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バンジャマン・ペッシュのアデュー公演と「エトワール・ガラ2016」

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パリ・オペラ座バレエのエトワール、バンジャマン・ペッシュが定年を迎えるため、2月20日にさよなら公演が行われました。

https://www.operadeparis.fr/magazine/derniers-pas-de-deux

ジェローム・ベルの「Tombe」、ジェローム・ロビンスの「ゴールドバーグ・ヴァリエーション」、そして特別プログラムとして、この日だけ、ロビンスの「イン・ザ・ナイト」とプレルジョカージュの「ル・パルク」のパ・ド・ドゥが上演されました。

ベルの「Tombe」は、オペラ座の3人のダンサーに、自分たちと舞台に立ちそうにない人物を出演させるようにと指定しており、ペッシュのパートでは、彼の長年のファンで毎晩出待ちをしていたシルヴィアンという84歳の女性が登場して舞台に上がり、ペッシュが彼女の手を取ってゆっくりと共に歩き、最後に二人は一緒に席に戻るという感動的なシーンが出てきます。しかし、公演期間中にシルヴィアンは体調を崩し、二人の舞台での様子は映像で映し出されました。

バンジャマン・ペッシュは1986年、12歳の時にパリ・オペラ座学校に入学します。以降30年間、彼はオペラ座と共にありました。92年の入団後も決して順風満帆ではなく、入団後すぐの昇進試験では昇進できませんでした。99年、25歳の時にプルミエ・ダンスールに昇進しますが、なかなかエトワールに昇進できませんでした。ヌレエフ、キリアン、プレルジョカージュ、そしてプティの作品などで定評を得ますが、移籍することも考え、また自身のグループ公演をオペラ座の外で行いました。そして2005年、ようやく上海公演で、ジョゼ・マルティネスが怪我をしたため「アルルの女」のフレデリ、さらに夜公演ではマニュエル・ルグリが怪我をしたために「ジゼル」のアルブレヒトを踊るという、一日で2公演の主役を踊り遂げ、エトワールに任命されます。

エトワールに任命されたのち、ペッシュは定評のあるローラン・プティ作品を始め、古典から現代作品、ドラマティックバレエまで幅広く活躍しますが、2年前に腰を痛めてしまい、思うように踊れなくなってしまいました。そのため、彼は持ち前の演技力を生かし、踊るところの少ないキャラクター的な役柄を演じながら、バンジャマン・ミルピエの右腕として働きました。特に「ラ・バヤデール」ではプロダクション責任者として指導を行うほか、公演に関わるすべてを担当しました。また、日本の観客にとってはペッシュは、2005年に始まった「エトワール・ガラ」の芸術監督として、特に親しみがある存在となっています。

この日特別に上演された「イン・ザ・ナイト」は、若い時に初めて踊ったロビンズの作品だとのこと。ペッシュの相手役はドロテ・ジルベールでした。2番目のパ・ド・ドゥは、ローラ・エケとマチュー・ガニオが、そして3番目はエレオノラ・アバニャートとエルヴェ・モローが踊るという豪華な配役。怪我をする前のペッシュは、ノーブルな役柄も得意としていました。ドロテ・ジルベールとは、初恋の思い出を踊り、デリケートで気品があり、音楽性にあふれた美しいパフォーマンスとなったようです。

そしてもう一つの特別な作品は、腰を痛める前に踊った最後の作品「ル・パルク」でした。「椿姫」でペアを組むなど、ペッシュが最も信頼するパートナーであったエレオノラ・アバニャートと、「解放」のパ・ド・ドゥを踊りました。

アデューのセレモニーでは、ミルピエとステファン・リスナーが彼を称えるスピーチを行い、そしてペッシュも彼のキャリアを振り返るスピーチを、様々なエピソードを披露しながら行ったそうです。学校時代の思い出、特に思い入れのあったローラン・プティとの関係、エリザベット・モーラン、レティシア・プジョル、クレールマリ・オスタ、そして「ほとんどすべての役で共演した」エレオノラ・アバニャートという4人の大事なパートナーについても語りました。また、キャリア終盤での、ミルピエのアシスタントとしての活動についても。


上記の、オペラ座公式サイトにおけるインタビューでは、引退後は何を行うかについてペッシュは具体的には語っていません。ミルピエがオペラ座の芸術監督として働く今シーズン末までは、芸術監督補佐として引き続きミルピエの右腕として働きます。来シーズン、芸術監督にオーレリー・デュポンが就任した後どうなるかはわかりません。が、このインタビューでも、ミルピエのアシスタントとして働いた経験を活かし、将来は芸術監督としての仕事をしたいと語っています。「エトワール・ガラ」も11年、第5回と長く続く成功を収めており、こちらの経験もきっと生きることでしょう。

オペラ座ダンサー・インタビュー:バンジャマン・ペッシュ (チャコット ダンスキューブより)
http://www.chacott-jp.com/magazine/world-report/from-paris/paris1601b.html


オペラ座を引退したバンジャマン・ペッシュの踊りを観る最後のチャンスになるかもしれない、エトワール・ガラ2016は、2月25日からチケットがMy Bunkamuraで発売されます。ますますパワーアップしたメンバーをそろえ、これは決して見逃してはならない公演となりました。ペッシュが定評のあるローラン・プティの『ランデヴー』を踊る姿もBプロで観ることができます。
http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/16_gala.html

公演日程
2016/8/3(水)~7(日) 全5回公演

出演
エレオノラ・アバニャート(パリ・オペラ座バレエ エトワール)
アマンディーヌ・アルビッソン(パリ・オペラ座バレエ エトワール)
ドロテ・ジルベール (パリ・オペラ座バレエ エトワール)
ローラ・エケ(パリ・オペラ座バレエ エトワール)
バンジャマン・ペッシュ(パリ・オペラ座バレエ エトワール) 
マチュー・ガニオ(パリ・オペラ座バレエ エトワール)
エルヴェ・モロー(パリ・オペラ座バレエ エトワール) 
オードリック・ベザール(パリ・オペラ座バレエ プルミエ・ダンスール)
ユーゴ・マルシャン(パリ・オペラ座バレエ プルミエ・ダンスール) 
シルヴィア・アッツォーニ(ハンブルグ・バレエ プリンシパル) 
アレクサンドル・リアブコ(ハンブルグ・バレエ プリンシパル)

久山亮子(パリ・オペラ座バレエ 専属ピアニスト)

会場
Bunkamuraオーチャードホール

MY Bunkamura先行販売
2016/02/25(木)

3/6(日)10:00~ 一斉発売


マリインスキー・バレエ、シャキロワ、チェルブィキナ、ラティポフがセカンドソリストに昇進/「ビッグ・バレエ」中間報告

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マリインスキー・バレエのレナータ・シャキロワ、エカテリーナ・チェブィキナ、エルンスト・ラティポフがセカンド・ソリストに昇進したことが発表されています。

http://www.mariinsky.ru/en/company/ballet/soloists/

エカテリーナ・チェブィキナは、キエフ・バレエに所属していて、来日公演でも活躍していましたが、2013年にマリインスキー・バレエに移籍。キエフ・バレエ学校時代の2011年にローザンヌ国際コンクールにも出場しています。2013年にモスクワ国際バレエコンクールに出場して受賞。プロポーションもきれいで大変な美貌の持ち主ですが、マリインスキー・バレエのファンからは、やや厳しい評価もあるようです。

レナータ・シャキロワは、2015年にワガノワ・アカデミーを卒業してまだ入団一年目。学生時代から、マリインスキー・バレエの公演(「アポロ」)に出演していました。現在、テレビ番組「ビッグ・バレエ」に、キミン・キムと組んで出場中です。まだ入団一年目の彼女をこの番組に出場させ、しかもプリンシパルのキムと組ませているということは、どれだけマリインスキーが彼女に期待しているかがわかりますね。

エルンスト・ラティポフは、2012年にワガノワ・アカデミーを卒業して入団。やはり「ビッグ・バレエ」に、ナデージダ・バトーエワと組んで出演しています。来日公演でも、「ジュエルズ」でエメラルドを踊っていました。私は去年マリインスキー劇場で「薔薇の精」を踊る彼も観ているのですが、うーん微妙でした。ワガノワ出身なのにポール・ド・ブラが今一つなのですよね。


そんなわけで、「ビッグ・バレエ」で活躍中の二人の昇進が行われました。おめでとうございます。


さて、この「ビッグ・バレエ」は、6週目まで放映がありました。あと一回でおしまいです。
http://tvkultura.ru/brand/show/brand_id/59616/

現在のところ1位は、ペルミ・バレエの Inna Bilash と Nikita Chetverikov、そしてマリインスキー・バレエのレナータ・シャキロワとキミン・キム組の2組です。

われらが寺田翠・大川航矢組(カザン劇場)は6位ではありますが、YouTubeに投稿されている動画へのコメントを見ると、非常に好評であり、実際、彼らの踊りは本当にクラシックバレエの神髄というべき、素晴らしいものです。特に第4週の「パリの炎」は凄い。
上記公式サイトでも動画は観られますが、こちらのチャンネルで観るのも便利です。

この番組、ルジマトフ、ルフェーブル、オブラスツォーワ、オシポワなど豪華な審査員が講評をして審査をするのもポイントですが、ロシア語が分からないと、何を言っているのかよくわからないところがあります。しかしながら、こちらの番組の解説と審査員の講評の翻訳を英語ですが、全放映分載せてくれているブログがありました。大変参考になります。

http://itinerantballetomane.blogspot.jp/

ロイヤル・バレエのプリンシパル・キャラクター・アーティスト、ジェネシア・ロサートが引退

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ロイヤル・バレエのプリンシパル・キャラクター・アーティスト、ジェネシア・ロサートが引退することが、ロイヤル・オペラハウスの公式サイトで発表されました。ロイヤル・バレエでは40年間も舞台に立ち続け、ロイヤルの舞台には欠かせない一人でした。

Genesia Rosato retires from The Royal Ballet
http://www.roh.org.uk/news/genesia-rosato-retires-from-the-royal-ballet

ジェネシアは以下の通りコメントしました。「私のキャリアのすべてをこの素晴らしいカンパニーで過ごした後、踊ることから引退する時が来ました。ダンサーとしての人生を愛してきました。そしてロイヤル・バレエを作り上げる多くの素晴らしく献身的な人々と仕事をすることがなくなるのを寂しく思うことでしょう」


ジェネシア・ロサートは、1976年に、ケネス・マクミランに招かれてロイヤル・バレエに入団し、1982年にソリストに昇進、93年にはプリンシパル・キャラクター・アーティストとなります。入団してすぐ彼女は、ロイヤルのレパートリーに入ったグレン・テトリーの「ヴォランタリーズ」の役を与えられ、マクミランの「マイヤリング」のルイーズ姫の役を初演しました。「マイヤリング」では、ラリーシュ夫人、ミッツィ・キャスパー、エリザベート妃とヘレン・ヴェッツラ役も演じてきました。

フレデリック・アシュトンは、「ラプソディ」と「Varii Capricci」の初演キャストに彼女を選び、また「シンデレラ」の夏、「ダフニスとクロエ」のリュカニオン、「誕生日の贈り物」の第5ヴァリエーションにも彼女を抜擢しました。また「田園の出来事」では、まだアシュトンが作品を創作している時にカーチャ役を踊り、のちには初演のリン・シーモアに指導されてナタリア・ペトロヴナ役を踊りました。さらに、「眠れる森の美女」での役を踊るにあたっては、ロイヤル・バレエを創始したニネット・ド・ヴァロワの指導を受けました。

ジェネシアは多くの役柄を踊りましたが、「ジゼル」ではミルタ、バチルド、ベルタを、「眠れる森の美女」ではリラの精、女王、伯爵夫人とカラボスを、「アポロ」ではテレプシコーラを、「放蕩息子」ではシレーヌを、マクミランの「招待」では妻役を、「ロミオとジュリエット」ではキャピュレット夫人、乳母を、そしてマクミランの「アナスタシア」では主役を踊りました。

