回はしっかりと決めていた。絶好調ではなさそうだったけど、それでも、ヴァリエーションのピルエットをあいだに挟んだスピーディな連続トゥールザンレールは魅せたし、マネージュも軽やかで高い。ロベルタは、バランスを長くとって頑張っていた。グランフェッテは、右足軸のアン・デダンで回るという難易度が高く珍しいことをやっていたけど、少々不安定だった。(そして、後日の発表によれば足を痛めて12日、コジョカルの代役で踊る予定の「白鳥の湖」を降板。ただし、13日の当初踊る予定の日には踊った)「ドン・キホーテ」は10年ぶりにロイヤル・バレエで、カルロス・アコスタの再振付によって上演されるとのことだが、今回のランチベリー編曲には違和感があった。


「うたかたの恋」 第3幕より  Mayerling act 3
振付:ケネス・マクミラン/音楽:フランツ・リスト
アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー、リカルド・セルヴェラ

パ・ド・ドゥだけでなく、ブラットフィッシュのソロつき。このブラットフィッシュ役のセルヴェラが素晴らしかった。踊りにキレがあるだけでなく、おどけながらも必死にルドルフを元気づけようとする彼の健気さと忠誠心を感じさせた。この舞台は、ヨハン・コボーとアリーナ・コジョカルのロイヤル・バレエ最後の舞台となった。満身創痍のコボーは、リフトなどはかなり苦しそうだったが、お得意の狂気みなぎる演技はここでも突き抜けていた。コジョカルの愛らしい無邪気さの中には、死に魅せられたファム・ファタルらしさがにじみ出て、まるで死神のようだった。マリーを殺したあとで自身に銃口を向け斃れるルドルフの死に方、こんなに派手に死んでいったルドルフを観るのは初めてだったと思う。曰くありげにロイヤルを去る彼らと、追い詰められて死を選ぶルドルフとマリーの姿を思わず重ねてしまった。


「白鳥の湖」 パ・ド・カトル  Pas de Quatre from Swan Lake
振付:フレデリック・アシュトン/音楽:P. I. チャイコフスキー
エマ・マグワイア、高田茜
ダヴィッド・チェンツェミエック、ヴァレンティノ・ズケッティ

アシュトンによる「白鳥の湖」パ・ド・カトルは初めて観た。いかにもアシュトン的な、上半身にひねりの効いた難しそうな振り付け。音楽は、ブルメイステル版白鳥で使われている3幕コーダの曲や、グリゴローヴィッチ版ではロットバルトの3幕のソロに使われている曲、同じくグリゴローヴィッチ版のオディールのヴァリエーションの曲など。トリエンツェミエックとズケッティは、踊りのタイプは随分異なっているが、二人とも伸びしろを感じさせるクラシックな踊り手。特にトリエンツェミエックのバットゥリーは美しい。高田さんも、マグワイアも、この細かな動きをよく踊りこなしていた。珍しい作品が観られて良かった。


「温室にて」  From the Hothouse
振付:アラステア・マリオット/音楽:リヒャルト・ワーグナー
サラ・ラム、スティーヴン・マックレー
メゾ・ソプラノ: マリア・ジョーンズ

ワーグナーが、「トリスタンとイゾルデ」の習作として作曲した音楽を使用。長いドレスに身を包んだメゾソプラノ歌手が女優のようにゴージャスな美女だった。その横で、横たわった二人が、サラ・ラムとスティーヴン・マックレー。二人とも柔軟な肢体の持ち主で、とても美しかったが、音楽の力に押されて踊りが目立たなかったような。せっかくのマックレーとラムの使い方としてはもったいなかった気がする。


「春の声」  Voices of Spring
振付:フレデリック・アシュトン/音楽:ヨハン・シュトラウスⅡ世
崔由姫、アレクサンダー・キャンベル

同じ演目を、世界バレエフェスティバルでアリーナ・コジョカルとヨハン・コボーが踊ったのが記憶にある。砂糖菓子のように愛らしかったコジョカルと比較すると、ユフィさんは同じ愛らしい系統でも、ちょっとはにかみやさんで繊細そうな印象。とても軽やかで春風のようだった。キャンベルは、ユフィさんのパートナーを務めるには小柄でかつ重そう。


「眠れる森の美女」 目覚めのパ・ド・ドゥ  Sleeping Beauty Awakening Pas de Deux
振付:フレデリック・アシュトン/音楽::P. I. チャイコフスキー
金子扶生、ニーアマイア・キッシュ