40年にもわたる彼女の長いキャリアは、マクミラン時代から始まり、ノーマン・モリス、アンソニー・ダウエル、ロス・ストレットン、モニカ・メイソン、そしてケヴィン・オヘアと5人もの芸術監督と共にありました。ロイヤル・バレエでは長きに渡って踊られてきた作品が多かったため、ジェネシアは、同じバレエの中でも複数の世代にわたる。多様な役柄を演じる機会を与えられ、貴重な経験を得ることができたのです。

さて、気になるのは、今年6月の来日公演にジェネシア・ロサートは出演してくれるかどうかということです。舞台上での存在感と様々な人物を陰影を持って演じ分ける演技力に定評がある彼女は、舞台のクオリティを押し上げてくれる素晴らしいパフォーマーで、カンパニーに欠かせない存在でした。彼女の穴を埋められる人は思いつかないからです。最後にもう一度観られると良いのですが、どうでしょう。すらりとして若々しい彼女が、40年もロイヤル・バレエにいたとは信じられない思いです。その素晴らしい経験と演技術を、後進に伝えて行ってほしいと思います。

ロイヤル・バレエの来日公演 WEBチケット先行予約は、ただいまNBSより発売中です。
http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/2016-6.html
特にスティーヴン・マックレー出演の日はチケットがよく売れています。

DVD化された「オンディーヌ」(吉田都主演)では、パレモンの婚約者を演じています。

アリーナ・コジョカル主演のこの「ジゼル」DVDでは、ジェネシア・ロサートはバチルドを演じています。

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12/14 パリ・オペラ座バレエ「ラ・バヤデール」

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オペラ座での「ラ・バヤデール」2回目。マチアス・エイマンが怪我のために降板し、急遽、本来はソロル役は代役でキャスティングされていなかったユーゴ・マルシャンが踊ることになった。

「ラ・バヤデール」La Bayadere
https://www.operadeparis.fr/saison-15-16/ballet/la-bayadere

Nikiya Dorothée Gilbert ニキヤ:ドロテ・ジルベール
Solor Hugo Marchand ソロル:ユーゴ・マルシャン
Gamzatti Marion Barbeau ガムザッティ:マリオン・バルボー
The Golden Idol Fabien Revillion ブロンズ・アイドル ファビアン・レヴィヨン
The Slave Yann Saïz 奴隷: ヤン・サイズ
Manou Lucie Clement マヌー: ルーシー・クレメント
the Fakir Hugo Vigliotti 苦行僧 : ユーゴ・ヴグリオッティ
the Rajah Pascal Aubin ラジャ : パスカル・オーバン 
The Great Brahmin Guillaume Charlot 大僧正 : ギョーム・シャルロ
The Soloist Indian Roxane Stojanov インドの踊り : ロクサーヌ・ストジャノフ
The Indian Soloist Yann Chailloux インドの踊り : ヤン・シャイヨー
1st Variation Hannah O'Neill 第一ヴァリエーション : オニール八菜
2nd Variation Aubane Philbert 第二ヴァリエーション : オーバーヌ・フィベール
3rd Variation Valentine Colasante 第三ヴァリエーション : ヴァランティーヌ・コラサント
Pas D'Action パ・ダクシオン
Charline Gizendanner, Eleonore Guérineau, Silvia Saint-Martin, Juliane Mathis, Mickaël Lafon, Jeremy-Loup Quer,
Fanny Gorse, Ida Viikinkoski, Marie-Solene Boulet, Sophie Mayoux, Caroline Osmont

この日、急遽ソロル役に抜擢されたユーゴ・マルシャン。聞くところによると、本当に急に決まったとのことでリハーサル期間も数日しかなかったようだが、落ち着いており、非常に良いデビューを飾ることができたと感じた。マルシャンはどちらかといえば貴公子タイプで、ソロルの戦士的な要素はあまりないのだが、端正で正確なクラシックのテクニックを持っている。

なんといってもマルシャンは、脚やつま先が圧倒的に美しく、脚の運び方も正確でエレガント。跳躍も軽やかで高く、胸のすくようなパフォーマンスを見せてくれたし、影の王国コーダのドゥーブル・アッサンブレも決まった。これだけ美しい男性ダンサーはそうそういない。合わせる時間が十分なかったためか、パートナーリングのところで少しだけ、スムーズにはいかないところもあったが、それはその後の公演では改善されたとのこと。一瞬の欲とガムザッティの美しさに目が眩んでニキヤを裏切ってしまった男の後悔ぶりもたっぷりと見せてくれた。見栄えする容姿の持ち主でもあり、近いうちにエトワールに昇格するのは間違いないことだろう。

ドロテ・ジルベールは、今まではガムザッティを踊っており、今シーズンが初めてのニキヤ役への挑戦。ニキヤの心のうちに秘めた情熱、強さを体現しつつもたおやかさも表現できており、技術だけでなく、抒情性も身につけていた。ニキヤの苦しみ、悲しみ、強い想いがしっかりと踊りの中からにじみ出ていて、花籠の踊りには恋人に裏切られた女性の心の襞を細やかにのぞかせて圧倒的に魅せてくれた。影の王国の難しいヴェールの踊りでも回転は完璧に踊り切った。初役のマルシャンを的確にリードしていたのも素晴らしい。

ただ、気になるのは、彼女が非常に痩せていたこと。腕が細くなりすぎて肘などが目立ち、2幕ではセパレーツの衣装でお腹を出しているのだけどあまりの細さに思わず心配してしまうほどった。基本的に彼女はテクニックが強く、この日もミスはほとんどなくて素晴らしかったのだけど、筋力が少し弱くなってしまったのか、跳躍があまり大きく跳べなくなってしまっていた。オペラ座を代表するエトワールとなり、魅力的なダンサーなだけに、彼女の健康面が気になってしまう。

ガムザッティ役は、12日のヴィキンコスキに引き続き、11月の昇進試験でスジェに昇格することが決まっているマリオン・バルボー。美貌のダンサーで、フランス的なきれいなアカデミックな踊りをするけれども、非常に技術が強いわけではない。ただ、演技力は優れていてガムザッティの傲慢さ、強さは良く表現されており、ニキヤと対峙するシーンも迫力があった。でもやはりガムザッティ役って、コリフェではなくてエトワールのダンサーに踊ってほしいものだと思う。

ブロンズ・アイドルにはファビアン・レヴィヨン。前回のエマニュエル・ティボーと違って、あまり全身を金色に塗っていない。若い分、跳躍などはもっと大きいし彼もきれいなダンサーなのだけど、仏像らしさでいえばベテランのティボーに軍配が上がる。

マヌーの踊りには子役が2名出演する。オペラ座学校の子役たちの名前はキャスト表には載らないのだが、2名のうち一人は日仏ハーフの女の子だったようだ。

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第一ヴァリエーションにオニール八菜さん。プロポーションが美しく技術的にも確実な彼女の踊りは見ごたえもあるし目を引きつけるスター性、風格もある。ただ、オペラ座のファンや批評家に言わせると、トレーニングの違いにより、彼女はエポールマンがややフラットなので、踊りからにじみ出てくる情感というか表現が足りないのだそうだ。私はそれほどフランス流に詳しくないので、あまりそのようには感じなかったのだが。オニールさんは、もちろんエトワールが十分狙える位置にあり、テクニックもあれば華やかさもあるので、後はうるさ型のファンや評論家を納得させるような表現力やフランスバレエらしさをどうやって身につけていくかが課題となっていくのだろう。マリインスキー国際フェスティバルにもガムザッティ役でゲスト出演する彼女の、今後一層の飛躍が楽しみだ。

影の王国はこの日もきれいに揃っていた。前回(12日)にニキヤ役を踊っていたエロイーズ・ブルドン、ガムザッティ役のイダ・ヴィキンコスキも影の王国の群舞の中にいた。主役を踊りながら別の日に群舞を踊るのはなかなかキツイだろうなと感じた。この数日後には、マリインスキー・バレエからクリスティーナ・シャプラン、キミン・キムを迎えた「ラ・バヤデール」で、ブルドンはガムザッティ役を演じることになっていた。彼女には本当に頑張ってほしいものだと思った。

ユーゴ・マルシャンの鮮やかなソロル・デビューを観ることができた幸運もあり、充実した公演だった。エトワール・ガラ2016で彼の踊りを観るのが楽しみ。

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「Maiko ふたたびの白鳥」

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ノルウェー国立バレエのプリンシパル、西野麻衣子さんが、子供を出産、「白鳥の湖」を踊って再びプリンシパルとして復帰しようとする姿を映したドキュメンタリー映画「Maikoマイコ ふたたびの白鳥」(オセ・スベンハイム・ドリブネス監督)。

http://www.maiko-movie.com/

一人のバレリーナが妊娠出産を経て舞台に復帰する模様を丁寧に追っていると同時に、バレエ団の裏側、バレエ団ではどのように仕事が動いているかも見せてくれるので、大変面白いドキュメンタリーだった。西野麻衣子さんが、バレリーナである以前に、大変魅力的な人物であることも伝わってきた。

西野麻衣子さんは、子どもの時に決めた「プリマ・バレリーナになる」という夢を、大変な努力を通して貫いた、意思が強くて頑張り屋さん。だけど結構人間的なところがあって不安を感じたり弱音を吐いたりすることもある。それでも、留学費用のために大変な犠牲を払った両親、キャリアウーマンとして子供3人を育て上げた難波のおかんの背中を見て育ち彼女のようになりたいと見習い、叱咤激励されて頑張る。強いけど人情派のお母さんの娘だな、と感じた。Skypeで大阪弁でやり取りする様子は、どこにでもいる普通の親子のようでもある。出産を一緒に頑張ろうと育児休暇を取った夫君のニコライさん。愛情あふれる家族に恵まれたというのは大きい。同僚の皆さんもライバルだったりするけど、復帰そして成功を称え合ったり、みんな暖かく優しい。その周りに西野さんが感謝している様子も伺えて、グランフェッテが本番で成功した時には思わず胸が熱くなった。

Maiko_nishino_1_2

新しい芸術監督イングリッド・ロレンツェンが就任するにあたり、「皆さん全員を喜ばせることはできません、泣いてもらう方もいると思います」、と最初にガツンと言ったのは結構強烈だった。芸術監督に気に入られるかどうかが露骨にキャスティングに現れているのは、実際見てきただけに、正直なのかもしれないのだが。しかし女性である芸術監督は、西野さんに対しては厳しいことも言うけれども、暖かい目で見守っていた。妊娠したからといって降板させたりはせず、キャスト発表されているから、イースターまでは予定通りに出演してもらうわね、と。

来季に向けての面談でいろんな振付家の名前が出てくるのも、馴染みのないバレエ団なだけに面白かった。(シュツットガルト・バレエのプリンシパルだったダグラス・リーの作品やってるんだ、とか、NDT芸術監督ポール・ライトフットとソル・レオンの作品とか。劇中出てきた「火の鳥」、エンドクレジットを見たらリアム・スカーレットの振付だった。このバレエ団はレパートリーが大変興味深いもので、古典からドラマティックバレエ、そして現代作品まで幅広く、振付家も注目される人たちの作品を起用。西野さんの次の舞台は、「アンナ・カレーニナ」。これを振付けたのが、現チューリッヒ・バレエの芸術監督クリスチャン・シュプック。これはぜひ観てみたい作品だ。

Maiko_nishino_2_2

西野さんが復帰に当たって芸術監督と行う面談の様子も大変興味深かった。「復帰がうまくいくかどうかわからないから代役立てるわよ、才能のある若い子達にも機会を与えないとね」と芸術監督に言われてしまう。バレエって残酷な芸術で、西野さんが産休を取っている間は他のダンサーにとってはチャンスだとも言われる。妊娠のために踊ることが叶わなかった「火の鳥」には、代役にヒューストン・バレエからゲストが呼ばれ、その舞台を西野さんは客席から観ることになる。復帰の演目に選んだ「白鳥の湖」、ゲネプロで全然グランフェッテが決まらないところは、彼女にとっては針の筵の心境だったと思われる。しっかり本番では決めた西野さんも凄いけど、上手くいかなくても「本番はうまくいくわ」と任せた芸術監督も素晴らしい。

西野さんは、中学の時から講習会でスイスに行き、海外でバレエダンサーになることを早くから決意していた。福祉が発達した北欧で、41歳の定年までの雇用が保証されているノルウェー国立バレエ。バレエ団の知名度よりも、生活環境や待遇がよくてしっかりバレエに取り組めるバレエ団を選んだとのことだが、非常に賢明な選択だと感じられた。ヨーロッパのバレエ団のプリマとして活躍できる長身と長い手足、ロイヤル・バレエスクールで学んだドラマティック・バレエの基礎があったことも幸いしたことだろう。

この映画の中でも、バレエ団は西野さんの出産に対して理解があり、身体面でも様々なサポートがあると感じられたが、今では、海外の多くのバレエ団で出産後もプロのバレリーナを続けるのが当たり前になっている。たとえばナショナル・バレエ・オブ・カナダでは、一番若手のプリンシパルを除いて、女性プリンシパルは全員子どもがいる。クラスレッスンに行けば、ここは保育園かと思うくらい多くの子どもたちがスタジオでママのレッスンを見ている。パリ・オペラ座やマリインスキー・バレエも、ママさんバレリーナが多い。それを考えると、まだまだ日本のバレエ界は、出産しても続けているダンサーは少ないと感じる。これが変わっていけばいいのに、と切に思う。それもあって、優秀な日本人バレリーナは海外に流出するのだから。もちろん、日本の社会全体も、もっと女性が働きながら子供を産み育てやすい社会になってほしい。

西野麻衣子さんの白鳥の湖

西野さんが「マノン」をリハーサルする映像

2/27 新国立劇場バレエ研修所 「エトワールへの道程2016」

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新国立劇場バレエ研修所第11期生5名の卒業公演。ほぼソールドアウトの盛況で、私もうっかりしていて2月に入ってからチケットを買ったら、一階の一番後ろになってしまった。

Etoile_2016

http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/performance/151209_007896.html

指揮:アレクセイ・バクラン
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

「ドン・キホーテ」第3幕より
原振付:マリウス・プティパ
音 楽:レオン・ミンクス
 
キトリ:阿部裕恵
バジル:菊地 研(牧阿佐美バレヱ団)
第1ヴァリエーション:横山柊子
第2ヴァリエーション:中島春菜
友人 赤井綾乃、杉山澄華、関 優奈、羽石彩乃

最初から「ドン・キホーテ」3幕というのはちょっと珍しい構成。阿部裕恵さんには華があり、テクニックも見せ方も素晴らしい。グランフェッテも、ダブルを後半まで織り交ぜながら余裕でフィニッシュ。キトリのキャラクターをしっかり演じていた。ヴァリエーションの二人は下級生(12期)だけど、二人とも綺麗にきめてくれた。ゲストの菊地研さんもさすがプロの余裕があった。

 
「白鳥の湖」より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ
原振付:マリウス・プティパ
音 楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

青山季可(牧阿佐美バレヱ団)・中島瑞生

唯一の男性卒業生である中島さんは、長身でプロポーションよく端正な容姿。遠目には少し井澤駿さんを思わせる雰囲気。前半はサポートも頑張って優雅な雰囲気で貴公子らしかったのだが、後半ヴァリエーションで少し崩れてしまった。男性ダンサーは、ソロだけでなくてパートナーリングもしないといけないので大変だと改めて思った。青山さんはヴァリエーションまでは、さすがにプリマの貫録があって素敵だったのだけど、グランフェッテで失速して上手くフィニッシュできず。


第11期生自作自演作品
『Breath』 髙橋依吹

「大地の中から生まれ出てくる生命。息吹」春夏秋冬を経て、また大地へ還る」。髙橋さんの名前にもちなんだ作品だったけど、生命が芽生えて育っていく様子が素直に伸びやかに表現されていて、魅力的な作品だった。バレエ研修所では、夏休みの課題として作品を創作するというのがあるとのことだが、もっと積極的に普段のカリキュラムで創作に取り組めるとさらに良いと感じる。

11期生を中心に、研修所でどのようなことを学んでいるかの映像があったのだけど、映像の画質があまりよくなくて、誰がだれなのかはよくわからなかった。今までの研修所の歩みとして、ワシントンDCのケネディセンターや、クレムリンでの舞台も紹介されていた。以前は「バレエ・アステラス」で海外のバレエ学校を招待しての交流などもあったのだが、そのような趣向がなくなってしまったのは残念。


「Vision of Energy」
振付:キミホ・ハルバート
音楽:ヘンリク・ミコワイ・グレツキ、高木正勝、ロッシーニ、マルティノフ
 
パ・ド・ドゥ1:廣田奈々・中島瑞生 阿部裕恵・渡邊拓朗
パ・ド・ドゥ2:髙橋依吹・池田武志(新国立劇場バレエ団) 
研修生・予科生全員

ほぼ全員が出演し、この大人数の群舞を巧みに動かし、構成もまとまった作品でこの日一番楽しめた。真ん中のパートはロッシーニの「泥棒かささぎ」を使用して、にぎやかで明るい雰囲気。パドドゥ中心に一列の群舞を従えた最初、大人数の群舞で良く動く真ん中パート、そしてパ・ド・ドゥのほかいろんな要素が入る最後と変化に富んでいる。新国立劇場バレエ団からゲストの池田武志さんは、さすがのしなやかで粘りのある踊りで、舞台を支配する表現力がある。阿部さんも、コンテンポラリーでも非常に目を引く。

研修所のカリキュラムを見るとクラシックバレエ中心で、コンテンポラリーは年に何回か特別レッスンがある程度のよう。講師は秋山珠子さん&ディモ・キリーレフ・ミロフ(元スペイン国立ダンスカンパニー)、小尻健太さん、キミホ・ハルバートさん、新国立の宝満直也さんと豪華ではあるものの、コンテンポラリーはやはり、レギュラーのカリキュラムに入れるべきだと思われる。とはいえ、今日の作品は、キミホさんという優秀な振付家を起用しただけのことがあり、皆さん楽しげに自由に踊って良い舞台だった。

 
「眠れる森の美女」プロローグ・第3幕より
原振付:マリウス・プティパ
音 楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
 
オーロラ姫:廣田奈々
デジレ王子:芳賀 望(フリー)
 
リラの精:横山柊子
優しさの精:多田そのか
元気の精:パーキンソン赤城季亜楽
鷹揚の精:中島春菜
呑気の精:羽石彩乃
勇気の精:髙井惠里

宝石のパ・ド・カトル
ダイヤモンド:阿部裕恵、金:関 優奈、銀:杉山澄華、サファイア:丸山さくら
 
青い鳥とフロリナ王女のパ・ド・ドゥ 丸山さくら・山本達史(東京バレエ団)

プロローグの妖精たちのディヴェルティスマンと3幕の一部という変則版。研修生のみなさんは、本当にプロポーションが美しい子たちばかりで、日本人のスタイルって本当に良くなったのだと実感。プロローグに出演していたのは予科生たちなので、まだこれからの生徒たち。ポール・ド・ブラに改善の余地がある子たちが多かった。法制のパ・ド・カトルは12期生たちなので、さすがにそのあたりも美しく整っていて、クオリティは高い。ここでも阿部さんが圧倒的な輝き、ステージプレゼンスがあってプロの舞台でも真ん中を踊っておかしくないレベルだった。

ブルーバードは、10期卒業生で現在東京バレエ団に所属している山本さん。先日のブルメイステル版「白鳥の湖」では道化役に抜擢されて、素晴らしいテクニックを見せてくれた。今回のブルーバードも、後半のブリゼ・ボレが特に見事だった。フロリナの丸山さんも軽やかで端正で良かった。

オーロラの廣田さんも、この役を演じるだけあってテクニックもあるし腕の運び方なども気品があって丁寧で良かった。客席の方に表情を作ったうえで視線を送りすぎていたような気がして初々しさに欠けていたけど、実力は文句なし。王子は元ソリストの芳賀さん。なぜ新国立劇場バレエ団の現役団員ではなく芳賀さんだったんだろうか。つま先が伸びていなくて最後のマネージュが今一つだった以外は、問題はなかったとはいえ。この時期は新国立劇場バレエ団は公演はないわけだし、団員が池田武志さんしか今回出演していないのは、何か理由があってのことだろうか。(「ドン・キホーテ」の菊地さん、「白鳥の湖」の青山さんも牧阿佐美バレヱ団の団員であるし、山本さんは研修所出身とはいえ、東京バレエ団の団員)


「眠れる森の美女」が終わると、卒業生が一人一人、感謝の言葉と抱負を述べた。みんな初々しくて応援したくなる。廣田奈々さんは、何を言うのか考えてきませんでした、と明るく語り、少し言葉に詰まって客席からも「がんばれ!」と励まされたあと、「明日から頑張ります!」と。彼女はなかなか大物というか肝が据わっていて、舞台人向きなのかもしれない。唯一の男性中島さんは、怪我を持っているそうだけど、それにも負けずに頑張りたいとのこと。卒業する皆さんは、全員実力があることをこの舞台で証明できたわけし、これからのバレエ人生が輝かしいものになることを祈りたい。


さて、新国立劇場バレエ団の新加入ダンサーが、例年よりも早く発表されていた。
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/news/detail/160222_008228.html

ソリストとして入団するのは、以前K-Balletにアーティストとして所属していた池田理沙子さんと、フランスのキャピトル・トゥルーズバレエ(カデル・ベラルビ芸術監督)のソリストで主役なども踊っていた渡邊峻郁さん。

そして、新国立劇場バレエ研修所からは、廣川みくりさん、廣田奈々さん、中島瑞生さんの3人。なぜ一番舞台の上での存在感があり、テクニックも突出している阿部裕恵さんが入団しないのかが不思議。もしかしたら、身長が少し足りないのかもしれないが。

実は2014年のエトワール・ガラの東北でのチャリティレッスンの時に、阿部さんの出身校であった橘バレエ学校仙台教室が参加した。その時に講師として来たイザベル・シアラヴォラとシルヴィア・アッツオーニが阿部さんを絶賛し、海外のバレエ団に行くべきだと推したのだった。それだけの才能の持ち主だったわけだ。さて、彼女はどこで踊ることになるのでしょうか、とても気になる。そういえば、ブルーバードの山本達史さんも、東京バレエ団の入団一年目で道化に抜擢されるほどの実力派なのに、なぜ新国立劇場バレエ団に入らなかったのだろうか。これも身長の問題なのだろうか。

新国立劇場バレエ研修所は、優秀な才能を輩出しているのだけど、新国立劇場バレエ団は身長制限というつまらない条件で、みすみす優れたダンサーを取りこぼしている印象が非常に強い。たとえば、第8期生は誰一人新国立劇場バレエ団に入団しなかったのだが、それも身長制限をクリアした人がいなかったからという理由のようだ。研修所の生徒は日本国内ではトップの才能なのに、今の研修所の在り方と新国立劇場バレエ団との方針の齟齬については、疑問は多々感じてしまうし、この現状では、優秀なバレエ学生の多くはやはり海外留学へと流れると思う。世界を見回すと、実は女性ダンサーは特にソリスト級は小柄な方が重宝してもらえたりする現状もあったりするのだ。

マシュー・ボーンの『眠れる森の美女』9月14日~25日東京公演

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鬼才マシュー・ボーンが手掛けた、ゴシックで美しく魅惑的な「眠れる森の美女」。

2012年に初演されて大評判を呼び、ロサンゼルスドラマ批評家賞3部門など、数多くの賞に輝きました。ボーンの作品の中で、最も興行的に成功した作品の一つです。ボーンはこの作品の成功により、英国ナショナル・ダンス賞のニネット・ド・ヴァロワ賞を受賞するとともに、大英帝国勲章(OBE)を受章しました。

http://new-adventures.net/sleeping-beauty

この「眠れる森の美女」は、DVD化されるとともに、映画館でも上演されたのでご覧になった方は多いかと思います。

そして、ついに待望の来日公演が実現しました。

http://mbsb.jp/

公演期間: 9月14日(水)~25日(日) 東急シアターオーブ

ホリプロオンラインチケットに、チケットの発売の詳細について書いてあります。

http://hpot.jp/stage/sleepingbeauty

先行抽選受付:3月12日(土)~3月21日(月・祝)23:49
抽選日:3月24日(木)
一般発売開始:4月16日(土)10:00~

チケット料金
ビューティーシート ¥14,000
(1~4列目センターブロック)
S席 ¥12,800
A席 ¥9,800
B席 ¥5,500
(全席指定・税込)