「眠れる森の美女」の中でも、最も美しい間奏曲を使ったオーロラの目覚めのパ・ド・ドゥ。ロイヤル・バレエに在籍する日本人女性ダンサーの中でも、金子さんは最も大器かもしれない、そんな予感を感じさせる気品あふれる踊り。細やかで情感豊かで、歌うように踊っていて、ロイヤル的な特質を感じる。欧米人的な体型なのに、少しだけ吉田都さんを思わせるゆかしさがある。


「ジュビリー・パ・ド・ドゥ」 Jubilee Pas de Deux
振付:リアム・スカーレット/音楽:アレクサンドル・グラズノフ
ラウラ・モレーラ、フェデリコ・ボネッリ

グラズノフの「バレエの情景」の第3曲を使用。華やかな音楽に合わせ、衣装もロイヤル・ブルーにキラキラ光る石がついていて目に鮮やかだ。なんてことのないクラシカルな作品ではあるが、打ち上げ花火のような華麗さ、テクニックの見せ場があって飽きない。そしてこれを踊ったラウラ・モレーラ、フェデリコ・ボネッリとも、きっちりと魅せてくれて、ダンサーとしての高い能力とすぐれた音楽性を感じさせてくれた。


「マノン」 第1幕第2場よりパ・ド・ドゥ  Manon 1st act pas de deux
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ、編曲:レイトン・ルーカス
リャーン・ベンジャミン、カルロス・アコスタ

マクミランに直接指導を受けた最後のバレリーナであるベンジャミンの最後を飾るにふさわしい、「マノン」。マノンの小悪魔性と無邪気さを小柄な身体で見事に表現し、一つ一つの動きに意味を持たせるベンジャミンの至芸に酔いしれた。とても49歳で、これが最後の舞台とは思えない。アコスタも良いサポートを見せた。ベッドがなかったことだけが残念だったが、いつまでも幸福な余韻を抱きしめていたいような舞台だった。


「シンフォニー・イン・C」 最終楽章 Symphony in C Last Movement
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ジョルジュ・ビゼー
サラ・ラム、ヴァレリー・ヒリストフ
マリアネラ・ヌニェス、ティアゴ・ソアレス
崔由姫、アレクサンダー・キャンベル
イツァール・メンディザバル、リカルド・セルヴェラ

群舞の揃い方、プロポーション、バランシンらしい硬質さ、どれをとっても新国立劇場バレエ団のほうが上である。男性のプリンシパルダンサーが一人しか出演していないというのも残念なキャスティンぐで、男性プリンシパル役で良いと感じたのはリカルド・セルヴェラだけであった。もう少し豪華さが欲しかった。とはいえ、サラ・ラム、マリアネラ・ヌニエス、そしてチェ・ユフィと女性プリンシパル役のレベルは非常に高く、3人が三様の美しさを魅せてくれた。先ほどの現代的な柔軟性を見せた姿とは反対の、バランシンらしい切れ味のサラ・ラムの目もくらむばかりの輝かしさ、マリアネラ・ヌニェスの音楽を的確に捉える力、そしてユフィさんの正確で清潔感あふれる動き。この3人が観られただけで満足である。コリフェで、蔵健太さん、金子扶生さん、高田茜さんも活躍していて、このバレエ団の日本人ダンサーのレベルの高さを改めて実感した。バランシンは、上階から観たほうがずっと楽しめることを、ここでも実感した。


前半に連続して現代演目が続いたため、それを退屈に思っていた観客が「ドン・キホーテ」で思わず安堵していたようだったが、個人的には、現在のロイヤル・バレエらしいレパートリーが散りばめられていて良いプログラムだったと感じた。アシュトン、マクミランなどのお家芸から、バランシン、そして最近のマクレガー、スカーレットまで。ここでしか見られないような珍しい演目があったのも、興味深かった。

ところで、この公演は、リアン・ベンジャミン、アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボーのロイヤル・バレエ最後の舞台であった。それなのに、特にセレモニーもなければ、主催者/バレエ団からの花束贈呈もなかったのは残念に感じた。最後のカーテンコールでの、個別幕前カーテンコールもなかったのだ。ロイヤル・オペラハウスではセレモニーがあったとはいえ、長年バレエ団に貢献してきたダンサーたちに対してお別れができなかったことは寂しく思う。


さいたまゴールド・シアター×瀬山亜津咲(ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団) ワーク・イン・プログレス公開