また、気になる来日公演キャストの方はまだ発表されていません。

ニューアドベンチャーズの公式でのキャストはこちらにあります。
http://new-adventures.net/sleeping-beauty/cast-creatives

昨年10月に始まった英国ツアーでのキャストはこちら
http://new-adventures.net/sleeping-beauty/news/casting-announced-for-sleeping-beauty-uk-tour

オーロラ役にアシュリー・ショーとコーディリア・ブレイスウェイト
レオ役にドミニク・ノースとクリス・トレンフィールド
ライラック伯爵にクリストファー・マーニーとリアム・モーワー
カラボスとカラドックの二役にアダム・マスケルとトム・クラーク

この通りのキャストで日本で観られると嬉しいですよね。キャスト発表が待たれます。

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ローレンス・オリヴィエ賞のノミネート発表

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その年に上演された優れた演劇・オペラに与えられる賞であり、イギリスで最も権威があるとされているローレンス・オリヴィエ賞のノミネートが発表されました。

http://www.bbc.com/news/entertainment-arts-35687096

ダンス関係のみを抜粋すると、


最優秀新制作ダンス作品賞

He Who Falls (Celui Qui Tombe) by Compagnie Yoann Bourgeois at the Barbican 
「He Who Falls」 カンパニー・ヨアン・ブルジョワ(バービカン劇場)

Romeo Et Juliette by Les Ballets de Monte Carlo at the London Coliseum
「ロミオとジュリエット」 モンテカルロ・バレエ(ジャン・クリストフ・マイヨー振付) ロンドン・コロシアム

Woolf Works by Wayne McGregor at the Royal Opera House
「ウルフ・ワークス」 ロイヤル・バレエ(ウェイン・マクレガー振付) ロイヤル・オペラハウス


ダンスにおける傑出した功績賞

Alessandra Ferri for her performances in Chéri and Woolf Works at the Royal Opera House
アレッサンドラ・フェリ 「シェリ」「ウルフ・ワークス」(ロイヤル・オペラハウス)でのパフォーマンスにより

Javier De Frutos for Anatomy of a Passing Cloud at the Linbury Studio theatre, Royal Opera House
ハヴィエル・デ・フルートス 「Anatomy of a Passing Cloud」(ロイヤル・オペラハウスのリンバリー・スタジオ劇場)

Sasha Waltz for Sacre at Sadler’s Wells
サシャ・ヴァルツ 「春の祭典」 (サドラーズ・ウェルズ劇場)


最優秀舞台振付家

Carlos Acosta and Andrew Wright for Guys And Dolls at the Savoy theatre
カルロス・アコスタとアンドリュー・ライト 「ガイズ・アンド・ドールズ」 (サヴォイ・シアター)


受賞者は4月3日に発表されます。

「ウルフ・ワークス」は、英国ナショナルダンス賞の最優秀クラシック作品賞、最優秀女性ダンサー賞(アレッサンドラ・フェリ)、クラシックバレエ振付賞(ウェイン・マクレガー)も受賞しました。今回も、フェリが受賞する可能性はかなり高いと思われます。50歳を過ぎてからの現役復帰で第二の黄金期を迎えた彼女は、まさに奇跡ですね。


NBAバレエ団新作公演「死と乙女」記者会見

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NBAバレエ団の2016年新作公演「死と乙女」の記者会見が行われました。

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国際的に活躍する太鼓奏者の林英哲さん、そして、音楽家の新垣隆さんを迎え、振付は気鋭の舩木城さんが行うという話題の新作です。エゴン・シーレの「死と乙女」をモチーフにして、まるでバレエ・リュスを思わせるようなトップアーティストのコラボレーションで作品を創り、日本から発信していきたいという願いが込められています。

http://www.nbaballet.org/performance/2015/sitootome/index.html

<作品のきっかけ>
NBAバレエ団の久保紘一芸術監督
「NBAバレエ団の20周年の幕開けにふさわしい作品を創りたいと思っていました。今まで海外で踊ってきた経験を生かして、「ドラキュラ」やウィールドン振付「真夏の夜の夢」などを上演してきましたが、どこか物足りなさを感じていました。未だに欧米がバレエの中心なのだから。これからは世界展開していきたいと思っており、そのための作品となります」

「人との出会いに恵まれて、林さん、新垣さんに会う機会がありました。共演をお願いしたところ快諾してもらえました。舩木さんは、昔から知り合いで会って彼以外には考えられませんでした。彼は全幅の信頼を置く盟友です」

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林英哲
「45年間太鼓をやってきて、自分自身も舞踊作品は演出してきたし、舞踊、舞踏、日本舞踊との共演はありますが、バレエ作品に取り組むのは初めてです。しかし、バレエは自分でも習ってきたし、日本舞踊の名取も持っていて、このような太鼓奏者は世界で一人だと思っています。別の世界の人達と共演するという感覚ではありません」

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新垣隆
「今回私はピアノを弾いて太鼓と共演します。太鼓とピアノでどのような可能性があるのかを探ってみたいと思います。バレエには、子供のころから興味を持ってきました。また、音楽的にはストラヴィンスキーの影響を受けています。今回は願ってもない重要な機会です。曲はまだ準備段階ですが、これから頑張りたいと思います」

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舩木城
「私は音楽があって、そこから振付を行うスタイルなので、まだこれから先のことはわかりません。しかし今回は久保さんもダンサーとして出演する予定なので楽しみです」

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<質疑応答>
異なったジャンルのアーティストが共演する今回の企画は、バレエ・リュスに対する日本のバレエとしての回答だと思うのですがいかがでしょうか?世界展開はどのように考えていますか?新垣さんがストラヴィンスキーに影響を受けているとのことで、「春の祭典」のイメージがありますが、あのような作品になるのでしょうか。

新垣
「太鼓とピアノの共演の可能性を今回考えてみました。林さんは今まで山下洋輔さんともコラボレーションしてきたし、その形を一つのモデルとしてみたいと思います。太鼓はリズムを持つものなので、おのずと作品も出てくると思います。」

「林さんとリハーサルしてみて、まずご一緒できることは特別なことと感じました。林さんは日本の太鼓の演奏を通じて、日本の現代音楽の領域において大事な役割を果たしています。歴史を作っておられる方です。ご一緒できるのは嬉しいです。プレッシャーも感じていますが、大きな可能性を前にして、興奮しています」

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(リハーサルの模様の映像より)


「新垣さんからは、譜面と音源テープを頂いています。難しいリズムが書いてあって大変だな、と思いました。半分のところまでのスケッチはできています。この作品は、舩木さんのアイディアでエゴン・シーレの絵画「死と乙女」のイメージを基に作っています。私もエゴン・シーレは好きで彼の作品を観にウィーンの美術館に行きました。世紀末の心象を投影した人物像、生と性にまつわる感情が投影されていますよね。新垣さんの調整、音楽性がはまるのではないかと思いました。シーレは、色彩は華やかな作品は描いていません。太鼓とピアノだけという音楽で、コントラストがあってよいのではないかと思いました。新垣さんと私だけの演奏という方が面白いのではないか、自由度も高いのではないかと思い、楽しみです」

舩木
「音楽を観たい、というのが私の作品を創りたい根源です。クラシックバレエの動きから発生した作品になります。あらゆるジャンルの音楽を表現できる唯一のダンスがクラシックバレエだと思っています。頂いた音源を繰り返し聴いて形にするのですが、まだ振付は起こしていません。凄い緊張感のある作品になります。ライブ演奏なので、静かなものなのか激しいものになるのかはまだわかりませんが、心に深く刺さる作品を創りたいです」

Q エゴン・シーレの絵をモチーフにしたのはなぜでしょうか?そしてこの作品にはインプロヴィゼーションはあるのでしょうか?

久保
「林さんと舩木さんで、このアイディアで盛り上がったのです。3人に作品をお任せしています」

新垣
「即興にもいろいろなレベルがあります。全体の枠組みははっきり構成し、あるテーマを持ったものとなります。クラシックバレエの振付のスタイルから創るということからも、厳密にしてく部分はあります。その枠の中である程度の自由さを設定するような即興のスタイルになります」


「山下洋輔さんとコラボレーションした時には、音楽だけなので、15分の予定の作品が30分になったことはありました。バレエの場合には踊りがあるのでそれはないと思います。ある程度の枠の中で許された即興は展開すると思いますが、具体的にはまだこれからです」

舩木
「自分の作品の中では即興はしたことはありません。今回はもしかしたら舞台の上で即興があることはあり得ますが、リハーサルではかっちりと作品を創ります」


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Q 作品にあらすじはあるのでしょうか?林さんが新垣さんを推薦したとのことですが、どのような曲を聴いて推薦をされたのでしょうか?

舩木
「特にあらすじはありません。音楽を表現するときに、自然に立ち上る物語が出てくるので、そうなってほしいと思っています」


「10年ほど前に、新垣さんが別名義で書いた作品に参加しました。これは新日本フィルと邦楽器も参加しての大きな作品でした。新垣さんはオーケストラ曲も10数曲作曲しておられ、いろんな作家と共演しており、音楽界での評判もいい方です。どうにかして作曲を頼んでみようとお願いしたところ、快諾してもらえました」

「もともとは『春の祭典』を太鼓で演奏してバレエに、というアイディアでしたが、そのようなアレンジをすることは許諾を得るのが難しいということで、一から企画をやり直して、曲を創ろうということになりました。新垣さんの評判を聞いて、あちこちから、彼はいい曲を作るという話を聞きました。もちろん、話題性も高い方です。思い切ってチャレンジしてみると、思いがけない結果になるのでは、と思いました。新垣さんは忙しいのでスケジュールは大変だけど、快諾してもらえました」

<作品への意気込み>

久保
「これだけの才能を集めたので、壮大な素晴らしい作品になると確信しています。楽しみにしています」


「共演したことがない人とやるのは楽しみです。太鼓は伝統芸能ですが、新しいことが生まれる場に立ち会うのは楽しいです。私も新垣さんも、辛い境遇を乗り越えて面白作品、表現を生んだ経験があったので、今回もいい作品を創ることができると思うし、頑張れます」

新垣
「林さんは、様々なジャンルを私歩いてきてコラボレーションをしてきました。私にとっても目標とする方です。そのスタンスで、自分なりにやりたいという気持ちが強いです。願ってもない機会です。楽しい現場で、厳しいですが、新しいものを作ることができる幸せを感じています」

舩木
「ちょっとずつ形になっているのがとても楽しく、わくわくしています。どこかに救済がある作品になると思います。必ずいい作品になります」


非常に楽しみな公演ですね。新しいものが生まれる瞬間に立ち会えることに、私もワクワクしています。


公 演 名:
『死と乙女』
日   時:
2016年5月27日(金)開場18:30・開演19:00
     5月29日(日)開場12:30・開演13:00
               開場16:30・開演17:00
会場 北とぴあ(東京都北区王子1丁目11−1)

お問い合せ・
電話予約: NBAバレエ団事務局(月~金10:00~17:00)
Tel:04-2937-4931

芸術監督・演出:久保紘一
作曲:新垣隆
振付:舩木城
ゲスト出演:ピアノ・新垣隆/太鼓・林英哲&英哲風雲の会 

Act01 和太鼓
 和太鼓を舞台芸術にまで昇華させたパイオニア林英哲と英哲風雲の会の演奏
Act02 ケルツ
 ライラ・ヨーク振付。アイルランドの民族舞踏。彼らの苦楽を表現する。
Act03 舩木城 新作「死と乙女」
 振付家舩木城新作、世界初演。
 新垣隆作曲による新作バレエにNBAバレエ団×林英哲、英哲風雲の会が挑む。

セルゲイ・フィーリンは3月以降もボリショイ・バレエに残留

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ボリショイ・バレエの芸術監督、セルゲイ・フィーリンの契約は3月17日に切れて、彼は退任する予定です。後任は、元マリインスキー・バレエの芸術監督で、ミラノ・スカラ座バレエの芸術監督であるマハール・ワジーエフ。

フィーリンに対しては、退任後もボリショイ劇場でポストを用意するという、ウラジーミル・ウリン総裁の提案がありました。

そして、フィーリンはボリショイ劇場において、若い振付家のためのワークショップを率いるという職務に就くことになると、ウリンは発表しました。

http://tass.ru/kultura/2707013

「ここ数年においてボリショイで成功してきたユース・オペラプログラムに倣い、クリエイティブな教育を推進するためにワークショップを開設し、フィーリンはそのリーダーとなります。このイニシアティブのための基金は、ボリショイ劇場の評議員会によって提供されます」とウリンは語りました。

「ボリショイ劇場は、もちろんその偉大な伝統、古典バレエのレパートリーなしでは存続できません。しかしながら、劇場は新しい芸術作品を生み出すことでのみ、成長し存続することができるとも深く確信しています。この劇場のアーティストたちと仕事をするコンテンポラリーの振付家を、私たちがコンスタントに探していることは偶然ではありません。ジャン・クリストフ・マイヨー、ウェイン・マクレガー、ユーリ・ポソホフ、ポール・ライトフットとソル・レオン、クリストファー・ウィールドン。私たちの未来、21世紀において作品を創造する振付家について考えることは非常に重要だと考えています。そして私は、セルゲイ・フィーリンがこの活動を率いることに同意したことを嬉しく思います」

フィーリンもまた、この仕事を引き受けたことを認めています。「ボリショイ劇場は、私のプロとしての活動とずっと関係してきました。長年バレエ・ダンサーとして活動してきて、自分に作品の役柄を振付ける振付家と共に仕事をすることがどんなに重要なことかはよく知っています。そして、ボリショイ・バレエの芸術監督として、常に新しい振付家をどのように招くかという問題に直面してきました。実を結ぶようなバレエの芸術の開発は非常に重要であり、現代的で面白く、オリジナリティのある、ロシア人の振付家が必要とされています。そのため、ボリショイ劇場においては、アレクセイ・ラトマンスキーが種をまいた後の土壌に若い振付家のための常設のワークショップを創ることは、とても重要だと私は思います」とフィーリンはコメントしました。

ウリンによれば、ワークショップを創るというアイディアにおいては、若い振付家にバレエ作品のプロダクションを創ってみる機会を与えるだけでなく、著名な振付家によるマスタークラスや、様々なカンパニーにおける研修といった、学びのプロセスを通して、若い才能を開発するということも含まれているとのことです。

「若い振付家のラボラトリーで生み出された作品は、非常にクリエイティブで面白く、そして必要なものとなってくるし、ボリショイにとって根本的に重要なことです」とウリンはフィーリンに語りました。

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A New Bolshoi?
こちらは、新芸術監督のワジーエフの下で、ボリショイ・バレエはどうなっていくのかを占った記事です。

http://dancemagazine.com/news/a-new-bolshoi/

ミラノ・スカラ座の芸術監督であるワジーエフが、フィーリンの後任となると発表されたのは10月でした。

2013年の硫酸襲撃事件によって、フィーリンは視力に障害を負ってしまったのですが、彼がボリショイの芸術監督を退任するのは、目の障害が理由ではありません。ウリンの前任であったアナトリー・イクサーノフ前総裁は、主に管理的なことを手掛けて芸術面はフィーリンに任せていましたが、ウリンは彼自身がボリショイの芸術的な方針も権限を持つ方向に舵を切りました。

ウリンが、昨年夏にフィーリンの契約は更新されないことを発表した時、次期芸術監督の権限は削減され、事務的な仕事を中心とした業務を主に担当するとしました。

ところが、次期芸術監督のワジーエフは13年間マリインスキー・バレエの芸術監督を務めて、ザハロワ、ヴィシニョーワ、オブラスツォーワといったスターを育て、2009年にスカラ座へ移りました。スカラ座の芸術監督となってからは、セルゲイ・ヴィハレフやアレクセイ・ラトマンスキーによる復元作品を中心にした新作を上演して成功を収めてきました。ロシアバレエの現実面を熟知している一人です。

ワジーエフがマリインスキー・バレエを去ったのは、マリインスキー劇場のワレリー・ゲルギエフ芸術監督がバレエについても口を出してきたことを嫌ってのこと。また、スカラ座においては、悪名高い労働組合との対決も制しており、ウリンの下で素直に彼の言うことに従うとは考えにくいと想定されています。ワジーエフは、ボリショイでの方針について語るのは時期尚早としていますが、すでにラトマンスキーの作品をボリショイに復活させたいと語っており、またフォーサイスをお気に入りの振付家としています。

フィーリンは、ジャン・クリストフ・マイヨーの「じゃじゃ馬馴らし」などの新作、そして「オネーギン」、「椿姫」といった作品を導入して成功を収めてきました。さらに、ラントラートフ、スミルノワといった新しい世代も台頭してきました。しかし、特に襲撃事件以降は、グリゴローヴィッチ版「愛の伝説」のリバイバルや、ファジェーチェフ版「ドン・キホーテ」の新しいプロダクションなど、古いソヴィエトの伝統に回帰する方向性も出てきています。フィーリンの振付家ワークショップも設立されるわけですが、ワジーエフはどのような着地点を見つけることでしょうか。

ボリショイ・バレエin シネマ、次の上映作品は、この新制作「ドン・キホーテ」です。

http://bolshoi-cinema.jp/lineup.html
日本では、2016年4月20日(水)に映画館で観ることができます。(現地では4月10日に上演)

バレエの王子さま公演 7/15-18

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バレエの祭典演目に入っていながら、なかなか概要が発表されていなかった「バレエの王子さま」公演のチラシがやっと出回りました。

それによると、

7月15日(金)19:00
7月16日(土)14:00
7月17日(日)14:00
7月18日(日・祝)14:00

文京シビックホールでの上演となります。

気になる出演者は、

レオニード・サラファーノフ(ミハイロフスキー劇場バレエ)
エドワード・ワトソン(ロイヤル・バレエ)
ウラジーミル・シクリャーロフ(マリインスキー・バレエ)
ダニール・シムキン(アメリカン・バレエ・シアター)

が決定しているとのことです。王子様は追加される予定で、お姫さまも参加するそうです。

NBSのWEBチケット先行発売は4月中旬予定ということで、さらなる情報はしばしお待ちを、ということでしょうね。
演目は、「エチュード」他、だそうです。

エドワード・ワトソンは、ロイヤル・バレエの来日公演には出演しない代わりに、こちらに出てくれるとのことですね。当初出演する予定だったスティーヴン・マックレーの名前はありませんが、彼はロイヤルの来日公演の方では活躍してくれますので。ワトソンは、いわゆる王子様ダンサーではありませんが、マイヤリングのルドルフ皇太子役という王子様役を演じてくれたら嬉しいな、なんて思ってしまいます。

ジャパンアーツ・オールスター・ガラにエルマコフら出演/演目一部発表

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ジャパンアーツ・オールスター・ガラに、アンドレイ・エルマコフ(マリインスキー・バレエ)とカッサンドラ・トレナリー(ABT)の出演が決定したというお知らせがありました。

http://www.japanarts.co.jp/blog/blog.php?id=1838

アンドレイ・エルマコフは、昨年11~12月の来日公演でも活躍し、「愛の伝説」ではロパートキナと共演してフェルハド役を演じたので、皆さんの記憶に新しいことだと思います。まもなくDVDが発売される「アンナ・カレーニナ」では、やはりロパートキナ相手にヴロンスキー役を演じています。

カッサンドラ・トレナリーは初耳の方が多いかと思いますが、昨年8月にソリストに昇格したばかり。METシーズンのラトマンスキー版「眠れる森の美女」で、オーロラ役に抜擢されています。(6月29日公演)その前の4月2日のデトロイトでの「眠れる森の美女」で、オーロラ役デビューを飾る予定です。まだ非常に若いバレリーナ。


ジャパン・アーツのサイトにはまだ出ていませんが、ハンブルグ・バレエの「リリオム」の会場で、一部演目を記載した仮チラシが配布されていました。(2/29現在)

<Aプロ>
「ジゼル」よりパ・ド・ドゥ  ニーナ・アナニアシヴィリ、マルセロ・ゴメス
「瀕死の白鳥」  ニーナ・アナニアシヴィリ
「Toccare」 (振付:マルセロ・ゴメス)  カッサンドラ・トレナリー、マルセロ・ゴメス
「シナトラ組曲」 (振付:トワイラ・サープ)  アレッサンドラ・フェリ、エルマン・コルネホ
「ラプソディ」よりパ・ド・ドゥ (振付:フレデリック・アシュトン)   アレッサンドラ・フェリ、エルマン・コルネホ
「海賊」よりグラン・パ・ド・ドゥ  スヴェトラーナ・ザハロワ、ミハイル・ロブーヒン
「トリスタンとイゾルデ」よりパ・ド・ドゥ (振付:クシシュトフ・パストール)  スヴェトラーナ・ザハロワ、ミハイル・ロブーヒン
未定 ウリヤーナ・ロパートキナ、アンドレイ・エルマコフ
未定 ウリヤーナ・ロパートキナ、アンドレイ・エルマコフ
未定 カッサンドラ・トレナリー、マルセロ・ゴメス


<Bプロ>
「白鳥の湖」よりパ・ド・ドゥ  ニーナ・アナニアシヴィリ、マルセロ・ゴメス
「Lekuri」(ジョージアの民族舞踊) ニーナ・アナニアシヴィリ
「Apotheose」  (振付:マルセロ・ゴメス)  カッサンドラ・トレナリー、マルセロ・ゴメス
「ドン・キホーテ」より3幕パ・ド・ドゥ  カッサンドラ・トレナリー、エルマン・コルネホ
「ル・パルク」 (振付:アンジェラン・プレルジョカージュ) アレッサンドラ・フェリ、エルマン・コルネホ
「ジゼル」よりパ・ド・ドゥ  スヴェトラーナ・ザハロワ、ミハイル・ロブーヒン
「Distant Cries」 (振付:エドワード・リアン) スヴェトラーナ・ザハロワ、ミハイル・ロブーヒン
未定  アレッサンドラ・フェリ
未定 ウリヤーナ・ロパートキナ、アンドレイ・エルマコフ
未定 ウリヤーナ・ロパートキナ、アンドレイ・エルマコフ

http://www.japanarts.co.jp/concert/concert_detail.php?id=390&lang=1

≪プログラムA≫
2016年07月23日(土) 14時開演 東京文化会館
2016年07月26日(火) 18時30分開演 東京文化会館

≪プログラムB≫
2016年07月24日(日) 14時開演 東京文化会館
2016年07月27日(水) 18時30分開演 東京文化会館

※追加出演者、調整中プログラム内容は決定次第ジャパン・アーツホームページで発表いたします。

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ジョン・ノイマイヤーのプレトーク

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後で映像が公開されるそうなのですが、今日の「リリオム」の公演前にあったジョン・ノイマイヤーのトークについて、メモを取ったのでご紹介します。「リリオム」、素晴らしい舞台でした。

(録音していたわけではないので、多少不正確なこともあるかもしれません。また、聞き手が通訳の続きを遮るような形で話をしていたので、通訳されたところは全部は聴けませんでした。ノイマイヤー氏の英語は非常に聴き取りやすく、難しい表現もほとんど使っていませんでした)

ハンブルク・バレエ団芸術監督ジョン・ノイマイヤー プレトーク

Q『真夏の夜の夢』では、ジェルジ・リゲティの音楽が使われています。リゲティは京都賞を受章されていますよね。

J.N 『真夏の夜の夢』は3つの異なった世界を舞台にしたコメディ作品です。妖精の世界は、リゲティの音楽を使い、宇宙的な不思議な音楽で表現しています。実際の人間=貴族の存在する世界は、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」を使っています。そして小さな職人たちの世界は、手押し車のような楽器(手回しオルガン)を使って演奏しています。3つの世界を行き来しながら物語は展開し、3つの世界を明確にするために音楽を使っています」

「オルガンの演奏は原始的な音です。妖精たちの世界はクラシックとは違った音楽なのでリゲティに依頼しました。実験的な音楽で妖精の世界を表現しました。私の考えてでは、妖精の世界はロマンティックな、チュチュが似合うような世界ではなく、サイバー的な、目には見えないけど人間の世界と並行して存在している不思議な世界なのです」

「『真夏の夜の夢』は1977年の作品で、今までに200回以上も上演されてきましたが、古い作品にはなりません。一回一回がプレミア公演という意気込みで上演されています。舞台というのは、現在起きていることが明確に伝わらなければなりません。」

Q 『リリオム』で音楽をミシェル・ルグランに依頼したいきさつは?