世界的舞踊家、故ピナ・バウシュが芸術監督として展開し、今なお世界的に作品上演を行う、ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団。10年以上にわたって所属し活躍する日本人ダンサー、瀬山亜津咲(せやま・あづさ)をこのたび演出・振付に迎え、蜷川幸雄のもとたぐい稀な活動を続けている高齢者演劇集団さいたまゴールド・シアターが新たな身体表現に挑みます。

彩の国さいたま芸術劇場とヴッパタール舞踊団の縁は深く、ツアー上演のほか、2004年にはピナ・バウシュ演出・監修により、日本を題材にした新作『天地-TENCHI-』を当劇場にて制作しました。

昨年は、さいたまゴールド・シアターが瀬山さんを迎えて4日間のワークショップを開催。そこで彼らが出会ったのが“タンツテアター”という身体表現。ダンスの技巧に目を向けるのではなく、舞台で日常を再現する「演劇」のように、身振りや個人の体験を作品に取り入れ、個々の中にある様々な感情を仕草や表情、動きで表現していきます。

さいたまゴールド・シアターは、「年齢を重ねた人々が、その個人史をベースに、身体表現という方法によって新しい自分に出会う場を提供する」という蜷川の発案を基に、2006年に結成された高齢者演劇集団です。現在の団員数は、41名(男性15名・女性26名)、平均年齢は74.1歳。今年6月には、初の海外公演としてフランス・パリにて『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』を上演し、また神奈川、埼玉・熊谷において凱旋公演を行いました。役者の身体に立ち現れるリアリティ溢れる表現には定評を得ています。また結成以来、演技のレッスンに加え、日舞やダンスレッスンにもしばしば取り組み、これまで劇中に群舞を取り入れられたこともありました。このたびは更に、多様な身体言語を操る瀬山亜津咲との出逢いから、言葉を越えた新たな身体表現―タンツテアターへの挑戦を進めてくるとのことです。

ワークショップでの体験を踏まえ、この夏、再び瀬山亜津咲氏の演出・振付で、ワーク・イン・プログレスとして創作段階の作品を公開します。

さいたまゴールド・シアターが挑む、言葉を越えた新たな身体表現!!
なにが生まれるのか!?楽しみですね。

日程

2013年8月14日(水)~16日(金)

時間

8月14日は18時30分開演、15日、16日は14時00分開演(開場は開演20分前より)

料金

全席自由1,500円(チケットは7月28日よりSAFチケットセンターにて発売)

電話

0570-064-939

ウェブ

http://saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2013/p0814.html

場所

彩の国さいたま芸術劇場 大練習室


瀬山亜津咲さんといえば、映画「『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(ヴィム・ヴェンダース監督/2011年公開)での活躍も記憶に新しいところ。ピナ・バウシュ直伝のタンツテアターを、蜷川幸雄の元で鍛えられたさいたまゴールド・シアターがどのように表現するのか、とても興味深いところです。「ピナ・バウシュ/夢の教室」でも取り上げられた「コンタクトホーフ」では、ピナは、65歳以上のダンサーのみでの上演も行ってきました。どのような結果が今回はもたらされるのでしょうか。

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エトワール・ガラ2014開催予定

パリ・オペラ座バレエの若手エトワールを中心に2005年、2008年、2010年と開催されて大好評を博した「エトワール・ガラ」。豪華な出演陣はもちろん、本公演は出演ダンサーらが自ら公演をプロデュースすることも最大の魅力の1つとなっており、本拠地パリでも見られない貴重な共演や演目が並びます。ここだけで披露されるダンサーの新境地が見られるチャンスとして、世界中のバレエファンから注目を浴びる公演です。

さて、この「エトワール・ガラ」が2014年7月~8月に開催されることが発表されました。

Bunkamura25周年記念
エトワール・ガラ2014
http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/14_gala.html

過去最多数 7人のエトワールと3人のプリンシパルがBunkamuraに集結するとのことです。

<出演予定>
マチュー・ガニオ
ドロテ・ジルベール
マチアス・エイマン
イザベル・シアラヴォラ
エルヴェ・モロー
エレオノラ・アバニャート
バンジャマン・ペッシュ (以上、パリ・オペラ座バレエ エトワール)
オードリック・ベザール (パリ・オペラ座バレエ プルミエ・ダンスール)

シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ (以上、ハンブルク・バレエ プリンシパル)

エフゲーニャ・オブラスツォーワ (ボリショイ・バレエ プリンシパル)