J.N 「私は彼の長年のファンであり、また『リリオム』の物語のファンでもありました。『回転木馬』の映画でも知られている物語ですが、バレエ化をしたいと思っていました。ある日、ルグランから電話が来ました。パリ・オペラ座で「椿姫」を観て素晴らしかったので、一緒にプロジェクトをやりたいと。その時、『リリオム』をやるチャンスだと思いつきました。ルグランはポピュラー音楽の作曲家として知られていますが、クラシック音楽の教育も受けてきてクラシックにも詳しい作曲家でもあります。この作品は、異なったジャンルの音楽を組み合わせるにはぴったりだと思いました」

「踊りもそうですが、テクニック、肉体を表現する外的なものと、ダンサーの内なる部分を表現するものとのコントラストを音楽で表現しました。ジャズは人間の動き、内なる感情はクラシックと使い分けたいとも思いました」

Q 『リリオム』に登場するジュリーの子どもは原作や映画では女の子ですが、どうして男の子に変更したのですが?

J.N 「リリオムのキャラクターに新しい次元を与えたかったのです。バレエというのは現在しか表現することができません。ルイスにリリオムの少年時代を重ね合わせることができるし、愛をうまく表現できないというところも見せることができます。ジュリーがシンプルなキャラクターだけに、ジュリーがいることで、リリオムの葛藤、弱さがより表現できます」

Q 『リリオム』は現世とあの世の間の物語ですよね?このバレエは、能の影響は受けていますか?

J.N 「原作においては、この物語は伝説として村の人が話していて、物語として伝わっているものです。リリオムが息子のために星を持って帰るのは、あの世とこの世がつながっていることを象徴させています」

「能は大好きです。今回はスケジュールが忙しくて残念ながら公演は観に行けないのですが。言われてみれば能とのつながりはあるのだと思います。世界と世界の間のコミュニケーション、能の中にあるそういったつながりは私の作品の中に存在しているからです。バルーンマンは、世界の案内役としてあの世とこの世をつなぐキャラクターです。能については、意識的ではありませんが、インスピレーションを受けていると思います」

Q 「ガラ<ジョン・ノイマイヤーの世界〉」について教えてください。

J.N 「120人のダンサーとスタッフを日本に連れて行くときには、どの作品を持ってきて、作品の何を見せるかということは私の責任です。年を取って来るにしたがって自分の人生を振り返り、真摯に考えています。どの作品も、私の中にとどまっていて深い作品です。単にソリストによるパ・ド・ドゥを見せるだけではありません。バレエの中の完全なシーンを持ってくることが大切です。「バーンスタイン・ダンス」の中の『キャンディード序曲』では35人のダンサーが踊る編成となっています。『くるみ割り人形』は私のクラシック・バレエへのオマージュです。ソリストだけでなく、バレエ団でこのような作品をやっていますよというのを見せるために持ってきました。ジョン・ノイマイヤーの作品、ハンブルグ・バレエとは何かというのを見ていただけるような構成となっています」

「このような形での上演は非常にまれです。スポレートでは、野外で教会の前でガラ公演をやったことはありますが、私の作品のいろんな側面を見せる、集大成的なガラは東京のためだけの公演です。日本のためだけに作ったものです。ぜひ観てください」

ノイマイヤーが語る、ガラ公演〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉


ガラ公演も、『真夏の夜の夢』もとても楽しみになってきました。もちろん両方観に行きます。

http://www.nbs.or.jp/stages/2016/hamburg/index.html

ガラ公演〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉
3月8日(火)、9日(水) ともに18:30開演 東京文化会館

『真夏の夜の夢』
3月11日(金)18:30開演 東京文化会館
3月12日(土)14:00開演 東京文化会館
3月13日(日)14:00開演 東京文化会館

3/4、6 ハンブルグ・バレエ「リリオム」

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「リリオム―回転木馬」  Liliom Ballet Legend by John Neumeier
─ プロローグ付き全7場のジョン・ノイマイヤーによるバレエ伝説 ─

ロジャーズ/ハマースタインのブロードウェイ・ミュージカルの名作『回転木馬』の原作となった、フェレンツ・モルナールの戯曲をバレエ化したジョン・ノイマイヤーの『リリオム』。

http://www.nbs.or.jp/stages/2016/hamburg/lilio%EF%BD%8D.html

http://www.hamburgballett.de/e/_liliom.htm

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1930年代の大恐慌時代。遊園地の客引きリリオムは、水兵にからまれたジュリーを助けたことから恋に落ち、ふたりはともに暮らし始める。雇い主で愛人でもあったマダム・ムシュカートに解雇されたふたりの生活は苦しく、また互いに気持ちを素直に伝えられない。リリオムは些細なことでジュリーを殴ってしまうが、彼女が子を宿していることを知ると未来に希望を抱く。しかしリリオムは悪人フィスカーにそそのかされて盗みを働き、失敗すると絶望して自殺する。
あの世で裁かれたリリオムは、煉獄にとどめ置かれる。16年後、束の間、地上に戻ることを許されたリリオムは、天国の星を土産に成長した息子のルイスに会う。しかし自分そっくりに荒ぶれた息子から拒絶され、失望と怒りから彼は息子を殴る。そこにジュリーが現れ、リリオムの気配を、そして彼の愛を感じ取る。


リリオム:カーステン・ユング

ジュリー:アリーナ・コジョカル(ゲスト・ダンサー)

ルイス:アレッシュ・マルティネス

風船を持った男:サシャ・リーヴァ

マダム・ムシュカート:アンナ・ラウデール

マリー:レスリー・ヘイルマン

ウルフ:コンスタンティン・ツェリコフ

フィスカー:ダリオ・フランコーニ

水兵:キーラン・ウェスト

天国の門番:エドウィン・レヴァツォフ

内気な青年:アリオシャ・レンツ

悲しいピエロ:ロイド・リギンズ

エルマー:エマニュエル・アムシャステギ

幼少時のルイス:ヨゼフ・マルキーニ


指揮:ジュール・バックリー

演奏:北ドイツ放送協会ビッグバンド、および録音音源


ミシェル・ルグランがオリジナル・スコアを作曲し、2011年12月に初演されたノイマイヤーの作品は、映画にもなった「回転木馬」と同じ原作を基にしたもの。今回のキャストは、マダム・ムシュカート役のアンナ・ポリカルポヴァが引退した他はオリジナル初演キャストとほぼ同じ。オーケストラは入っていないものの、北ドイツ放送協会ビッグバンドが舞台奥、遊園地のセットの上に配置されてスイングジャズの演奏を聴かせてくれた。時に録音テープのクラシックな響きの音楽と、生き生きとしたビッグバンドのジャズが融合する。この音楽の使い分けで、登場人物の心理も描写されていく。クラシカルなライトモチーフのメロディの切ない美しさは、いつまでも耳に残った。

死んで16年後、地上に戻ることを許されたリリオムが息子に会うところから始まり、ジュリーとの出会いの回想シーンへと戻ることで物語は展開する。ノイマイヤー得意の入れ子構造。ストーリーテリングと場面転換、モチーフの使い方の巧みさは流石ノイマイヤー・マジックというべきものだけど、あざとさや小難しさは一瞬も感じさせず、シンプルに語られていく。

風船を持った白塗りの長身の男が、現世とあの世をつなぐ存在として静かに現れ、片脚をあげたポーズで静止したり、ゆっくりとスローモーションのように歩いていく。彼の持っているカラフルな風船が、リリオムの死の時には真っ白になったり、リリオムに天国の星を渡したり、まるで守護天使のようだ。煉獄から地上にリリオムが戻った時も、最初は風船男の影に隠れている。天に輝く星たちは、あの世から人々の営みを見守っている魂のようだった。

愛が死を越えて、向こうの世界からこちらへと受け継がれていくことを描いた作品。そして、どんなに愛が深くても、心が通じ合わないことがある深い悲しみも。リリオムは心優しい男性のはずなのだけど、乱暴者で愛を伝えることに不器用で、愛するジュリーも行き違いから思わず殴ってしまう。職を失ってどうやって妻子を食べさせていいのかわからず、命を失ってしまう。その不器用さは息子ルイスにも受け継がれていく。

作品の舞台は1930年代、大恐慌の後の時代。職安の前での失業者たちのダンスが強烈だ。貧しさと絶望の痛みは現代の貧困にも通じていて胸が痛い。リリオムの死後、シングルマザーとして苦労して息子を育てるジュリー、貧困と暴力の連鎖は続き、16年後の世界にも職を切実に求める失業者たちは街にあふれている。

そんな中でも短くもキラキラと輝くリリオムとジュリーの恋、それを彩る遊園地の回転木馬とカラフルなネオン、ジャズの響き、若い娘たちのダンス。ノイマイヤーのマジックによって、一人一人の登場人物が生きていて、脇に至るまでそれぞれの物語が感じさせてくれる。そしてアンサンブルのダンサーたちも、そのキャラクターにそれぞれの命を吹き込んでいる。ぼろぼろの服に大きすぎる靴、帽子をいつも追いかけている悲しいピエロを演じていたのが、名ダンサーのロイド・リギンス。彼はノイマイヤーの右腕たる副芸術監督で、これから舞台にいる姿をあとどれだけ観られることだろうか。大きな役ではないけれども、彼が演じていることで、作品にさらなる深みが与えられている。

***
『リリオム』は、リリオムとジュリーの物語、リリオムと息子ルイスの物語という二つの関係が軸となっている。時には暴力的なダメ男のリリオムと、純情可憐なジュリーの関係は、DV男と共依存の女という図式にともすればあてはまってしまい、このような男性を同情的に描くことには賛否はあるだろう。リリオムの中に秘められた優しさと、愛する人なのに手を思わず挙げてしまう悲しみを身体現したカーステン・ユングが演じたからこそ、嫌悪感を持たずに済んだと思った。

死んでから16年間、煉獄に留め置かれたリリオムは、空にある窓からじっとジュリーとルイスを見守る。死んで初めて、彼は本当の愛を知った。二人を見つめる表情には、次第に慈愛が満ち溢れるようになった。だけど、煉獄にいる彼は、自分の息子にも、ジュリーにも会えない。天国の門番によって、一日だけ戻ることは許されたけど、それは一日だけのこと。

冒頭、そしてラスト近くに登場する、父と息子のパ・ド・ドゥ。リリオムは息子への想いを伝えるように、万感を込めて踊る。一瞬二人の心は通い合い、ユニゾンでの伸びやかで美しい動きも見られる。息子は、リリオムが自分の父だとわからない。親し気に近づいてくる怪しい男はいったい誰だと思い、キラキラ光る星を渡されても、きれいだと思ってもそれが何なのかわからない。ここで、またリリオムは息子を殴ってしまう…。

そんな二人の再会のシーンに現れたのが、息子を想う母ジュリー。ルイスにはリリオムは見えているようだったけど、ジュリーには彼の姿は見えない。だけど、次第に彼女は彼がいるのを感じるようになってその短い時間を慈しむ。たった一度の、背後からのリリオムとのキス、そして彼は地上からいなくなってしまう。一度戻ってきた彼が再びいなくなってしまった悲しみを抱えつつも、穏やかで満ち足りた微笑みを浮かべてベンチに佇むコジョカルの姿は、深く心に響いた。