合計11人の大変豪華な顔ぶれです。まだ1年以上先の公演ですが、とても楽しみですよね。この企画が4回目を迎えるのも、素晴らしいことです。

<公演日程>
2014/7/30(水)~8/3(日) 全5回公演

<会場>
Bunkamuraオーチャードホール

<その他の情報>
*出演者は2013年7月22日現在のものです。出演者の病気や怪我等、やむを得ない事情で変更となる場合があります。

[主催]
フジテレビジョン/Bunkamura
[企画協力]
ベルチェ・アソシエイツ

※チケット情報等の詳細は秋以降に発表予定とのことです。


7/20 ボリショイ・バレエ「オネーギン」 Bolshoi Ballet Onegin

ボリショイ・バレエの「オネーギン」初演を観るために、モスクワに行ってきました。初めてのロシアだったのですが、大変面白かったです。トレチャコフ美術館、プーシキン美術館、クレムリンの聖堂群、プーシキン博物館、赤の広場など、駆け足でしたが、モスクワの圧倒的に芸術的な環境に浸り、カルチャーショックはあれども楽しい旅でした。中でも、実際にプーシキンの肉筆で書かれた「エフゲニー・オネーギン」の原稿や、初版本、持ち物などを目にできたのは貴重な経験でした。

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新装となったボリショイ劇場は、目も眩むばかりの豪華さでした。チケット代もかなり高くて、「オネーギン」で7000ルーブル、来シーズンの「白鳥の湖」に至っては12000ルーブル(1ルーブルは約3円)と、来日公演よりも高い値段。劇場内の飲み物の高さにも驚きました。それでも、様々な話題を呼んだ「オネーギン」はチケットの売れ行きも大変よく、観たかったヴィシニョーワとゴメスの回はソールドアウト。来シーズンでの再演も決定しています。20日のシュツットガルト・バレエから5人がゲスト出演した回と、21日のオブラスツォーワ、ホールバーグの回を観ました。

http://www.bolshoi.ru/en/performances/655/

Choreography: John Cranko
Sets and Costumes: Jürgen Rose
Choreographic supervision: Reid Anderson
Ballet Masters: Agneta Valcu, Victor Valcu
Lighting Designer: Steen Bjarke
Music Director: Pavel Sorokin
Rights owner: Dieter Graefe

Arrangement and Orchestration: Kurt-Heinz Stolze

Conductor Pavel Klinichev

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20 July 2013

Onegin Evan McKie
Lensky, Onegin’s friend Friedemann Vogel
Madame Larina, a widow Anna Antropova
Tatiana, Larina’s daughter Alicia Amatriain
Olga, Larina’s daughter Anna Osadcenko
Their Nurse Irina Semirechenskaya
Prince Gremin, a friend of the Larina family Nikolay Godunov

この日は5人のメーンキャストがシュツットガルト・バレエのダンサーによって踊られた。18日にシュツットガルトの公演で同じキャストが出演していたこともあり、落ち着いた堂々たるパフォーマンスを見せてくれた。ロシアの観客に、これが本物の「オネーギン」だと見せることができたのではないだろうか。昼間にトレチャコフ美術館で、プーシキンの肖像画を見てきたので、感慨もひとしおであった。まさに、プーシキンの魂がロシアに帰ってきた、そんな気持ちである。「オネーギン」をいう作品を先達から伝えられ、大切に長年踊ってきたダンサーたちの想いが伝わる、素晴らしい公演だった。

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ボリショイ劇場は、その名の通り、大きな劇場であり、舞台も非常に広い。そして床が傾斜している。そのため、オーケストラ席の後方だと足元がよく見えるのだけど、最前列だと残念ながら足先は切れてしまうので要注意。

広いボリショイの舞台で、グランド・バレエではない「オネーギン」がどのように見えるのか、少し不安だったのだけど、舞台が大きい分、ソリストたちも群舞もとてものびのびと踊っていたし、作品のスケールも大きく見えた。

アリシア・アマトリアンのタチヤーナは、とても内気で繊細な少女だ。眉を八の字にしてちょっと困ったような表情をしていて、オネーギンにときめいても、近づくことすらできないほどの恥じらいを見せている。鏡のシーンで、夢に現れたオネーギンを見ると、その歓びに心を震わせ、シャイな仮面を脱ぎ捨てて思いっきり奔放になるアリシア。彼女の驚くほど柔軟な肢体、柔らかく強靭な背中から伸びやかに、歌うように繰り広げられる踊り。リフトされたときのポーズも美しく、そしてときめきに瞳を輝かせた様子は、新しい世界を知る喜びにも満ちていた。

タチヤーナが、オネーギンへの愛の告白を拒否された上に妹オルガにちょっかいを出され、それがレンスキーとオネーギンの決闘、さらにレンスキーの死という悲劇を乗り越えて、タチヤーナは少女時代に別れを告げ、大人への成長を遂げる。3幕では蛹が蝶に変身したように、美しい貴婦人へ変貌するタチヤーナだが、その変化を説得力あるかたちで見せられるかどうかは、2幕の決闘シーンの後の演技が一つのポイントだと感じる。あまりに厳しく問い詰める表情をし過ぎてもいけない。その点で、少女らしさを残しながらも凛としていたアリシアは、自然にタチヤーナの成長ぶりを見せていた。

3幕では、グレーミンの妻となり艶やかな姿の中に幸福感を滲ませるタチヤーナの姿が記憶に刻まれた。グレーミンに寄せる愛情が深いだけに、オネーギンとの再会が彼女にどれほどの動揺を与えたのかが伝わってくる。ニコライ・ゴドゥノフの素晴らしいサポートと彼女を包み込む想いも特筆すべきだろう。ここからアリシアが見せた演技は、クランコ・ダンサーの真骨頂と言える。揺れ動きながらも、情熱の波に押し流されそうになり苦悶する様子を、震える肩、しなる背中、鮮烈なアラベスクと見事に踊りへと移し替えていった。タチヤーナの繊細さ、内気さの中からにじみ出てくる激烈な感情。それを押し殺しながら、自分自身の少女時代へと別れを告げるような決意を秘めてのラストシーン。多分、アリシアって本来のタチヤーナ像とは違った個性を持っていると思う。タチヤーナって、もっと大地に根ざしていて強いし、もっと現実的で賢そうな印象がある。でも、アリシアは、このタチヤーナのキャラクターを、自分の方へと巧みに引っ張って行って、彼女ならではの少女らしくデリケートな人物像を作り上げてしっかりとその物語を生きているので、心にその演技が響き、彼女とともに観客は涙を流すことができるのだ。背後からオネーギンに迫られて、思わず放心したように倒れこむ姿、そしてオネーギンが最後に去った後に、心を千々に乱しながら立ちすくむアリシアの演技は、大げささとは無縁なだけに、本物の悲しみの感情を伝えていた。

そしてエヴァンのオネーギン。彼のオネーギンは、役デビューからずっと観続けているが、観るたびに成長して役に深みを増して行っている。一挙一動が計算しつくされ、細やかなニュアンスを伝えて、エフゲニー・オネーギンという人物の内面を掘り下げて、一人のロマンティックなアンチヒーローの生き様を表現している。もはや、彼が当代一のオネーギン役であることに異論を挟む人はいないのではないだろうか。

プーシキンの原作「エフゲニー・オネーギン」は、ロシア人が学校で必ず学ぶ作品であり、ロシア人の魂そのものを体現した作品と言われる。クランコ振付の「オネーギン」がボリショイ・バレエで初演されるにあたっては、ロシア人から様々な意見があった。曰く、決闘シーンには女性は立ち会わないものである(原作ではオルガとタチヤーナは決闘には立ち会っていない)、身分の高い女性が自分のドレスを縫ったりしないし農民と一緒になって踊らない、その時代においては貴族の男性は髭は生やさないものである等等。確かに、クランコの作り上げた「オネーギン」は、本来の「エフゲニー・オネーギン」とは違う部分があるのは事実だろう。だが、エヴァンのオネーギンは、やはりロシア人女性が少女時代に「エフゲニー・オネーギン」を読んで恋をする、そんなエフゲニーそのものである。優雅な身のこなし、少々の傲慢さの裏に隠された空虚さ、それなのに人を惹きつけてしまう魔法のようなチャーミングさ。特に、ロシア・バレエ的なエレガントなポール・ド・ブラと雄弁かつ繊細な手の表現、高いアラベスクを見せる最初のソロに、彼の貴族性が現れている。

鏡のシーンで、タチヤーナの鏡像の首筋にキスをして斜に構えた笑いを浮かべるオネーギンであるが、パ・ド・ドゥでは甘く優しくタチヤーナに笑いかけ、そして新しい自由な世界へと彼女を導き、魔法のように彼女を操る。ここでのエヴァンのパートナーリングは見事としかいいようがない。アリシアの身体能力が素晴らしいのは言うまでもないけれども、この場面でこんなにもマジカルにパートナーを操ることができる人はいないのではないだろうか。ここでのエフゲニーは、タチヤーナの願望、夢が生み出した存在ではあるのだけど、きちんと実在のエフゲニーと同じ人物であることがわかる一貫性がある。