アリーナ・コジョカルはこれ以上ないほどのはまり役。幸薄そうで、純情な娘ジュリー。生きていく才覚に乏しく、時には彼女を殴ってしまう刹那的な男のリリオムに従順に従う姿には、男性にとって都合のよい、理想化された女性にも見えてしまう。だけど、ジュリーは強いし、コジョカルが演じることで、彼女の芯の強さと感情の豊かさ、心の襞が見えてくる。

二人の心が少しずつ近づいていくことが感じられる、最初のベンチでのパ・ド・ドゥで恋する気持ちが伝わってくる。リリオムが死んでしまった後、彼の遺体にすがりつき、かき抱くときの激しい慟哭の表現。見知らぬ男に殴られたかのように見えた息子へ駆け寄る姿。コジョカルは、どんな悲しみや苦労をも乗り越えられるような強い愛というものを体現していた。

愛ってなんだろう。死んでしまった後も、心はどのようにこの世に残っていくのだろう。ここにはもういない愛する人の想い出は、どのように受け継がれていくのだろう。この物語は、決して甘いものではなくて、いろんな問いかけを観る者に投げかけ、そして内なる心の傷や想い出を呼び覚ます。愛する人との日々はどれほどかけがえのないものなのか。赦しとは何か。どんなに愛し合っていてもいつかは別れの日は来る。死によって二度と会えなくなった人を、どのように想い続けるか。帰り道、思わず空の星を見上げて、会えなくなった大切な人のことを想って涙し、そして今生きている愛する人のことを思い切り抱きしめたくなる、そんな気持ちにさせられる舞台だった。

****
ほぼオリジナルキャストで、この深く心に残る舞台を観ることができた幸せをかみしめた。この作品は、胸の中に宝物として、大切にしまっておきたい。風船を持った男サーシャ・リヴァの静かながら大きな存在感。息子役アレッシュ・マルティネスの伸びやかな動き。哀しみをにじませた悲しいピエロのロイド・リギンス。長い手脚のグラマラスなマダム・ムシュカート、アンナ・ラウデレ。魅力的なメーンキャストもさることながら、日本人ダンサーもアンサンブルで大活躍していた。風を切るような高いジュッテ・アントルラッセで舞台を一周して印象的だった菅井円加さん、リリオムに絡む姿もキュートで魅力的な石崎双葉さんを始め、ソリストの有井舞耀さん、研修生の平木菜子さんも、遊園地でリリオムに秋波を送る娘たちのなかでも、それぞれが目を引いていた。

引き続き、ガラと「真夏の夜の夢」も楽しみ。

シャルル・ボワイエ主演、フリッツ・ラング監督の映画作品

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ジュリー・ケントがワシントン・バレエの芸術監督に就任

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ABTを、そしてアメリカを代表するプリマ・バレリーナとして29年間活躍し、昨年引退したジュリー・ケント。引退後は、カンパニー、ABTのサマー・インテンシヴの主任教師、そしてABT付属ジャクリーン・ケネディ・オナシス・スクールで教えていました。

そのジュリー・ケントが、ワシントン・バレエの芸術監督に就任することが発表されました。

https://www.washingtonpost.com/entertainment/theater_dance/abt-star-julie-kent-is-washington-ballets-new-director/2016/03/07/e1f469ba-e49d-11e5-a6f3-21ccdbc5f74e_story.html

プレスリリース(PDF)
https://www.washingtonballet.org/sites/default/files/TWB%20Announces%20New%20Artistic%20Director%20REVISED.pdf

17年間芸術監督の任にあったSeptime Webreが退任するにあたって、今年の7月1日にケントが就任することになったものです。

ワシントン・バレエは40年の歴史があるものの、正団員21人の小規模なカンパニーです。日本人プリンシパルの大貫真樹さん、ヴァルナ国際コンクールで金メダルに輝き、最近ではENBの「海賊」にゲスト出演したり、日本でもガラ公演に出演しているブルックリン・マック、ジャクソン国際コンクールで銀メダルを取った宮崎たま子さんなどが所属しています。レパートリーは、古典から現代作品まで幅広く、スクールには1000人以上の生徒がいます。昨年は、ABTのミスティ・コープランドをゲストに迎えての「白鳥の湖」公演がありました。

ケントの夫君、ヴィクター・バービーも元ABTのプリンシパルで、ABTの副芸術監督として働きつつキャラクター・アーティストとして舞台に立っていました。バービーはワシントン・バレエの副芸術監督に就任し、ケントと二人の子供たちとワシントンに引っ越すことになります。

上記ワシントン・ポスト紙のインタビューによれば、ケントは当初、芸術監督のオファーを受諾しませんでした。ニューヨークでの生活、長年過ごしたカンパニーとの生活を愛していたからです。しかし結局、この仕事を引き受けたのは、アメリカではまだ珍しい女性芸術監督という仕事につけることが一つ。そして、ワシントン近郊のメリーランド州に生まれ育っており、今も母親が暮らしている街だということが二つ目の理由でした。

新しい芸術監督を迎えることで、ワシントン・バレエはカンパニーの規模を拡大し、地域社会での存在感を拡大することを狙っています。現在21人の団員を2023年までに40名程度に増やし、一年に2人程度増やすことを目標にしているそうです。

なお、デヴィッド・ホールバーグは、ワシントン・バレエのボードメンバーに昨年選ばれています。彼はABTでジュリーと踊ったことがあり、また彼女が教える様子も見てきました。「彼女の素晴らしさに、カンパニー全体が触発するところを見ました。主役だけでなく、一番新しい研修生までもしっかり見ることができる人です」と彼は電話インタビューで答えました。

ケントによれば、彼女はワシントン・バレエの2016-7年シーズンの計画の概要を、現在のレパートリーを基に作ったとのことで、数週間後に発表されるとのことです。現在のダンサーたちをよく見てから、新しい作品を加えるかどうかを決めるとのことです。

ABTは、ケヴィン・マッケンジーが1992年以来ずっと芸術監督を務めており、そろそろ交代しても良いころです。が、有力候補の一人であるヴィクター・バービーが、ジュリー・ケントと共にワシントンに行ってしまったため、今後どのようになるのか不透明になってきました。常任振付家のラトマンスキーは、芸術監督の仕事にはもう関心がないと語っています。今年2月に、リンカーンセンターのエグゼクティブだったKara Medoff Barnettがディレクターとして就任しました。また、元プリンシパルのイーサン・スティーフェルが、ロイヤル・ニュージーランド・バレエの芸術監督を退任後、カンパニー教師となっています。多くのスターが引退し、今年のMETシーズンではアレッサンドラ・フェリ以外のゲストダンサーを招いていないこともあり、チケットの売れゆきは低迷しています。


なお、ワシントン・バレエが本拠地とするケネディセンターの2016-7シーズンが発表されています。(ワシントン・バレエの公演予定については未定)

http://www.kennedy-center.org/pages/SpecialEvents/SeasonAnnouncement

主なバレエ上演予定は、

サンフランシスコ・バレエの「シンデレラ」(クリストファー・ウィールドン振付)10/26-30
ABTの「白鳥の湖」1/26-29
マリインスキー・バレエの「イワンと仔馬」(ラトマンスキー振付)1/31-2/5
アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター 2/7-12
ハンブルグ・バレエの「人魚姫」(ノイマイヤー振付)3/28-4/2
ミスティ・コープランドとジャスティン・ペックによるプログラム 4/18-23
ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)6/6―11 

と言ったところです。


シリコンバレー・バレエ(サンノゼ・バレエ)が解散

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カリフォルニア州のサンノゼを本拠地とするシリコンバレー・バレエ(旧サンノゼ・バレエ)が解散することが報道されています。

http://www.mercurynews.com/entertainment/ci_29610629/silicon-valley-ballet-shuts-down

1986年に設立され30年の歴史があったこのカンパニー。2012年にはABTと提携を結び、2013年に芸術監督に、元ABTのスター、ホセ・カレーニョが就任しました。現在新国立劇場バレエ団のプリンシパルを務める米沢唯さんが所属していたこともあります。

2012年にカンパニー創設者で前芸術監督Dennis Nahat,を解任した結果、2000万ドルもの寄付をしてきた大口ドナーが去ってしまったことで、カンパニーは危機に見舞われました。さらに税金の支払いが重くのしかかったとのことです。昨年、本格的な危機が訪れたときに、カンパニーは窮状を訴え、わずか10日間で64万ドルを集めることに成功してとりあえずの危機を乗り越えましたが、オーケストラ演奏をテープに切り替えたり、いくつかの公演をキャンセルする羽目に陥りました。

公演のクオリティは高くて良い批評も出ており、ヨーロッパで大口の支援者を得て、カンパニーはスペインのツアーに出かけて先週、成功裏に終えました。ところがサンノゼに戻ったところ、すべてのダンサーと管理スタッフ、そして芸術監督のカレーニョがレイオフされたとの通告があったとのことです。カンパニーには32人のダンサーと、32人のスタッフが全員解雇されてしまいました。

シリコンバレーは、世界のハイテクの中心地ですが、一方で、芸術がなかなか根付かない街でした。ここ数年、劇場や演劇カンパニーの解散も相次いできました。また、サンフランシスコにきわめて近く、大きなサンフランシスコ・バレエがあるので、この地域での2番目のバレエ団が存続するのが難しかった模様です。付属のバレエ学校も閉鎖されますが、同じスタッフで新しい学校が設立されるとのことです。

こちらのFBページにさらに詳しい事情が書かれています。
https://www.facebook.com/OdettesOrdeal/photos/a.172985256067962.38706.158238107542677/1140365655996579/?type=3

マシュー・ボーンの「ザ・カーマン」劇場公開決定(6/25-)

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9月に「眠れる森の美女」の来日公演も予定されている、マシュー・ボーンの話題作「ザ・カーマン」が日本で劇場公開されることになりました。

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「ザ・カーマン」はジョルジュ・ビゼーの名作オペラ「カルメン」を「ザ・カーマン」としてマシュー・ボーンがリイマジンした作品です。

誰もが知る人気曲の一つ「カルメン」を、マシュー・ボーンの「シザーハンズ」などでも音楽を手がけたテリー・デイヴィスがアレンジし、情熱・官能に満ち溢れたダンサーたちの踊りにより人間の奥底に渦巻く欲望を見事に表現しているサスペンスドラマ仕立てのバレエです。

昨年夏のイギリス本国の公演ではチケットがソールドアウト 続出となったマシュー・ボーンの人気作を、映画館のスクリーンにてお楽しみいただける貴重な機会になります。

演出・振付: マシュー・ボーン
セット・衣装デザイン:レズ・ブラザーストン
照明デザイン:クリス・デイヴィー
サウンドデザイン:ポール・グルースイス(ローレンス・オリヴィエ賞最優秀音響デザイン賞ノミネート歴あり)
音楽:テリー・デイヴィス
映像化監督:ロス・マクギボン
製作総指揮:ジョン・ワイヴァー、ロバート・ノーブル、バーバラ・リー、プロデューサー:ルーシー・コンラッド

出演:
クリス・トレンフィールド (ルカ(旅人))、
アラン・ヴィンセント (ディノ・アルファノ(ガレージ・ダイナーのオーナー))、
ジジ・ストラレン (ラナ(ディノの妻))、
ケイト・ライアンズ (リタ(ラナの妹))、
ドミニク・ノース (アンジェロ(雇われ人))、
その他、ニュー・アドヴェンチャーズのダンサーたち

収録:イギリス、サドラーズ・ウェルズ劇場
撮影時期  2015 年 8 月
上映時間 98 分

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クリス・トレンフィールドは、一昨年のマシュー・ボーン「白鳥の湖」のザ・スワン/ザ・ストレンジャー役も記憶に新しいところです。
ラナ役を演じたジジ・ストラレンは本作で英国ナショナル・ダンス賞の Outstanding female performance(モダン部門)を受賞しました。また、ラナの妹のリタを演じたケイト・ライアンズはヨーロッパ・ダンス批評家協会賞受賞を受賞しています。 おなじみ、ドミニク・ノースもアンジェロ役で出演しています。