2幕でタチヤーナの思いを粉々に打ち砕く拒絶をした時には、エフゲニーは彼女のことが気に障ったからそうしてしまったのではない、彼女にもっと大人になって欲しいからそうしたということが伝わってきた。しかし宴にすっかり退屈した彼は、この田舎町に飽き飽きしただけでなく、自己嫌悪にも陥っているようだった。気を紛らわすように、オルガにちょっかいを出してレンスキーを怒らせるというゲームを仕掛けたエフゲニー。オルガの目から見ればもうたまらないほどの悪魔的な魅力を持つ大人の男性。。特にレンスキーが逆上するきっかけ、オルガの首筋を両手で触れる仕草のいたずらっぽさは、もうたまらない。そしてレンスキーを挑発する目つきも、とてもセクシーだレンスキーが、オルガに手を出されたことよりも、親友エフゲニーに意地悪をされたことに憤っている、そんな印象すら与える。もしかして、レンスキーは友情以上のものを彼に感じていたのではないかと思うほど。

そして3幕。グレーミン家に招かれた将校や貴族の令嬢たちを演じるボリショイ・バレエのコール・ドの容姿端麗なこと。その中でも、すらりとした立ち姿が今もなお美しいエヴァンのエフゲニー。(原作によれば、物語の終わりでもエフゲニーはまだ20代であり、白髪交じりの姿になっているのは間違っているとロシア人は言っているとのことであるが)片隅でうつむいている姿すら気品にあふれて絵になる。過去の女性たちの姿に翻弄されるようにさまよう姿もエレガントなゆえ、一層悲哀が募り、タチヤーナの穏やかな幸福に輝く姿とは対照的だ。

ラスト、手紙のパ・ド・ドゥでのエフゲニーは熱い。絶望的な愛をタチヤーナに訴え掛ける。私がシュツットガルトのダンサーが「オネーギン」を演じる時に凄いと思うのは、一つ一つの動きに感情がほとばしり、もはや演技には見えない、感情を自分のものとして生き、それが時には美しく見えなくなってしまうことも恐れないという覚悟の元で演じられていること。こう演じなければならない、という定型をなぞっているのではなく、自分自身の情熱、中から自分を突き動かす想いが溢れ出しているのだ。特のこのパ・ド・ドゥの後半、エフゲニーが膝立ちでタチヤーナの背後から迫り、倒れ込んだ彼女が後ろを向いてキスを交わすところから、横たわるタチヤーナが引っ張り上げられながら大きく跳躍するところまでの流れなのだが、このシーンはまさに奇跡というほどの情念のドラマが繰り広げられた。自分自身の中の炎と戦い心乱れるタチヤーナがほんのひと時、自分の方へと心を寄せたと確信したエフゲニー。彼がが一瞬だけ見せる微笑み、勝利を確信した彼の元に無情にも突きつけられる手紙と別れの言葉。今までいろいろな演者でこのシーンが演じられるのを観て、特にシュツットガルトのダンサーは誰もが素晴らしかった。だが、このペアはやはり鮮烈だ。今までくぐり抜けてきた各々の人生の苦しみや愛の積み重ねがあってこその演技だと確信させられた。

オルガ役のアンナ・オサチェンコも好演だった。オルガという少女の明るい闊達さ、軽はずみなところ、気まぐれさ、そのディテールが全て彼女の軽やかで明快な踊りに現れていた。フリーデマン・フォーゲルは、とても美しく華やかに踊り、また決闘前の自己憐憫にあふれたソロのナルシズム、存在感は強烈だったし、瞬間湯沸かし器のような逆上の仕方も鮮やかだったが、もうすこしオルガ役と向かい合って演じて欲しいと感じた。

ボリショイ・バレエのダンサーたちは、みなプロポーションが美しく、また身体能力も素晴らしいので、ダンスシーンはため息をつくほど華麗である。その上、皆ロシア人なので「オネーギン」らしさという点では言うことはない。1幕のコール・ドのダンサーたちがディアゴナルに駆け抜けるシーンの迫力は、ボリショイならではのものだし、3幕の舞踏会のシーンでの美男美女が着飾って勢ぞろいしたところには、思わずうっとりと見入ってしまう。2幕のタチヤーナの名前の日の宴でのコミカルなところや、老人たちの様子は、もう少し場数を踏んだほうが味わいが出てくることだろう。

いずれにしても、モスクワでも生活をしていたプーシキンの偉大な原作をもとにしたバレエが、ボリショイ・バレエにやってきた記念すべき公演は、大成功に終わった。中でも、クランコの魂を伝え、ドイツを経た「オネーギン」をモスクワに運んできたシュツットガルト・バレエのダンサーの高い芸術性は、大きな賞賛が得られるべきである。カーテンコールも熱狂的で、幕が閉じたあとも、観客が残って熱心なスタンディングオベーションを送ったことも記録されるべきだ。

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シュツットガルト・バレエの次回の来日公演は、ぜひ「オネーギン」をお願いしたい。やはりカンパニーを代表する一作は、これに尽きる。

削除されてしまう可能性が高いけど、この公演の映像はYTにアップされている。(リンクについては、出演者二人の了解済み)
http://youtu.be/N6MVpHjccRc

7/21 ボリショイ・バレエ「オネーギン」 Bolshoi Ballet Onegin

ボリショイ・バレエの「オネーギン」の最終公演にして、ボリショイ劇場でのシーズン最後の公演。ザハロワが降板したため、キャストがかなりシャッフルされてしまい、当初ザハロワと踊る予定だったデヴィッド・ホールバーグは、結局この1公演のみ、オネーギン役を踊った。

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21 July 2013

Onegin David Hallberg
Lensky, Onegin’s friend Ivan Alekseev
Madame Larina, a widow Anna Antropova
Tatiana, Larina’s daughter Evgeniya Obraztsova
Olga, Larina’s daughter Dariya Khokhlova
Their Nurse Irina Semirechenskaya
Prince Gremin, a friend of the Larina family Alexander Vodopetov

「この時代のロシアの貴族は口髭を生やさない」のがロシアでの正しい解釈らしくて、ボリショイ・バレエの団員でこの役を演じた人は全員髭をつけなかったようである。(ゲストのマルセロ・ゴメス、およびエヴァン・マッキーは最終幕で髭をつけていた)

デヴィッド・ホールバーグは、すらりとしていて脚のラインがきれいで、踊りもクラシックでエレガントなダンサーだ。最初のソロを観て、しなやかな踊り、伸びたつま先はとても美しいと感じた。ボリショイに移籍したためか、以前のパリ・オペラ座学校で学んだ経験から得られるエレガンスが少し影を潜め、ボリショイ的な、大きな踊りに変化しているように見受けられた。彼は大変な美貌の持ち主ではあるのだけど、少々こわもてで、金髪のために眉毛も薄いこともあり、表情を読み取るのが最初のうち特に困難であった。そして彼のオネーギンは、非常に美しく貴族的なのだけど、とても真面目そうで遊びの部分がすくない。ものすごく気合を入れて演じているのが感じられるのだが、それが少々息苦しく感じられた。シリアスすぎて、余裕がなくて、鏡のシーンなどでも笑顔がほとんど見られないのだ。幕が進むにつれて、その表情の硬さは取れて来て、演技もオネーギンらしくなってきたのだが。2幕の決闘でレンスキーを殺めてしまったあとの呆然とする表情は、彼の大きな青い目が訴えかけるようで、強いインパクトがあった。

3幕でエフゲニーが少し年をとって登場したところでは、髭がない上、金髪のため白髪が混じったかどうかがわからなかった。原作通り、3幕でもオネーギンはまだ20代だったという設定で進めたようであった。エフゲニーがタチヤーナに寄せる絶望的な愛、その愛の持つ重みに彼は苦しんでいたようで、あの青い大きな瞳を見開き、タチヤーナへの想いを必死に伝えようとしていた。だが、このペアの最大の問題は、ケミストリーがほとんど感じられなかったことである。急にザハロワが降板することになってしまって、パートナーが変更になってしまったホールバーグにとっては、不運だったとしか言いようがない。

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オブラスツォーワは、別キャストでもタチヤーナを演じているのだけど、今回のホールバーグとの相性はあまり良くなかったように感じられた。長身の彼と並ぶと彼女は小柄すぎて、非常にサポートしづらく見えてしまい、息があっていなくて鏡のパ・ド・ドゥのパートナーリングも今ひとつに感じられた。クールな持ち味のデヴィッドと、やや暑苦しい演技のオブラスツォーワでは、最終幕の手紙のパ・ド・ドゥでの演技もしっくりこないところがあった。オブラスツォーワはとても熱演しているし、デヴィッドも愛を迫っているのに、お互いへの愛というよりは、この状況に酔っている二人、特にオブラスツォーワはそう見えてしまったのだ。音楽の演奏のテンポもとても遅くて、特に鏡のパ・ド・ドゥでの高揚感や疾走感が損なわれていた。