マシュー・ボーンからのコメント:
「僕のプロダクションの中で、観客から最も好きな演目として一番言及される作品、それが「ザ・カーマン」です。そして、ダンサーたちからも愛される作品になっている。情熱的でやりがいのあるキャラクターたちだからね。世界中のファンが、この作品を地元の映画館で観られる機会に恵まれることを、大変嬉しく思います。」

【公開情報】
6 月 25 日(土)〜、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
(YEBISU GARDEN CINEMA:東京都渋谷区恵比寿 4 丁目 20 番 2 恵比寿ガーデンプレイス内)
劇場 HP:http://www.unitedcinemas.jp/yebisu/index.html
料金:特別興行:2.200 円均一(税込)
前売券近日発売予定:¥2,000 (税込)特典クリアファイル付
作品公式 HP:マシュー・ボーン in Cinema HP http://matthewbournecinema.com
(公式サイトへの情報追加は来週の予定)

(こちらのDVDは2001年の初演の時の映像です)

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ミュンヘン・バレエの2016-17シーズン

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イーゴリ・ゼレンスキーを新芸術監督に迎える、ミュンヘン・バレエ(バイエルン州立劇場バレエ)の2016-17シーズンが発表されています。

https://www.staatsoper.de/media/content/PDFs/da39a3ee5e6b4b/index.htm(PDF)

不思議の国のアリス (クリストファー・ウィールドン、新制作) 2017年4月3日初演
ラ・フィユ・マル・ガルデ (フレデリック・アシュトン)
ラ・バヤデール (プティパに基づくパトリス・バール版)
ロミオとジュリエット (ジョン・クランコ)
シンフォニー・イン・C (バランシン)/イン・ザ・ナイト (ロビンス)/Adam Is (アズール・バートン)
スパルタクス (ユーリ・グリゴローヴィッチ、新制作) 2017年4月8日初演
ジゼル (ピーター・ライト)
真夏の夜の夢 (ジョン・ノイマイヤー) 

マイヤリング (ケネス・マクミラン、モスクワ音楽劇場バレエがゲストカンパニーとしてツアー) 2017年4月6日、7日

基本的には古典中心ですが、ウィールドンの「アリス」を入れるところがちょっと新しいというべきでしょうか。「アリス」はマリインスキー・バレエのレパートリーにも入ります。

「スパルタクス」を上演するところが、ゼレンスキーが芸術監督になってロシア色が濃くなる部分ですね。そしてゼレンスキーが芸術監督を務めるもう一つのカンパニー、モスクワ音楽劇場バレエがミュンヘンにツアーします。ルドルフ皇太子役を演じているセルゲイ・ポルーニンが出演すると思われます。ポルーニンは、ミュンヘンにもゲストする可能性がありますね。

なお、毎年4月にミュンヘン・バレエはバレエフェスティバルを行います。その時期に、新制作作品の初演とゲストカンパニーの登場、日替わりで様々な作品の上演があります。今年は4月3日から11日です。

3/21 NHK-BSプレミアム[英国ロイヤル・バレエ・ガラ」「アンナ・カレーニナ」放映

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3月21日(月)【3月20日(日)深夜】午前0時~3時30分 NHK-BSプレミアムのプレミアムシアターでロイヤルの「カルメン」ほか、そしてマリインスキー・バレエのロパートキナ主演アンナ・カレーニナの放映があります。

(一度お知らせしていますが、リマインダーです)

http://www4.nhk.or.jp/premium/

英国ロイヤル・バレエ・ガラ(0:02:30~1:59:30)

1.「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ
<振 付>ジョージ・バランシン
<音 楽>ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
<出 演>
ヤーナ・サレンコ
スティーヴン・マックレー
2.「牧神の午後」
<振 付>ジェローム・ロビンス
<音 楽>クロード・ドビュッシー
<出 演>
サラ・ラム
ワディム・ムンタギロフ
3.「ヴィサラ」
<振 付>リアム・スカーレット
<音 楽>ローウェル・リーバーマン
<出 演>
ラウラ・モレーラ
マリアネラ・ヌニェス
平野 亮一
崔 由姫(チェ・ユヒ) ほか
4.「カルメン
<振 付>カルロス・アコスタ
<音 楽>ジョルジュ・ビゼー
<編 曲>マーティン・イェイツ
<出 演>
カルメン:マリアネラ・ヌニェス
ドン・ホセ: カルロス・アコスタ
エスカミーリョ: フェデリコ・ボネッリ
運命:マシュー・ゴールディング
スニーガ: トーマス・ホワイトヘッド
英国ロイヤル・バレエ団
<合 唱>コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団
<管弦楽>コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
<指 揮>エマニュエル・プラッソン(1~3)
マーティン・イェイツ(4のみ)
収録:2015年11月12日 コヴェントガーデン王立歌劇場(イギリス ロンドン)

マリインスキー・バレエ公演
「アンナ・カレーニナ」(2:01:30~3:30:00)

<演 目>
バレエ「アンナ・カレーニナ」(全2幕)
<原 作>レフ・トルストイ
<振 付>アレクセイ・ラトマンスキー
<音 楽>ロディオン・シチェドリン
<出 演>
アンナ・カレーニナ:ウリヤーナ・ロパートキナ
アレクセイ・カレーニン:ヴィクトル・バラーノフ
ヴロンスキー伯爵:アンドレイ・エルマコフ
シチェルバツキー公女(キティ):スヴェトラーナ・イワノワ
ステパン・オブロンスキー(スティーヴァ):ドミートリ・プハチョフ
マリインスキー劇場バレエ団
<管弦楽>マリインスキー劇場管弦楽団
<指 揮>ワレリー・ゲルギエフ
<舞台美術・衣装>ミカエル・メルビー
<照 明>ヨーン・メリン
<演 出>マーティン・トゥリニウス
収録:2014年3月4、5日 マリインスキー劇場(ロシア サンクトペテルブルク)

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なお、翌週には、WOWOWで「ロシア名門マリインスキー・バレエの世界」として、「イワンと仔馬」「眠れる森の美女」の放映もあります。
http://www.wowow.co.jp/pg_info/detail/107891/

<ノンフィクションW>
ワガノワ名門バレエ学校の秘密〜くるみ割り人形への110日〜
3/26(土)よる 5:15 〜 (WOWOWライブ)

イワンと仔馬
3/26(土)よる6:00 (WOWOWライブ)

眠れる森の美女
3/26(土)よる8:15 (WOWOWライブ)

3/27 YUKIO SUZUKI Projects【warp mania #1】

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【振付・演出】鈴木ユキオ

SIDE-A 「微分の堆積」 
【出演】 安次嶺菜緒 堀井妙子 赤木はるか 新宅一平 五十嵐結也 鈴木ユキオ
SIDE-B 「春の祭典」「Yoyesに捧ぐ」
【出演】 鈴木ユキオ 安次嶺菜緒

http://setagaya-pt.jp/performances/20160325suzukiyukio.html

トヨタコレオグラフィーアワード2008次代を担う振付家賞を受賞し、パリ市立劇場Danse Elargie 2012ファイナリストに選出されるなど国内外で評価される鈴木ユキオ。シアタートラムでの今回の公演は、2015年7月「ダンスが見たい!17」(d-倉庫)で初演された「春の祭典」の再演と、新作 「微分の堆積」の2本立て。

「春の祭典」「Yoyesに捧ぐ」

「春の祭典」ほど多くのダンス作品が振付けられた音楽もないのではないだろうか。実際、こちらの「春の祭典」が初演された「ダンスが見たい!17」は、「お題:春の祭典」として、様々な振付家が日替わりで「春の祭典」にダンスを振付けるという趣向であった。しかし「春の祭典」のダンス作品はついつい似たようなイメージの作品になりがちである。鈴木ユキオさんの「春の祭典」は従来の作品とは違った切り口でありながら、「春の祭典」という、春を渇望する儀式とは何だったのだろうか、世界を支配する暗い「冬」は何を奪い、何を作り出そうとしているのか(パンフレットより引用)、ということを問いかける作品となっている。「プラハの春」も発想の出発点となったのだろう。

舞台の前方に、紙製のファイルボックスが壁のようにたくさん積み上げられてスクリーンとして機能している。このファイルボックスに映し出されるのは、20世紀の人類の歴史とダンスの歴史。戦争や災厄や革命などの映像に混じって、デニ・ショーンや、ピナ・バウシュの「春の祭典」などのダンス映像も。この積み上げられたファイルボックスを鈴木ユキオさんが一つずつ持ち去って、両脇に整然と並べていく。壁がなくなっていくと映像は舞台後ろに映るようになるという趣向。ついにすべてのファイルボックスが両脇へと移動してスクリーンがなくなる。マイクを持った鈴木さんが、チェコの資料館で撮影された映像も、この中には含まれていると話す。ファイルボックスの中には、著名な舞踊家や振付家について書かれた記事のプリントアウトが入っている。そしてファイルボックスの一つを倒すと、ドミノ倒しのようにそれらは倒れて行って、ついでに鈴木さんはすべてのファイルボックスを蹴って、舞台脇へと押しやってしまう。「壁を壊すこと」が、ダンスの創り手として目指してきたことだと語りながら。

「春の祭典」後半の音楽と共に、鈴木さん、そして毛皮のコートをまとった安次嶺菜緒さんのダンスが始まる。二人とも野生を感じさせるような、非常にパワフルでありながら、ひりひりとした緊張感がある体当たりのダンス。「Yoyesに捧ぐ」のYoyesとは、スペインの政治活動家マリーア・ドローレス・ゴンサーレス・カラダインの別名だという。バスク祖国と自由(ETA)の指導者だったが、組織脱退後にETAの活動家によって殺害された。ダンスの緊張感が高まり、音楽もクライマックスに近づいたところで、二人とも上着を脱ぎ棄て、赤く塗られた裸の上半身となる。安次嶺さんは、ファイルボックスを頭にかぶったり、舞台前方に置いてあったミニチュアの動物を持ったりする。生き物である人間の生の本能を感じさせる、凄まじいパワーを感じさせる表現だった。音楽が終わってからも、作品は続いている。ほかの「春の祭典」にあるような、音楽の終わり=生贄の死ではなくて、生の営みが続いていることを感じさせた。

革命家が、人々が、そしてダンサーが夢見た「春」というのはいったい何だったんだろう。ファイルボックスが作り上げた「壁」を崩すこと、破壊の後の、死の後の再生―「春」を力強く感じさせる作品だった。


「微分の堆積」 

白い床の上に映える、シンプルだけどカラフルな衣装をまとった5人のダンサーたち。一見ユニゾンのように動いたり、伸びやかに動いているようでキラキラした若者たちにみえるけど、その一方で、時に床に這いつくばったり、ゆがんだような動きを見せたりしていて、どこか何かが違っているかのように見える。この中のうちの何人かは、実はこの世にはもういない人たちなのだろうか。

そこへ鈴木ユキオさんが朗読する、スヴェトラーナ・アレクシェービッチ(ノーベル賞受賞作家)の「チェルノブイリの祈り」が聞こえてくる。チェルノブイリの原発事故に遭遇して、平和な日常が破壊されてしまった人々のダイアローグが淡々と綴られている。圧倒的な悲劇と破壊によって、理不尽な悲劇によって引き裂かれてしまったけれども、それでも日常を生きていく。そんな中でも人生の中には、一瞬でも美しさがあったり心打たれる瞬間がある。ギャヴィン・ブライアーズの「Jesus never failed me yet」が消え入りそうな小さな音量で流れている。「チェルノブイリの祈り」のダイアローグは衝撃的な内容なのだけど、目の前に展開されているダンスは、それにも打ち勝てるような儚くも凛とした美しさで、この世界に生きていくことの意味を静かに問いかけていた。

鈴木さんのプロジェクトに参加し続けている3人の女性ダンサーたちの雄弁さ、表現力に加えて、今回二人の男性ダンサーが参加したことが、異化作用的な効果があってアクセントとなっていた。白い床に陰影を投げかけたり、背景に影や光の効果を与える照明も美しかった。破壊、死、その後の再生と希望というテーマが、この2本立てに貫かれて鮮烈な記憶を刻み付けてくれる公演だった。

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