一幕のオブラスツォーワは大変可愛らしく、まるでジュリエットのようなタチヤーナだった。本の虫の少女には全然見えないのだけど、一方でロマンティックな妄想を抱きそうな、夢見る夢子さんにはしっかりと見えた。なので、鏡のパ・ド・ドゥでの彼女は伸びやかで魅力的に見えたけど、違うストーリーの作品を見ているようにも思えた。2幕でエフゲニーに振られて泣いている様子は可哀想には見えたし、決闘シーンのあとで彼を問い詰める姿にある変貌ぶりは良かった。3幕での貴婦人姿も、若々しいものの美しく成長した姿は伺えた。だが、長い手脚を誇るデヴィッドと踊るには、彼女はやはり四肢が短すぎて彼とのバランスが悪いので、パ・ド・ドゥを踊っても映えないのだ。踊りそのものは、テクニックはとてもしっかりしていて、身体はしなやかでよく歌っているのだけど、あまりにもスタイルが古典的すぎて、古典バレエ作品ではない「オネーギン」には合わない部分が見受けられた。そしてラストでの、微妙に感情がすれ違っていて燃え上がらない感じが惜しい。熱演していたのはとてもよく伝わってきたものの、二人とも、別のパートナーで観たらきっと良かったんだろうなと感じたのであった。

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レンスキー役のイヴァン・アレクセーエフは、オルガ役のダリア・コホロヴァとよくコミュニケーションをとっていて、1幕で登場した時には心温まるペアだった。若々しく少し不器用でまっすぐなレンスキーは、オネーギンに挑発されてカッとする演技も、朴訥さが表れていて好感が持てたが、決闘前のソロは少し不安定なところがあった。ボリショイのダンサーならではの、長い脚や柔軟な上体は好ましかったので、今後の成長に期待したい。コホロヴァもテクニックがあって上手いダンサーではあるけど、前日のオサチェンコのようにこの役を踊りこんでいるわけではない。二人とも、伸びしろのある活きの良いダンサーなので、これからを見守っていければと思う。

全体的には、ロシアのバレエ団ならではのロシアン・フレーバーが「オネーギン」の物語に漂っていることは魅力的だったし、群舞のクオリティも非常に高かったので、出来はよかったのではないかと思う。しかし、ホールバーグに似合うのはやはりザハロワだったと感じてしまった。ザハロワ自身は、前日のシュツットガルト組の上演の時には客席で観ていたらしいので、来シーズンの「オネーギン」上演の際には、彼女が踊るという機会もあるかもしれない。つくづく、この作品は、個別のダンサーが良くても、組み合わせ、そしてパートナーシップが良くなければ魅力が半減すると思った次第である。

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セルゲイ・フィーリンの復帰予定

ボリショイ・バレエは現在、ロイヤル・オペラハウスでのロンドン公演の真っ最中です。当初、フィーリンがこのロンドン公演に参加するのではという推測もあったのですが、それは実現しませんでした。

現在、フィーリンはドイツのアーヘンで治療中で、先日22回目の手術を受けたそうです。右目の視力回復は難しくてまったく見えず、左目が10%見える程度で、人の顔の判別がつかないなど、厳しい状況のようです。

これはTelegraph紙のインタビュー。(7/29付)
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/theatre-dance/news/bolshois-sergei-filin-left-blind-in-one-eye-by-acid-attack-8736068.html

しかし、視力について回復する見通しが出てきたとの明るいニュースも出てきました。

ロシアの映像ニュース(8月1日のもの)
http://www.1tv.ru/news/social/238808

妻に伴われたフィーリンと、新総裁ウリンが対面する様子が報道されています。この中で、順調に行けば9月中旬にはボリショイ・バレエの芸術監督に復帰できるのではないかという見通しを述べています。来シーズン予定されている「マルコ・スパーダ」と「椿姫」の初演のために、ピエール・ラコットやジョン・ノイマイヤーとも話し合いをしているそうです。映像の中で登場しますが、フィーリンのもとに、ハンブルク・バレエのダンサーたちから寄せられた寄せ書きのある「椿姫」のポスターが送られてきて、彼はとても嬉しく思ったとのことです。フィーリンはサングラスをかぶっているほかは、外見上はきれいで元気そうです。

このニュースはロイター経由で英文でも配信されています。
http://www.chicagotribune.com/entertainment/sns-rt-us-russia-bolshoi-20130801,0,5594843.story

朝日新聞にも記事が出ていました。
襲撃受けたボリショイ芸術監督、9月半ばに復帰も
http://www.asahi.com/culture/reuters/RTR201308020033.html

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